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買い出し

 その後も優奈と文化祭を回っていた。

 真司や秀隆とはひたすら食べたりアトラクションを体験したりなど動き回っていたのだが、優奈とは演劇が終わったあと吹奏楽部の演奏を聴いたり、美術部が描いた絵を見て回ったりなどというスケジュールだった。


 男友達と騒いで遊ぶのもとても楽しかったが、好意を持っている少女と落ち着いた空間で何かを鑑賞するというのもとても有意義な時間であった。

 

 時間は午後三時半を迎えて、文化祭一日目の終了となる。生徒は各クラスに集合して軽く片付けを行ったり明日の予定の確認を行っていることだろう。


 俺たちのクラスも帰りのホームルームを終えて、中村先生が教室から出たあと、実行委員である斗真が教壇の立った。

 

「とりあえず一日目お疲れさま。何事もなく終えられて実行委員としてホッとしている。この調子で明日も頑張っていこう」


「斗真ー。俺たちのクラスの売り上げはー?」


「早く教えてくれよー」


 文化祭では一日ごとの売り上げ上位五クラスが掲示板に表示される。だが表示されるのはもう少しあとで、先に実行委員の生徒のみに口頭で伝えられている。

 売り上げが気になって待ちきれない生徒が斗真に言葉を飛ばす。おそらく殆どのクラスが似たような状況になっているだろう。


「いいか?耳の穴かっぽじいてよーく聞いとけよ」


 クラスメイトたちがごくりと唾を飲み込む。斗真が咳払いをして小さく息を吸って、


「なんと!俺たちのクラスは全学年で三位!一年生の出し物の中ではトップだ!」


 教室内が歓喜の声に包まれる。  

 確かに他のクラスの出し物に比べると、俺たちのはかなり特殊というか珍しいというか。男女逆転喫茶店というまず話題になりやすい出し物だろう。


 もちろんそれだけではない。提供されるサンドイッチや飲み物も大変好評だったそうだ。家庭部の生徒たちも話し声からそう言った声が聞こえてきたらしい。


 先ほど彼女らは俺と優奈の元へと来て、そのことを教えてくれ、「メニューを一緒に考えてくれてありがとう」と感謝の言葉を述べられた。


 力を合わせて一生懸命考えたものが、目に見える形として評価されたのがとても嬉しかったのだろう。

 「おう」と俺は短く返して、「あと一日。頑張りましょうね」と優奈が優しく声をかけていた。

 

「みんな疲れているだろうけど、これから清掃と明日の準備やるぞー。調理担当と裏方は調理場の清掃と明日の食材の準備。接客担当は教室内の掃除とゴミをまとめること。それが終わったら各自帰ってもいいからな。明日は外客も来るから恥ずかしくないように完璧な状態でお出迎えしようぜ」


「「はーい」」


 そう返事すると、彼らは立ち上がって振られた仕事をこなしていく。

 調理担当ーー家庭部の生徒が中心となって裏方役の生徒に指示を出して片付けなり、食堂の冷蔵庫へと走って行き明日の食材が足りるかどうかの確認へと向かった。


 接客担当である優奈は教室内の清掃のため、ずれたテーブル席を元の位置に調整したり、その上を念入りに拭いていた。

 俺もほうきで床に落ちている埃やごみを掃いたあと、隅々をモップがけしていく。


 俺と優奈はお互いに綺麗好きであり、妥協はしない。気になるところは徹底的に掃除をしてしまう。一人暮らしをするようになってからはそれがより強くなってしまい、自分が納得するまで延々と掃除してしまうのだ。


 斗真も言っていたが、明日は外客が来る。

 恥ずかしくない状態でお出迎えするためにも、やれるべきことはやっておくべきなのだ。


 他の生徒も軽く談笑を交わしながらも、今日出たゴミを袋にまとめてゴミ捨て場にまで持っていっていた。


☆ ★ ☆


「まぁこんなもんかな」


 俺は額にほんのりと浮かんだ汗を拭った。床は埃の一つも見当たらないほど綺麗で、照明によって眩しく反射している。

 優奈の方も終わったようで、吐息を漏らしていた。


 ひとまず振られた仕事を終えたため、クラスメイトたちは身支度を整えて帰宅していく。

 一応、斗真に他に仕事があるか尋ねようと彼に視線を向けると、一人の家庭部の生徒と何やら話をしていた。

 

「斗真。何かあったのか?」


「あぁ。実は提供するサンドイッチの材料が少し足りなくってな」


「予想以上の繁盛だったからね。嬉しい誤算なんだけど」


 斗真は苦笑いを浮かべて、家庭部の女子生徒はそう言って肩をすくめた。


 予想以上の売り上げだったのは、斗真や彼女だけではなく誰しもが思っていることだろう。

 売り上げが三位ということは、それだけサンドイッチや飲み物が売れていたということだ。


「何が足りないんだ?」


「フルーツサンドとジャムサンドに使用するもの全般。とにかくこの二つがバカ売れ中でな」


「なるほどな。ちなみに予算の方は余りあるのか?」


「そこはギリ大丈夫だ。メイド服をオーダーで注文してたらヤバかったけどな。クラスで余った予算は中村先生が管理しているから、相談したらなんとかなると思う。問題はそれを買ったあとどこで保管しておくかなんだよな。スーパーに寄ってから学校に戻っても流石に食堂や家庭科室の鍵は閉まっているだろうしな」


 斗真は困ったように眉を顰めて、頭を抱える。

 買い出しをするまではいいのだが、それを誰かの家で保管してもらうというのは気が引けるのだろう。


「なんなら俺が買ってきて、そのまま俺ん家でしておこうか?ちょうど今日晩飯の買い出ししようと思ってたからそのついでで」


 一人暮らしだから他の生徒の家の冷蔵庫よりも幾分か余裕もあるし問題ないだろう。


「え?いいのか?」


「あぁ。構わないぞ」


「マジで助かる。サンキューな」


 申し訳なさとありがとうと感謝の気持ちが混じった表情で、斗真は手を合わせた。


「それじゃあ、今足りないものをメモ書きして渡すよ」


「了解」


「それじゃ今から先生のとこ行ってきて話つけてくるから少し待っててくれ」


 そう言って斗真は駆け足で職員室へと向かう。

 女子生徒もメモ用紙に足りないものを書き出して、「お願いします」と言って俺に手渡した。


 しばらくすると、斗真が教室に戻ってきた。

 その手には白い封筒が握りしめられていて、それを俺に渡す。


「確かに受け取った。それじゃあな」


「おう。頼むな」


 その封筒を鞄の中にしまって斗真と言葉を交わすと、優奈の元へと向かう。彼女も他のところの片付けの手伝いをしていたようで、それがちょうど終わったようだった。


「柿谷くん。もう帰りますか?」


「あぁ、明日の文化祭で出す食材が足りなくなって買い出しをしないといけなくてな。今日の夕飯の買い出しついでに済ませるから、少し付き合ってくれ」


「分かりました」


 それぞれ帰り支度を済ませ、俺たちは校舎を出てスーパーへと向かった。

お読みいただきありがとうございます。

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