文化祭二日目
文化祭開始の時間となると、生徒がぞろぞろと俺たちのクラスに流れ込んできた。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
俺たちのクラスは決まりとして、開始直後の挨拶は接客担当の生徒が一列に並んで行うことになっている。挨拶を済ませればそれぞれ客の元に向かってテーブルへと案内していく。
席が3分の二ほど埋まると、受付役をしている男子生徒ーー飯山尚樹が「開店直後から人来すぎじゃね?」と驚きを隠せないといった様子で目を開いていた。
これから外客も訪れるので、この調子ならば昨日よりもさらに忙しくなるはずだ。
次々と注文が飛び交い、それを裏で待機している調理担当に伝えに向かう。その間、生徒の視線の先にいたのはやはり優奈だった。
男子は熱烈な視線を、女子は羨望するような視線を向けている。それだけ執事服姿の優奈は誰もを魅了するものを持っているということなのだろう。
彼女は笑顔で接客を行っていて、生徒はそれに引き込まれるかのように見つめていた。
少し時間が経過すると、生徒以外に私服姿の外客も見受けられるようになる。程なくするとテーブル席が全て埋まり、飯山がストップをかけた。
廊下には少し待ちの列が並ぶようになる。
「おかえりなさいませ。ご主人様。席までご案内いたします」
テーブル席の片付けを手早く済ませて、俺は教室に入ってきた二人で来店してきた女子をその席に案内する。見た目からして俺たちと同年代くらいといったところだろうか。
「おすすめってありますか?」
メニューに視線を落としていた一人の女子が顔を上げてそう尋ねてくる。
「そうですね。女性だとみかんやバナナなどの果物をふんだんに使用したフルーツサンドに種類が豊富なジャムサンドが大変人気となっております」
この二つの材料の消費が激しかったのは、昨日来店した女子生徒のほとんどがフルーツサンドとジャムサンドを注文していたからだ。
新鮮でジューシーな果物に甘いクリームがたっぷりと挟まれていたり、極めてシンプルで美味しいのが人気を呼んでいるのだろうか。
「じゃあフルーツサンドを一つ。それに暖かいカフェオレで」
「わたしはいちごのジャムサンドに、飲み物は同じもので」
俺の言葉を聞いて少し考えた彼女たちは、決まった注文を俺に伝える。
「かしこまりました。ご注文の品が届くまで少々お待ちください」
なるべく自然体を意識した笑みを見せてそう言うと、俺は裏へと姿を消した。
「フルーツサンドといちごのジャサンド一つずつ。飲み物は暖かいカフェオレ二つね」
「はーい」
他の注文を捌きつつ、調理担当である家庭部の生徒は返事をする。二日目とあってか、スピード感に少し慣れた様子だった。
先にカフェオレを二つ運び、裏の方へと戻って彼女たちが注文した品を受け取って再び運びに向かった。
「お待たせしました。フルーツサンドといちごのジャムサンドになります」
そう言って、目の前にサンドイッチが乗った皿を目の前に置く。「美味しそ〜!」と言う彼女たちに俺は柔らかく微笑みを浮かべた。
「それでは、ごゆっくりとお楽しみくださいませ」
俺は小さく会釈をしてこの場を去った。
ちょうど空いたテーブルの片付けを行なって、裏に設置しているゴミ箱の方へと向かうと、ちょうど優奈がいた。彼女もゴミ捨てを行っていたようでこの場には二人しかいなかった。
「お疲れさまです」
「お疲れ………ってまだ三十分も経っていないけどな」
やはり学校の生徒ではない相手の接客をするのは、普段より気を張ってしまい疲れる。だがそれが一番言えるのは優奈だ。外客が訪れるようになってから、一番彼らの応対をとっているのは優奈だからだ。表情こそ出さないようにしているが、息をそっと吐いていた。
「まぁ優奈は人気で指名も多いから大変だろうけどじきになれるだろうさ」
俺は励ますようにそう言った。
「……良くんだって女の子から人気あるじゃないですか。さっきだって……」
「ん?なんて?」
消え入りそうな声で呟いた優奈の声が聞き取れず、俺は聞き返した。
「いえ、なんでもありません。お互いに頑張りましょう」
何やら不機嫌そうにそう言葉を残して、この場を去った。
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