文化祭
仕事の都合上、この時間帯の投稿になりました。
文化祭。
毎年中間テストを終えたこの時期に開催される、青蘭高校の行事でもかなり大きなイベントである。受験勉強で忙しい三年生にとっては息抜きになるイベントで、気合いを入れて臨む生徒も多くいるだろう。
毎週設けられている一時間のホームルームの時間を使って、俺たちは出し物を考えていた。
「えー。この度文化祭の実行委員になった石坂です。よりよい文化祭にできるように頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
そう挨拶をすると、拍手が送られた。
斗真が立候補したのは納得がいく。本人曰くこのような行事ごとには積極的に取り組みリーダーシップもある。また、彼以外に立候補した男子生徒がいなかったので、必然的に斗真が選出された。
「よし。それじゃあさっそくだけど何か案のある人は挙手してくれ。ちなみに各クラスに振り分けられた予算内で行える出し物なら飲食店なり演劇なりなんでもやっていいそうだ。まぁ飲食店の場合は事前に衛生的な面で問題がないかチェックが入るらしいからそのつもりで。他に分からないところや気になる点があったら言ってくれ。その都度先生に確認とってくるから」
サッカー部でノリのいい彼のことだ。もっとテンションを上げてウェイウェイ言いながらその場を盛り上げると思っていたのだが、落ち着いた口調と声音で進行を始めた。
「お化け屋敷!」
「アート展示会!」
「喫茶店!」
「ジェットコースター!」
「演劇!」
出し物の案が続々と上がっていき、それが黒板に書き上げられていく。まぁ文化祭においては定番ともいえるもので、飲食店やアトラクション類がほとんどだ。
アート展示会や演劇に関しては、正直なところあまり乗り気ではない。絵は自信がなく人に見せられるものではないし、大勢の観衆の目の前で自演技するというのもあまり得意ではない。
その点、飲食店やアトラクションは当日までの準備は大変だろうが、始まってしまえば裏方に徹してしまえばいい。飲食店になった場合はずっと裏で料理を作っていればいいだろう。そこらへんは斗真に相談すれば何かしら手は回してくれると信じたい。
教室内に漂う空気が熱くなる。生徒たちも少しヒートアップして、「あれがいい」「これがいい」と少し言い争っていた。
「はいはい。みんな落ち着いて」
パンパンと、斗真が手を打ち鳴らす。
「言い争いをしても仕方ないし、今出ている案の中から多数決をとって決めようと思う。他にまだこれをやりたいっていう奴はいるか?……いないな。うし、んじゃ今からこれがいいってやつを挙手してくれ。それじゃあまずはお化け屋敷をやりたい人ーー」
☆ ★ ☆
厳正なる多数決の結果、第一希望は喫茶店、第二希望は演劇ということになった。第二希望までとった理由は、第一希望が通らない可能性があるからだそうだ。
「よし。とりあえず俺たちのクラスの第一希望は喫茶店っていうことでいいかな?」
すると一人の女子生徒が手を挙げる。
「もし喫茶店やるんだったらさ。ただの喫茶店じゃつまらないよ。普段はできないこと、やりたくない?」
「例えば?」
斗真が尋ねる。
「みんなで燕尾服着て執事喫茶とか」
「みんなでメイド服着てメイド喫茶も面白そう!」
「じゃあ男女逆転喫茶とかは?」
喫茶店からさらに話が広がり、新たな案が出てきた。
燕尾服にメイド服か。優奈の方をチラッと見て、彼女がその二つを着ているところを想像する。
燕尾服の場合はその艶やかな髪を縛って黒のスーツをピシッと着こなしてしまうのだろう。そして胸に手を当てて、「おかえりなさいませ。お嬢様」とキザなセリフを口にするのだろうか。
メイド服の場合は黒を基調としたワンピースにフリルのついた白いエプロンを身に纏って、「おかえりなさいませ。ご主人様」と男にとっては一度は言われてみたいセリフを口にするのだろうか。
まぁどちらにせよ、完璧に着こなしてしまうのは間違いないだろう。逆に俺がどちらも着るイメージがまるで湧かなかった。特にメイド服は……いや、死んでも考えたくない。俺は小さく首を横に振った。
そんなことを考えている間にも話は進んでいきーー
「それじゃあ俺たちの第一希望は、男女逆転喫茶ってことでいいな?」
「おーす」
「異論なーし」
「よし、それじゃあその意見を今日の放課後にある実行委員会の集まりで言う。もしその意見が通らなかった場合は、第二希望の演劇になるからな。来週までには分かるから」
チャイムが鳴り響き、話し合いが終了する。
斗真が席へと戻ってくると、ホッと一息ついてこちらを見た。
「まぁ第一希望で通ると思うから、お互いにメイド服着て頑張ろうぜ」
「それって裏方の場合も着なきゃいけないのか?」
「もちろん。男女逆転喫茶なんだから」
当然、と言いたげな顔で斗真は頷いた。
俺も特に異論はないし、その案が通れば大いに盛り上がるだろう。だがやはり、メイド服を着るイメージはできない。俺はハァッと吐息を漏らして、頬杖をつく。
「良介。見て見て」
振り向くと、斗真はズボンの裾をメイド服のスカートに見立てているのかスッと持ち上げて、
「おかえりなさいませ。ご主人様」
裏声で言うと、軽くお辞儀をした。
「どう?」
「あぁ……うん。まぁいいんじゃないか」
なんとも言えない気持ちになったのだが、俺は苦笑いを浮かべて、そう感想を述べることしかできなかった。
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