表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/352

こぼれた本音と恥じらう姫

 スーパーに着いた俺たちは夕飯で野菜や肉、魚類をかごの中へとしまう。

 それが済めば、今度は明日の文化祭で使用する食材や調味料の購入である。


 女子生徒から貰ったメモ用紙にはみかんやバナナやホイップクリーム。ブルーベリーやいちごやチョコジャムなど。俺たちが提供しているサンドイッチの材料において欠かせないものばかりだ。


 文化祭で使用する食材は、斗真から預かったクラスの予算で購入するため、夕飯用の食材とは別のかごの中に入れた。


 必要なものは全て揃ったためあとは会計してもらうだけなのだが、パートのおばちゃんがレジ打ちしているところだけは避けなければと、レジの混み具合を見計らって列に並び、なんとか他の従業員さんのところで会計を済ませることができた。


 それぞれ持っているエコバックに夕飯用と文化祭用の食材を分けて入れてスーパーを出た。


☆ ★ ☆


「良くん。梨花さんのクラスのお化け屋敷は行きましたか?」


 彼女の自宅で夕食を食べていたところ、優奈は箸を進める手を止めて尋ねてきた。


 ちなみに今日の夕食は鮭の塩焼きを主食として、白米と豆腐とわかめとねぎの味噌汁。そしてサラダと比較的ヘルシーな献立である。


「行った行った。クオリティ高かったよな」


「それに仕掛けもかなり凝っていましたよね。お化け役の生徒の人のメイクも気合が入っていましたし」


 優奈もお化け屋敷の完成度の高さに感服したような様子を見せていた。


「優奈はお化け屋敷とかホラー系は大丈夫なのか?」


「あまり得意ではないですね。今日のようなことがない限りお化け屋敷には滅多に行きませんし、ホラー系の映画はあまり観ないようにしていますから。平野さんたちと行ったお化け屋敷も、みんな揃って悲鳴をあげましたし」


 そういった系統が苦手な人はそうなるよな。

 真司と秀隆の悲鳴をあげながらお化け屋敷を出ていく姿を思い出す。流石にあれはオーバーリアクションすぎるような気もするのだが。


「それにしても梨花さん。どこにいたんですかね?」


 斗真が瀬尾さんに尋ねたとき、それを教えては面白くないと言って答えを言わずにいた。お化け屋敷を怖がり楽しみつつも、彼女の姿を探していたのだろう。


「俺は分かったよ。瀬尾さんが何役でみんなを驚かしていたか」


「本当ですか?」


「うん。出口付近の甲冑あっただろ。あの中の人が瀬尾さんのはずだ」


 一応、俺も瀬尾さんがどこにいるのかは探しながらお化け屋敷を歩いていた。まさか西洋風の甲冑の中に潜んで驚かしてくるとは予想だにしていなかったのだが、そこは小学校からの付き合いで声を聞いた瞬間に分かった。


「あれですか……あそこは本当に驚きましたね……」


 優奈はそう言って乾いた笑みを浮かべる。

 兜の隙間から見える恐怖に染まったその表情を見て、瀬尾さんは小さく笑っていたに違いない。


「明日は俺と行くか?」


「絶対に嫌です」


「そうか……俺と行動するのが嫌なのか……」


「ち、違います!良くんと行動するのが嫌というわけじゃなくて、お化け屋敷に入るのが嫌なんです!」


 分かりやすく項垂れてみせる俺を見て、優奈は弁解する。少しからかう程度のつもりだったのだが、慌てふためく彼女を見ると悪戯心が湧いてきて、もう少し続けてみることにする。


「本当に?」


 捨てられた仔犬のようなつぶらな瞳を浮かべる。


「本当です。今日、良くんと文化祭を回ることができてとても楽しかったですよ。こうしてずっと一緒にいられたらいいなってそう思ったくらいです」


 その言葉が耳に響き、俺は思わず呆けた表情になってしまった。

 思ったことをそのまま言ったのだろう。少し遅れて自分が何を言ってしまったのかを理解した優奈はみるみる頬を紅色へと変化させていく。


 楽しいと言ってくれたことは嬉しい。事実、俺も優奈と文化祭を過ごした時間はあっという間だった。

 しかしその後の彼女の言葉がどうしても頭の中にこびりついて離れない。振り払おうとすると余計に意識してしまって、熱で焼かれているかと思うほどに顔が熱くなっているのを感じた。


「じ、じゃあ明日のシフト終わったら一緒に回ろうぜ。まだ見れていないところもあるだろうし。どうだ?」


 からかうという、当初の目的が頭から飛んでしまった俺は、優奈を明日も一緒に行動しようと誘ってみる。


「はい……一緒に回りましょう……」


 熱が引いていない赤く染まった頬のまま、優奈は小さく呟いて俯いた。恥ずかしがりながらもはにかんだ優奈を見るのは久しぶりなような気がして守ってあげたくなるような、ずっと側にいたいという気持ちに襲われる。


 ドクンドクンと、心臓の鼓動が速くなる。

 胃の奥から熱くなって、血が沸騰しそうなほどだ。


「優奈」


 気がつけば目の前の少女の名を口にしていた。

 俯いていた表情を上げて、少し潤んだ瞳で俺を見つめる。


「あ、いや……味噌汁のおかわりもらってもいいか?」


 咄嗟に誤魔化してはみたものの、表情を見ればバレてしまうだろう。だが優奈もさっきの言葉が影響してか、気がついていない様子で俺が差し出した汁椀を受け取って、よそいにむかった。

お読みいただきありがとうございます。

ブクマ、評価等いただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ