教室で撮った二人の写真
昨日投稿できずにすみません!
時はあっという間に過ぎていきーー
文化祭前日の放課後。
教室内は明日からの喫茶店仕様へと姿を変えている。提供するサンドイッチの材料は食堂の冷蔵庫を使用させてもらっていて、斗真が仕入れてきた珈琲豆は家庭科室に保管している。
最終確認も済ませており、準備に抜かりはない。
「それでは、いってらっしゃいませ。ご主人様」
ほとんど生徒のいない夕暮れ時の学校で、普段の学校生活なら言わない言葉が教室に響く。
メイド服に身を包み、爽やかな笑みを作った俺が発した言葉だ。その様子を、斗真と優奈が品定めをするような瞳で見ていた。
「俺は今の挨拶でいいと思うぜ」
斗真はうんうんと首を縦に振った。
「はい。これなら明日からの接客も問題ないと思います」
優奈も納得したような様子を見せた。
接客担当の生徒は、実際にお客さんが訪れたときを想定して接客練習を行っていた。そつなくこなすみんなに対して、恥ずかしさと笑顔を作るのが苦手な俺は斗真と優奈から徹底的な指導を受けた。
放課後は残って実践練習。帰宅してからも鏡に向かって笑顔を作る練習や、優奈と接客の練習した甲斐があってか、本番前までになんとか形になった。
なんでメイド服を着ているのかというと、「やるなら形からって言うだろ?雰囲気だって出るし」と、斗真に言われたからである。そこから居残り練習の際は毎回メイド服を身に纏って接客練習をしていた。そのおかげで着替えるのにもだいぶ慣れたのだが。
「ありがとうな。二人とも。練習付き合ってくれて」
俺は二人に感謝の言葉をかける。
「良介に文化祭の準備で世話になったからな。これぐらいは当然だよ」
「そもそも接客担当にされなかったらこんなことにはなっていなかったんだけどな」
ジトっとした目で言い放つと、斗真は後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべると、舌をペロッと出した。
「あ、中村先生に明日のことで相談があるって言われてるんだった」
教室に設置されている時計を見て、斗真は思い出したかのように声を上げる。おそらく実行委員会についての話だろう。
「先生に怒られたら良介の接客練習に付き合ってましたって言うわ」
「事実だけど俺を巻き込んでじゃねぇ」
「冗談冗談。二人はこのまま帰ってていいよ。話終わった後、もう一回確認してから俺も帰るから。それじゃあな」
「おう。おつかれ」
「また明日」
挨拶を交わして、斗真は慌てた様子で職員室へと向かった。
「それじゃあ帰るか。着替えるから廊下で待っててくれ」
「あ、良くん。その前に少しいいですか?」
「ん?」
「えっと、着替える前に少しだけ待っててください。すぐに戻ってきますから」
そう言葉を残して優奈は教室を出ていった。
着替える前にと言われたので、とりあえずお客さん用に用意した椅子に腰掛けて待つことにした。
その五分後ーー
優奈が執事服を身に纏って教室に戻ってきた。
「お待たせしました」
「なんで執事服?」
「その……基本この服は持ち帰りできませんし明日から忙しくなって時間もないと思うので……今のうちにそれぞれの服を着た写真が欲しいなって……記憶にも、記録にも残しておきたいなって……」
執事服姿の優奈は、まるで一輪の薔薇のように凛としていて思わず見惚れてしまうほどに美しい。その姿から発せられる可愛らしいお願いの言葉にはとてつもない破壊力があった。
俺の様子を窺うかのように、チラッとこちらを見る優奈に俺は微笑みを向けて、
「おう。誰かに見られる前に早く撮ろうぜ」
悪戯心で『校内はスマホ禁止だって言わなかったっけ?』と、以前屋上で彼女に言われた言葉を返してやろうと思ったのだが、優奈が機嫌を損ねてしまうと思い、それは胸の中にしまい込んでおく。
優奈は嬉しそうな笑顔を見せ、互いの身体が触れ合いそうなほどの距離まで寄ってきて、ポケットからスマホを取り出す。
二人が入るよう、なおかつ写真写りが良くなるように角度を調整して、やがて位置が定まる「はい。チーズ」という声と共にパシャっとシャッター音が小さく鳴った。
その写真を確認すると、「よしっ」と頬を緩ませて満足げに小さく呟く。
「この写真、後で良くんにも送りますね」
「頼むわ」
思えば教室で二人きりになったのは、優奈と初めて一緒に帰宅したとき以来かもしれない。
優奈と出会って半年。高校生活とは案外早く感じるもので、このまま二年、三年、そしてそれぞれの進路へと進んでいくのだろう。
いずれは目の前にいる一人の少女とも、今のようにこうして話したりすることができなくなってしまうのだろう。
先の見えない未来に、そうふと想いを馳せていた。
「わたしのわがままに付き合わせてしまってすみません。すぐに着替えてくるので、良くんも着替えたら待っててもらっていいですか?」
「了解」
☆ ★ ☆
俺たちは着替えを終えて、帰路についた。
空を赤く染めていた夕日は沈んでいて、設置されている街灯が帰宅する俺たちを照らしていた。
「明日からの文化祭。楽しみですね」
待ちきれないと言った様子で目を細めながら、優奈は言った。
「そうだな。まぁお互いに頑張ろうぜ」
「はい。あ、今のうちにさっき撮った写真送ってもいいですか?」
「おう。頼むわ」
優奈から教室で撮った写真が送られる。ラインを開いて、その写真を確認する。
そこには可憐な笑顔を浮かべる少女と、ぎこちない作り笑いではなく自然な笑みを見せている少年の姿だった。
次話から文化祭編です。
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