メイド服に身を包んで
キリがいいため、今話は短めです。
「なに!?最後のやつ!?」
お化け屋敷を出て廊下を少し走り抜けたあと、二人は最後に見た甲冑を思い出す。走ったことによるものか、それとも恐怖によるものか、真司と秀隆の額には汗が伝っていた。
「お前らどこまで逃げてんだよ」
先にお化け屋敷から出た二人に追いついて、俺は言った。
「いやいや。出口に辿り着いて安堵していたところをあの西洋風の甲冑が目の前にいたらこうなるだろう」
「逆になんで良介がそこまで冷静なのかどうか分からん。怖くなかったのか?」
真司の言い分に秀隆が便乗するように言葉を重ね合わせて首を激しく縦に振って、俺に尋ねてくる。
「怖くはなかったな。びっくりはしたけど」
昔は両親とお化け屋敷に行ったり斗真とホラー映画を観に行ったりしたのだが、みんなが悲鳴をあげるほど怖いとは思わなかった。
恐怖の感情というよりは本当に良く作りこまれているなと、感心する感情のほうが強かった。
「俺そろそろシフトの時間だから着替えと準備してくるわ。誘ってくれてありがとうな。真司、秀隆」
「おう。良介がやってる時間帯に必ずメイド服拝みに行ってやるからな」
二人と別れると、俺は足を更衣室に向けて行き交う生徒の間をすり抜けるように向かった。
しばらく歩くと人気の少ない廊下へとたどり着く。その先にある更衣室のドアを開くと、既に何人かの生徒がメイド服に着替え始めていた。
その中に斗真の姿もあり、彼は既に着替えを終えて、鏡の前で頭に乗せるカチューシャの位置を確認していた。
鏡越しに俺に気がついたのか、振り返ると爽やかな笑みを見せる。
「斗真来るの早くね?」
そう言いながら、俺はロッカーを開けてネクタイとワイシャツを脱いでいく。
「そうか?……まぁ、そうかもな。やっぱ気合いが入るだろ」
「気合いが入りすぎて空回りしないようにな」
ふんと鼻を鳴らす斗真に苦笑いを浮かべながら、メイド服に身を包んでいく。更衣室にある立ち鏡の前に立つと、その場でくるりと一回転して身なりに問題がないかを確認。
栗色のウィッグを被って、その上にカチューシャを乗せる。
「おー。可愛いメイドさんだこと」
「やめろ」
茶化す斗真に鋭い目を向ける。
斗真も優奈も可愛いとは言うが、自分では本当にそうは思わないのだ。「ごめんごめん」と笑って謝る斗真に、思わずため息を漏らした。
「よし、みんな準備できているな。時間も時間だしそろそろ行こうか」
スイッチを切り替えた斗真が、更衣室で準備を済ませて談笑をしている生徒に声をかける。彼らも「頑張ろうぜ」と互いに声を掛け合っていた。
更衣室を出た俺たちは、自分たちの教室へと向かう。すれ違う生徒や先生は皆同じように目を大きく開いていた。メイド服というただですら見慣れていない制服を、男子が身につけているのだ。目立ってしまうのは仕方がないだろう。
教室のドアを開けると、接客担当の生徒が慌ただしく動いていた。やはりこれから昼時の時間帯に入るだけあって、人の出入りが激しくなっている。
女性陣は既に教室に待機していた。
「お疲れさん。ここからは俺たちがやるよ」
シフト交代の時間になったのを確認して、斗真が接客を行なっていた生徒に声をかける。彼らは少し疲れたような表情を見せながら、「おう。頼むわ」と言い残して、教室から出て行った。
「頑張りましょうね」
優奈がスッと近くに寄ってきて、囁くように言う。俺も「おう」と言葉を返して、穏やかな笑みを見せた。
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