表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/352

中間テスト(二学期)

 いつもの掲示板に張り出された順位表を眺めて、俺は吐息を漏らした。


「もう不動の一位と二位だな」


 隣で掲示板に視線を向けている斗真が言った。


 三位以下を大きく引き離し、二位である優奈に僅差で勝利することができた。これで三回連続一位の椅子に座ることができたのは喜ばしいことだろう。さっきの吐息も安心したことででたものだった。以前の俺なら順位表を見てもどうとも思わなかっただろうが、そう思えるようになったのは優奈のおかげだろう。


 隣に立つ以上、彼女と同等かそれ以上の成績を残さなければいけない。それがプレッシャーにもなって、同時にモチベーションにもなっているのだ。

 

「斗真だって順位上がってんじゃん」


「気づいた?」


 順位は九位。とうとう夢の一桁に到達することができて、隠しきれない笑みが溢れだす。斗真の上には瀬尾さんの名前が載っていて八位。点数もさほど大差ない。


「いやー。全部出し切ったわ」


「良かったな。瀬尾さんのおかげか?」


「梨花に一桁取ったら好きなだけ甘えていいって約束してくれたからよ。それ聞いた瞬間にマジで頑張ったわ」


 俺と勉強していたときよりもよほど効果が出ている。いかに斗真のやる気を引き出してやるか、それは瀬尾さんが一番理解している。ただ斗真が単純すぎるというのもあるんだが、扱いをよく分かっていらっしゃる。


「まぁこれが本来の俺の実力ってわけですよ」


「あとはその順位を維持し続けないとな」


「本当にそうだよねー」


 振り返ると瀬尾さんと優奈の姿があった。俺たちの隣に立って順位表に目を向ける。


「また負けました……」


 優奈は小さく呟く。負けず嫌いの彼女のことだ。悔しさを滲ませると思っていたのだが、表情は穏やかでその結果に納得しているようだった。


「柿谷くん。一位おめでとうございます」


「ん。ありがとう」


 柔らかな微笑みを向けて優奈は謝意を述べる。俺は素直にそれを受け取り、微笑みを返した。

 

「斗真くんも頑張ったね」


「でしょでしょ。それで約束のことなんだけどさ……」


「うん。今度の休みの日、斗真くんの家に行くからそのときに……ね?」


 悪戯っぽい笑みでからかうように言った瀬尾さんの表情に、斗真は一瞬ドキッとしながらも「おう……」と、はにかんでみせた。


「お二人とも、本当に仲がいいですね」


「熱が冷めるってことを知らないんだよ」


 付き合ってもうすぐ二年。幼稚園の頃から一緒であるため、かれこれ十年以上の付き合いになる。小学校から二人を知っている俺でも、本気で言い争いをしているところは見たことがない。

 今後も喧嘩することなく仲睦まじい姿を見ていくことになるんだなと思うと同時に、いつか俺も二人のような関係を築けるようになりたいと、心に決めた。誰とは言わないが……


☆ ★ ☆


「どうしてこうなった……」


 今の現状にそう呟かずにはいられなかった。

 帰宅して夕食の準備をしようとキッチンへと向かうと、優奈が飛び込んできたのだ。顔を埋めて俺の胸をポカポカ叩いてくる。全然痛くなくて、むしろくすぐったいくらいだった。


「悔しいです……」

 

「まぁテストだから、どうしても優劣はつくよな」


 学校で見せた表情は嘘偽り。負けず嫌いの彼女がテストで負けて悔しくないわけもなく、かと言って学校でそんな表情を見せるわけにもいかず、そう振る舞っていたのだ。


「あの……もう夕食の準備をしたいんでそろそろ離してくださると嬉しいんですが……」


 俺は視線を下げて言うと、優奈は俺から離れた。

 ときには聖母のように俺の弱さを受け入れて優しく包み込むように甘えさせてくれて、ときには子供のように甘えてきて。どちらも可愛いので問題はないのだが。


「今日は優奈の好きなものを作るから。何が食いたい?」


「……オムライスが食べたいです」


「了解。準備するから待っててな」


 そう言ってキッチンへと向かう。冷蔵庫から必要なものを取り出して早速仕込みに取り掛かろうとすると、


「手伝います」


「ありがとう。じゃあサラダの準備してもらっていいか?」


「分かりました」


 まだ拗ねている様子を見せる優奈。

 面倒で、でもそれも含めて可愛いと思ってしまう。そんな彼女の頭を優しく撫でてやる。少し驚いたように目を開くが、気持ちがいいのか目を閉じてされるがままになっている。


「しばらく続けてください……」


「はいはい」


 彼女の機嫌が治るまで、俺は頭を撫で続けた。

次回から文化祭編です。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ