文化祭開幕
「雨だな……」
「雨ですね……」
上空に浮かんでいる灰色の重々しい雲から降りつける雨を、俺と優奈は教室前の廊下から眺めていた。
家を出たときはどんよりとした雲が広がっていたものの雨までは降っていなかった。ちょうど学校に着いたタイミングで降り始めたため、俺たちは濡れずに済んだのだ。今回はちゃんと傘を持ってきている。
時期が時期なだけあって、この時間帯は冷え込みやすい。それに降雨も合わさればそれ以上の寒さが身体を襲うだろう。
むしろ今日がこの天候で良かったのかもしれない。明日の天気は快晴という予報が出ており、その予報通りならば大勢の方に足を運んでもらえるだろう。この天候でわざわざ外に出向きたいと思う人はいないだろうからな。
「おーっす」
「おはよう」
斗真と瀬尾さんが外を眺めている俺たちに声をかける。
「おう。おはよう」
「おはようございます。今日は少し学校に来るのが遅かったような気がするんですけど……」
いつもなら、二人はもう学校に着いている時間帯である。遅刻というわけでもないのだが珍しいことだった。彼の性格的にむしろ楽しみすぎて早く来すぎていると思っていたくらいだ。
優奈がそう口にすると、瀬尾さんはため息を吐いて呆れたような目を斗真に向けて、
「斗真くん、昨日は楽しみで寝られなかったんだって」
「遠足前の小学生かよ」
「だってよー。文化祭だぜ。それも高校初めての。楽しみで寝られなくなるに決まってんだろ」
過去を思い出してみれば、斗真はこういった学校行事の前日の夜は寝付けないという子供みたいなところがある。「遅刻していないだけマシだろ」と続けて言う彼に、「まぁ、そうだな」と返しておく。
「そういえば、瀬尾さんのクラスの出し物は何をされるんですか?」
「お化け屋敷だよ。天ちゃん、絶対遊びにきてね。盛大に驚かしてあげるから。柿谷くんと斗真くんも」
瀬尾さんは手を身体の前で垂らし、うらめしやのポーズを作って悪戯っぽく笑った。
「ちなみにどんな格好してんの?」
「それ言ったら面白くないでしょ。入ってからのお楽しみ。わたしは二日とも最初のシフトの方にいるから。みんなのシフトは?」
「三人とも同じシフト。実行委員である俺が責任を持って組ませていただきました」
「職権濫用だな」
「ちゃんとみんなの意見を聞いて最大限考慮した上で組んだよ。だから俺たちが一緒になったのはたまたまだよ。たまたま」
失礼だなと言いたげな表情を浮かべる斗真。
そうは言っても、三人がこうも上手く固まるということは出来すぎている。多少強引な手は使ったと思うのだが、俺としても斗真と優奈が一緒にいてくれた方が心強いのは確かなので、これ以上は何も言わないでおこう。
「今日は昼からで明日は最初から。梨花がやっている時間帯で行くとしたら文化祭の開会式終わってすぐかな」
「分かった。荷物だけ置いてくるから、体育館まで一緒に行こ」
「分かった」
そう言って瀬尾さんは、この場から離れた。
文化祭が始まる前に、全校生徒が体育館へと集まり開会宣言を告げたのち、十五分の準備時間を設けて文化祭は幕を開ける。集合時間までに体育館へ現地集合であるため、ほとんどの生徒は荷物を各クラス決められた空き教室に置くことになる。
「俺も荷物置いてくるから、梨花も集まったら四人で行こうぜ」
「おう」
「はい」
斗真の言葉に、俺たちは軽く返事をした。
☆ ★ ☆
体育館へと集合し、校長先生の少し長めの話が終わった後、生徒の開催宣言が告げられたのち、俺たちは各教室へと戻っていった。
俺たちのクラスは、最初のシフトの生徒たちが各々の正装へと着替え、今か今かと少しソワソワした様子を見せていた。
「よし。いよいよ文化祭始まるな。浮かれるのは分かるけどあまり浮かれすぎないように。高校生らしく楽しんでいこうぜ!」
爽やかな笑みを浮かべると、「おーっ!!」と男子の野太い声と女子の元気で可愛らしい声が教室内に響く。
「それでみんなには事前に伝えているけど、改めて注意事項の確認な。これは生徒指導の先生も言ってたけど、この文化祭での撮影は一切禁止。そして生徒に触れるっていう行為も禁止。みんなの身を守るためのルールでもあるから、そんな行為をしようとする輩がいたら必ず辞めさせろ。それでも聞かない場合は近くの先生に即刻報告すること。とは言っても今日は校内の生徒と教師だけだからそんなことはないと思うけど、一応頭の片隅にでも置いといてくれ」
各クラスの教室や廊下にもそのような張り紙は貼り出されている。SNSという情報を誰にでも発信、共有できる便利なものがあるからこそ、トラブルも生まれやすい。そのような事態を未然に防ぐための注意喚起でもある。少し厳しすぎるような気もするのだが先生たちもその辺はかなり敏感になっているのだろう。
クラスのアルバル写真の撮影として、カメラマンの人がいる。当然その人は例外となる。
「他にもしつこい客がいるかもしれないから、特に女子は注意な!そのときはメイド男子がしっかり守ってやるんだぞ!」
「わーってるよ!」
男子生徒たちからの威勢のいい声を聞いて、斗真は安心したように「うしっ!」と呟く。
それと同時に、チャイムが鳴り響いた。
「ただいまより、文化祭一日目を開催します!」
スピーカーから先生の声が流れる。
こうして文化祭初日の幕が上がった。
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