お化け屋敷
「ご馳走様でしたー」
「ありがとうございましたー。また足を運んでウチのクラスの売り上げに貢献してくれよー」
島田先輩と言葉を交わして、俺たちは教室を出た。満腹にならないほどに腹を満たすことができたので、昼のシフトも問題なく動くことができるだろう。
「お腹も満たせたことだし、次はどうするよ?」
秀隆が時計を見上げて時間を確認する。
着替え時間込みで考えると、あと一つ出し物を見て回ることができる。
「なぁ。一つ行きたい場所があるんだけど……」
だとしたら行きたい場所はもう決まっている。
二人を連れて、俺は階段を降りた。
☆ ★ ☆
「お化け屋敷か」
教室の前に設置されている、悍ましさを感じさせるような筆跡で書かれていている看板を見た真司が呟いた。
廊下には暗いカーテンで覆われていて、一切光が入らないようになっている。
「あぁ、この時間帯は瀬尾さんが中にいるらしくてな。ぜひ来てくれって誘われてるんだ」
「いいね。行こ行こ」
少し長めにできた列の最後尾に並び、順番が来るのを待つ。中からは「キャーッ!!」と叫び声が聞こえてくる。
やがて俺たちの順番となってドアの前に立つ。その前には受付役であろう生徒が座っていた。全身を黒いローブで覆っている。フードを深く被っているため表情を読み取ることができない。
入ってもいいと言う合図なのか、スッと左手をお化け屋敷の方へと向けた。どうやら話せない設定にしているらしい。
「んじゃ、入るか」
「おう」
俺たちはお化け屋敷の中へと向かった。
三人が中に入ったのを確認して、受付役の生徒がドアをピシャリと閉じる。辺りは真っ暗で、道標として設置しているであろう淡い光のみがこの場を照らしていた。
「とりあえず進もうぜ」
俺が先頭に立って、足を一歩前に踏み出す。二人は俺の後ろをついてくるような形で後を追った。
通路はジグザグになっている。教室内の机を組み上げてテープやロープで崩れないようにガッチリ固定。その上に段ボールを貼り付けているといった感じか。その段ボールはペンキかスプレーで黒く塗りつぶされている。目は少し慣れてきたとはいえ、段ボールで作られた壁に当ててゆっくりと歩き出す。
しばらく歩くと、少し違和感があった。
「ここ歩くとき気をつけろ。足場に何かしら仕掛けがされている」
「マジかよ……」
「本当だ。なんだこれ、柔らか」
固い教室の床を歩いていたはずなのだが、この場だけ柔らかくなっているのだ。おそらく毛布か体育の授業で使用するマットを敷いているのだろう。足場から緩急をつけてくるとは相当時間をかけて作り込まれているのだろう。同じ一年生が作ったとは思えないほどのクオリティの高さである。
「渡ったか?」
俺は振り返り、尋ねる。
「なんとか渡ったぞ」
一番後ろを歩いている真司が柔らかい足場を渡り終えて、もう既に疲れ切ったかのような様子で呟いた。俺は再び歩み出そうと前を向いた瞬間ーー
目の前には白いシートのようなものを被った生徒がいて、「うわああぁぁぁぁ……」とうめき声を上げた。
「うわあああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」
「ぎゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」
真司と秀隆が悲鳴を上げた。
俺もび「うおっ」と声を漏らす程度に驚いたのだが、それ以上に二人の叫び声に驚いてしまった。
「大丈夫か?」
「びっくりした……」
「同じく……」
「とりあえず前に進まないと出られないから行くぞ」
真ん中を歩く秀隆が、俺のシャツを握りしめる。はぐれないようにするためなのだろうが歩きづらい。それに同性にこんなことをされてもときめきもクソもなかった。
☆ ★ ☆
この後も、落武者の格好をした生徒やゾンビ風にメイクされた生徒を見て、真司と秀隆の悲鳴は響き渡った。
「ほら。もうすぐ終わりだぞ」
目の前の一本道の先には、外の光が差し込んでいた。おそらく出口だと分かるためにあえてそこだけ黒いカーテンが覆われていないのだろう。
二人は安心したようにホッと息を漏らした。
一刻のこの場を去りたかったがために、少し駆け足で出口へと向かう二人。そしてドアに手をかけようとした瞬間、あることに気がつく。
隣に影があるのだ。それも自分たちのものではない影。二人は固まり、かろうじて首だけをその影ができている方向に目を向ける。
そこには西洋を舞台としたドラマでよくありそうな、ナイトが身につけていそうな甲冑。手には手作りの剣と盾を持っていた。
「うわああぁぁっっ!!」
右手に持たれている剣を大きく振り上げて、今にも向かってきそうな勢いで大声を上げた。俺はその声音でこの甲冑の中にいる生徒が誰なのか分かったのだが、それ以上に恐怖が勝った二人は今日一番ともいえる叫び声を上げながら、出口であるドアに手をかけて、出て行った。
その二人の後を追うように俺もお化け屋敷を後にした。
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