演劇
投稿遅れてしまいすみません!
体調少し崩していまして……
休憩後もそつなく接客をこなして、瞬く間に二時間が経過した。
交代時間となり、次のシフトのクラスメイトたちが教室内に入ってきた。
とりあえず一日目のシフトを乗り越えられたことにホッと吐息を漏らす。しかし一日目でこの忙しさ。明日からは生徒だけではなく外客もこの学校に足を運びに来る。大規模で行なっている青蘭高校の文化祭なだけあって、相当の人数が来るとみていいだろう。
「カッキー。お疲れー」
「お疲れさま」
執事服姿の平野さんと東雲さんが俺の元に来ると労いの言葉をかけた。二人とも肩までに伸ばした髪をちょうど良い高さで一つ結びにしていた。
「ん。ありがと」
「ここの様子気になって昼過ぎに覗いてたんだけど大盛況だったね」
「斗真や天野さんがいたからだろ」
生まれつき持ったその美貌と上品な佇まいからクラスの姫と評される優奈。クラスのまとめるだけのリーダーシップとカリスマ性を兼ね備えて、誰とでも気兼ねなく接することができ人脈が広い斗真。その二人に引き寄せられるようにここに足を運ぶのは初めから目に見えていた。
昼どきのあの混雑には驚きを隠せなかったが、何事のトラブルなく平野さんたちに引き継ぐことができたことは誇っても良いことだろう。
とは言っても今日は生徒のみだったから。外客も来るとなれば悪ノリで絡んでくる輩もいるだろう。
「あ、天野さん!」
裏で片付けを行っていた優奈の姿を確認した東雲さんが声をかける。その声に反応した優奈はこちらを見ると、こちらに歩み寄ってきた。
「大変だったよね。お疲れさま」
「ありがとうございます。平野さんと東雲さんもシフト頑張ってください」
「うん。ありがと」
三人は頬を緩ませて会話をしていた。
二時間という長いようで短い時間は、三人の距離をさらに縮めてくれたようだ。
「それじゃああとは任せてね」
平野さんは軽く自分の頬を二回叩いて、東雲さんはネクタイをもう一度締め直す。
「頼んだ」
そう言葉を残して、俺と優奈は教室を出た。
更衣室に向かっている最中も、何かと生徒たちの視線は感じていて、それはほとんど優奈に向けられている。『姫』と呼ばれている彼女の執事服姿なんて今後見られることはない。今のうちに目に焼き付けておくと言わんばかりに、目を開いて見つめる生徒もしばしば。
彼らに視線を移せば、うっとりしていた目から嫉妬の目へと切り換えて俺を睨みつけてくると、すぐに視線を前に戻して肩をすくめながら苦笑いを浮かべた。
「このあとは何か予定はありますか?」
「いや、特にはないな」
真司と秀隆とは午前中で別れてしまった。二人がどんな出し物をしているか聞きそびれてしまったが、午前中フリーだったということは、午後からは何かしらの仕事が入っているに違いない。
「じゃあ着替え終わったら付き合ってもらっていいですか?」
「どこか行きたいところでもあるのか?」
「はい。このあと体育館で三年生のクラスが演劇をやるそうなんです。少し興味があって」
「分かった。着替えたら向かおうか」
予定を立てているうちに更衣室にたどり着くと、扉を開けて身につけていたメイド服をロッカーの中にしまっていく。
いつもの制服に着替え直して身なりに問題ないか立ち鏡で確認。ウィッグを被っていたせいか、髪の毛が変な癖がついてしまっていたため、軽く手で直す。
着替えを終えて更衣室を出ると、優奈が出てくるまでパンフレットに目を落としていた。
「お待たせしました」
しばらくすると優奈が姿を見せる。
お団子ヘアーにしていたクリーム色の髪は下ろしており、先ほどまでの凛としていて清げな雰囲気から一転、穏やかで柔らかな笑みをこぼす優奈はまるでコスモスのように可愛らしかった。
「大丈夫。それじゃあ行こうか」
「はい」
俺たちは小さな歩幅でゆっくりと体育館へと向かった。
☆ ★ ☆
体育館には既に生徒が集まっていて、用意していた観客席は三分のニほど埋まっていた。開演時間までまだ時間があるのだが、始まってしまえばさらに生徒が集まってくるだろう。俺たちは空いている後方の方の席へと腰を下ろした。
待機していると、カーテンが閉められ体育館を照らしていた照明は殆ど落とされる。学校内に設置されているスポットライトの近くには照明係と思われる生徒がスタンバイしている。開演時間はもう間もなくだろう。
ナレーション役の生徒が一礼して、進行を進めていく。どうやら今回の演目は『シンデレラ』のようだ。
幕が上がると、スポットライトが演技している生徒を強く照らす。三人の生徒が豪奢なドレス姿で蔑むような目を浮かべている。もう一人の生徒は古びれた服に身を包み、この場に居ずらそうに目を逸らしていた。
「ん?あれ日比野先輩じゃん」
悲しげな表情を浮かべる生徒を見て、俺は思わず小声で呟いた。体育祭でお世話になった先輩だ。つまり彼女がシンデレラ役を演じているのだろう。主役を演じているだけあって中々の演技力だ。二人の義姉役と継母役の生徒の演技も日比野先輩に負けず劣らず。
物語は進んでいき、魔法使いによって純白のドレス姿に身を包んだシンデレラは舞踏会へと出向いて王子様と結ばれると、原作に忠実なストーリーで幕を閉じた。
「いやー。面白かったな」
拍手を送りながら、俺は言った。
やはり主役の日比野先輩の演技力は目を惹くものがあった。特にドレス姿の彼女を見た生徒は、誰しも目を奪われただろう。
「そうですね」
優奈も同様の意見のようなのだが、声音がいつもより数トーン低かった。
「ん?どうかしたのか?」
「いえ。何もありませんよ」
穏やかな表情でそう言う優奈だが声のトーンは変わらない。何故機嫌を損ねてしまっているのか分からず、俺は首を傾げることしかできなかった。
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