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一緒に回る相手

 文化祭開幕のアナウンスが響き渡り、俺と優奈と斗真は廊下で話し合っていた。既に廊下は大勢の生徒が行き交っていた。


「斗真は今日誰と回るんだ?」


「今日はサッカー部の奴らと回るよ。そして明日は梨花と二人でって予定」


「ふーん」


「もしかして俺と回りたかったのかなー?そうなら素直にそう言えってーのー。このこのー」


 そっけない返事をすると、斗真がおちょくって肩を軽くつついてくる。「やめろ」と言って、俺はその手を払い除けた。


 確かに斗真と回りたいという思いもあったのは確かだが、彼にだって部内の仲間との付き合いだってあるだろう。だとしたらそっちを優先するべきだ。


「それじゃあ一旦ここで解散だな。昼のシフト、ちゃんと時間通りに来いよ」


「お前もな」


 斗真は笑みを見せると踵を返して人混みの中へと姿を消す。


 さて、折角の文化祭だ。こんなところに立ち止まって時間を喰っていてはもったいない。今も生徒たちは楽しそうな笑顔を浮かべて、他クラスの出し物に目を奪われていた。

 

「あ、いたいた」


 平野さんと東雲さんが俺たちの前に姿を見せる。彼女たちの様子と言動からして俺たちを探していたようだった。


「二人とも、どうかしたのか?」


「えっとね。天野さんに用があったの」


「わたしですか?」


「うん。もし良かったら今日、私たちと文化祭回らない?」


 東雲さんから優奈へのお誘いの声だった。

 文化祭の準備期間中、三人が話している様子を何度か見かけた。おそらくその期間を経て少しずつ仲良くなったのだろう。


 優奈は少し迷っている様子を見せていた。


「いいじゃん。行ってきなよ」


 その言葉は俺の口から驚くほどスッと出てきた。これを逃せば平野さんたちと親しくなれる機会が先になってしまうかもしれない。

 そもそも彼女らも、優奈ともっと仲良くなりたいからこうして声をかけてきたのだ。


 すぐ返答しなかったのは、おそらく俺が原因。交友関係がほぼゼロに等しい俺にとって、斗真と回るという選択肢が無くなってしまった以上、このままでは一人っきりになってしまう。

 それを案じていたからこそ、こうして答えを出せずにいたのだと思う。

 自分で言ってて悲しくなっているのだが、わざわざそこまでして優奈に気を遣わせる必要はない。


「はい。一緒に回りましょう」


 俺の言葉が背中を押したのか、本心かは分からないが、優奈は柔らかな笑みを見せてそう言った。


「カッキーも来る?周りに美少女三人侍らせて文化祭回れるってもうないと思うよ?」


「自分で美少女って言っちゃうのかよ。俺はいいよ。三人で楽しんできて」


 東雲さんからありがたいお誘いの言葉が飛んでくるが、苦笑いを浮かべて断った。


 二人とも優奈に負けず劣らずの端正な顔立ちの持ち主であり、男子からの人気もある。ただですら優奈と一緒にいて、以前ほどではないものの白い目で見られているのにそこに二人が加われば、俺の今後の高校生活に支障をきたしかねない。


「そっか。それじゃあ天野さんお借りしますねー。いこっか」


「はい。柿谷くん。また教室で」


「おう」


 優奈も平野さんと東雲さんと共に、人混みへと消えていった。騒がしくなっていく廊下に、俺は一人取り残されてしまった。


(とりあえず適当に見て回るか)


 俺はゆったりとした足取りで廊下を歩く。

 ほとんどの生徒は大勢の友人や恋人と歩いていて、一人で行動している生徒は見受けられない。俺は少し肩身が狭い思いだった。


 屋上に逃げ込もうにも、外はあいにくの天気のためずぶ濡れになってしまう。図書室も文化祭の期間中は閉まっている。


 どうしたものか、と思いながらほっつき歩いていると、


「おっ。良介じゃん。久しぶりだな」


 偶然にも真司と秀隆と遭遇した。実に体育祭ぶりである。二人とも片手にはフランクフルトを持っていた。


「おっす。真司、お前焼けたなー」


 野球部である彼の肌色は、体育祭の時よりもさらに黒くなっていた。真夏の中、太陽の光に当てられているのだから当然のことだろう。


「良介のクラス、面白い出し物やってんのな」


 齧ったフランクフルトを咀嚼して飲み込んだ秀隆が言った。


「まぁな。俺がシフトの時は来ないでもらえるとありがたい」


「いやいや、絶対に行くわ。斗真にも『俺と良介のメイド服、ぜひ見に来てくれ!』って言われたし」


「マジか。サービスはなしな」


「俺たちからしたら、二人のメイド服を見ることがサービスみたいなもんだから」


 二人は揶揄うように笑った。


「ところで、良介は一人で回ってんの?」


「あぁ、見ての通りな」


「もし良かったらさ。俺たちと回らね?体育祭以来こうしてゆっくり話せる機会があるんだからよ」


「いいのか?」


「いいに決まってんだろ」


 そう言って、二人は爽やかな笑みを見せる。

 俺は本当に人に恵まれていると思い、思わず表情を緩ませる。


「ありがとな。それじゃあ一緒に回ろうぜ」


「決まりだな」


 体育祭以来の再会を祝って、俺たち三人は文化祭を見て回ることになった。

お読みいただきありがとうございます。

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