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増えていくお仕事

 出し物決めから数日が経過した。

 正式に男女逆転喫茶をやることが決まり、実行委員の斗真を中心に準備を行なっていた。


 ちなみに喫茶店の名前は『文化祭限りの男女逆転喫茶店!』というので決定した。特に捻りもない見たままの名前だが、興味本位で足を運んでくれる人達もいるだろう。


 文化祭は金曜日と土曜日の二日間。

 一日目は学校内の生徒と教員のみだが、二日目は生徒の保護者や友人、その他の人達も訪れるため、忙しさは一日目の比ではない。それもひっくるめて文化祭というものなのだろう。


「石坂くん。みんなが着る服、こんな感じでどうかな?」


 みんなに指示を出しつつ店の前に立てる看板の作成をしていた斗真に話しかける女子生徒。その隣にはもう一人の生徒が立っていて、一枚の絵を斗真に見せる。


「どれどれ……うん。俺はこれでいいと思うよ。いいセンスしてるね。平野(ひらの)さん。東雲(しののめ)さん。一応みんなにも見せてあげてよ」


 名前は平野ともえ、東雲結月。二人は手芸部に所属しており、また美術の才能もあったことから斗真が喫茶店でみんなが着用する服のデザイン決めと服の作成を依頼していた。

 

「分かった。みんなの確認とって問題なかったらみんなの採寸測って、このデザインを元にわたしら手芸部で作ってくよ。必要な材料はあとでまとめて言うから」


「分かった」

  

 平野さんの一声に、斗真は頷く。

 限られた予算でやりくりしていくためには、できるものは自作していったほうがいい。細かな材料費はどうしても出てしまうが、執事服やメイド服をそのまま買うよりは安く済む。それに自作のほうが文化祭という感じがする。どうしても製作が無理な場合はどこかで購入するしかないのだが。

 このクラスに手芸部に所属している生徒が多くいるのは幸運か。


「でもわたしたちだけじゃ人手が足りないかな」


「そうだね。少し人員を寄越してほしいかも。手先が器用な人で」


 不安そうに呟く東雲さんに、平野さんも同意を示して提案する。


「手先が器用ねー……あっ。いい人材いるよ」


 斗真はそう言って立ち上がる。

 彼が向かったのは、作業しているみんなとは少し離れた場所。その場には俺と家庭部に所属している生徒たちが真剣な面持ちで話し合いを行っている。


「良介。そっちはどうよ。順調か?」


 斗真の声に気がついて、俺は振り返る。


「まぁまぁかな。とりあえず提供するメニューはある程度固まったからもう少し突き詰めて、あとはみんなの意見を聞いて最終的に決まればあとは試作って感じだな」


「それは良き良き」


「それにしても急に『家庭部のみんなと喫茶店で提供するメニュー一緒に考えて!』なんて言ってきたときは、何言ってんだこいつって思ったけどな」


 本当に急だった。喫茶店に飾る装飾品の作成を行なっていたところ、斗真に呼び出されてついていくと、いきなり家庭部の話し合いの中に放り込まれたのだ。なんでもメニュー決めに難航していたらしい。


「だって良介、料理得意じゃん」


「それとメニュー決めは関係ねぇよ」


 笑いながら言う斗真に、俺は呆れたように言葉を漏らす。


「柿谷くん。料理できるの?」


 そう尋ねてきたのは家庭部の女子生徒だ。そもそもこの話し合いに参加しているのは、俺以外全員女子なのだ。俺にとっては完全アウェーの中、話し合いは行われていて、肩身が狭かった。

 しかも男子生徒の冷たい視線が背中に突き刺さっていた。


「あぁ。最低限のことはね」


「何が最低限だよ。料理めっちゃ上手なくせに」


「へぇ。得意料理とかは?」


 少し食い気味で聞いてくる女子生徒。他の家庭部の生徒も興味を持った様子でこちらに視線を向けてくる。


「俺が食った中で一番美味かったのはチキン南蛮かな。今度遊びに行ったとき作ってくれよ」


「嫌だよ。お前めっちゃ食うから食費が馬鹿にならないんだよ」


 運動量の激しい部活に所属している斗真だ。加えて育ち盛りなため、食べる量は当然俺以上。斗真のご両親も食費に頭を抱えているだろうな。


「頼む。この通り」


「……分かったよ。そのかわり食費の半分は出せよ」


 そう懇願する斗真に、俺は諦めて条件付きでいつになるか分からない約束を了承する。


「なんか意外……」


「料理男子ってやつだね……」


 と何やら小声で話し出す女子生徒たち。

 別に今どき料理できる男なんてそこらへんにいるだろうに。


「それで、なんか俺に用か?」


「そうそう。みんなが着る制服の作成を手芸部のみんなにお願いしたんだけど人手が欲しいらしくてな。良介手伝ってあげてくんね?」


「えっ?なんで俺?」


「良介手先器用だし。裁縫とかもやってるって言ってたじゃん」


「それは穴が空いた靴下とか取れたボタン縫い付けるとかそれぐらいのことだっての。服なんて作ったことねぇし……ハアッ、分かったよ。とりあえずやれるだけやってみる」


 断ろうと思ったのだが、斗真の訴えかけてくるような目で、俺は渋々受け入れた。

 喫茶店に飾る装飾品の作成。そして執事服とメイド服の作成か。仕事が増えてしまったが、なんとか上手く立ち回れるだろう。


「さすがは良介!それじゃあその仕事と同時並行で家庭部のみんなとメニューの試作も頼むな!」


「おい!余計に仕事増やしてんじゃねぇ!」


 結局、俺は喫茶店で提供するメニューの試作も行わなければいけなくなった。

お読みいただきありがとうございます。

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