差し入れ
今回は親友回です。
「うまっ!」
「おいしー!」
夕日が差し込む教室で、生徒たちがサンドイッチを口に運んでそう声を上げた。
メニューの試作に優奈が加わり、試行錯誤を重ねた末にようやく完成し、味見も兼ねてクラスのみんなに味見をしてもらっているのだ。
反応からして概ね好評と見てもいいだろう。家庭部のみんなもホッとしたような表情を浮かべていて、優奈と目を合わせると彼女は柔らかく微笑んだ。
「作り方のレシピはさっき印刷してきたから、調理担当の生徒はあとで取りに来てくれ。あと家庭科室の冷蔵庫に試行錯誤を行っていた時に余ったサンドイッチがそこそこ残っているんだ。もし放課後、準備に残ってくれた生徒にはそのサンドイッチを差し入れようと思う」
主に男子生徒の目の色が変わる。女子が作ったサンドイッチを準備を手伝っただけで食べることができるのだ。その試作に優奈まで携わっている。この機会を逃せば、彼女が作った料理を食べることは今後ないかもしれないと考えた彼らは口の中に詰め込んだサンドイッチをゴクリと飲み込む。
「それじゃあ放課後の準備に取り掛かろうか。言っとくけどサボってる奴には差し入れはないぞー。部活や用事がある生徒は無理に残らなくてもいいからなー」
斗真がそう言うと、男子生徒が率先して準備に取り掛かった。女子が作ったサンドイッチという餌にまんまと釣られる姿に女子は引いたような目を向けるも、彼らはそんな視線に気づくことはない。
「単純なやつらめ」
「確かに。あと……悪かったな良介。お前ばかりに仕事振っちまって。いつも手伝ってくれるから気づいたら頼りきりになっちまった」
斗真は申し訳なさそうに、俺に謝罪の言葉をかける。優奈と話をした翌日、斗真に仕事量を少し減らしてほしいとお願いしたところ上手くその仕事を分担してくれたことによって、俺はメニューの方に集中することができたのだ。
「いいよ。斗真だって慣れない実行委員の仕事であまり余裕がなかったんだろ。大変なのは分かってたからさ」
やる気があるからといって、いきなりその仕事をこなせるわけがない。慣れない仕事はどうしても目先のことに目がいってしまい周りが見えなくなるのはあることだ。
斗真を責めるわけではない。それだけ俺のことを信頼してくれているし信用してくれているから仕事を振ってきたのだと思う。
もし無理なら断っていたし、俺自身頼られるのが嬉しいことだったからそれを全部引き受けた。そして優奈に無理をしていると見抜かれてしまった。それだけのことだ。
「まぁでも……これだけの労働力を提供したんだ。少しは見返りがあってもいいと思うんだがな?」
斗真に少し意地悪っぽく言った。
「見返り?」
「ジュース飲みたい」
「へいへい。後でな」
俺のお願いに、斗真は頷いた。
教室内には、ほとんどの生徒が残っていた。
放課後は部活なりなんらか理由をつけて帰っていた生徒(主に男子生徒)が多く、また最近は準備することへの大変さからモチベーションが下がっているのを見受けられたため、作業スピードが落ちていたのだが、今はそれを取り戻さんという勢いで準備に取り掛かっている。
「文化祭。絶対に成功させような」
「もちろん」
喋りすぎていると、「差し入れなしにするぞ」と言われかねないので手を動かし始める。
その日の休み時間に食べた余り物のサンドイッチは、なぜか今までよりも美味しく感じた。
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そろそろ文化祭編に突入します。




