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笑顔の裏に隠れる圧力

 二学期はとにかく行事が多い。

 中間、期末テストはもちろんのこと、十月中旬に文化祭。十一月中旬に球技大会など目白押しである。


「高校生活って、案外ハードなんだなー」


「何言ってんだ良介」


 朝のホームルームが始まる前、ボソッと呟いた独り言に、斗真が呆れたような表情でツッコミを入れる。


「二学期って何かしら行事が多いだろ」


「むしろ高校生やってるって感じがしていいだろうが。むしろそういうイベントのために学校来てるって言っても過言じゃない」


 斗真は学校のイベントに対しては積極的に取り組んでいる。中学の修学旅行のときは一週間前からパンフレットを広げて行きたい場所をセレクト。当日は斗真に強制的に連れられて、色々と観光巡りしていた。


「そういや一ヶ月後には文化祭か。楽しみだな」


「その前に乗り越えなきゃいけない行事があるけどな」


「言うな。あえて触れないでいたのに」


 彼は渋ったような顔で言う。

 そう。文化祭の前に中間テストがある。


「でも授業が始まって一ヶ月も経たずにテストだ。範囲だって狭いはずだし、ちゃんと勉強していれば問題ない」


「りょーすけ……」


 斗真が捨てられた仔犬のようなつぶらな瞳でこちらを見つめてくる。言いたいことは大体分かるのだが、


「今回は一人で頑張れ。斗真もちゃんと勉強したら上位は固いんだから」


 そう言うと、斗真は「そんなぁ」と言葉を漏らして項垂れた。

 こう言ったのも理由があって、瀬尾さんから「もし頼んできたら断って」と強く言われてしまったからだ。そして瀬尾さんがこのことを言っていたのも内緒にしてくれとも言われている。


 瀬尾さんとしては、俺と勉強すれば大丈夫だという考えが斗真の中にあると踏んでいる。結果ギリギリまで勉強せず詰め込むような形になっているのを、彼女自身あまり良く思っていないそうで俺が断れば早いうちから勉強するのではないかという考えを聞かされた。


「斗真の意見もあるんじゃ……」と言うと、瀬尾さんは無言の笑顔をこちらに向けてきて、「分かった」と速攻で彼女の意見を受け入れた。あれを受けると背筋が凍るような感覚に襲われる。


 斗真のことが好きだからこそ甘やかすところはとことん甘やかして、締めるところはしっかり締める。彼にとってはこれ以上ない彼女である。


「良介がいなかったら俺はどうすればいいんだよ」


「今のうちから少しずつ勉強しておけよ。なんなら瀬尾さんと一緒にやればいいじゃん。その方が斗真もやる気出るだろう。彼女の前でカッコ悪い姿見せんなよ」


「梨花は厳しいんだよ。ムチしかくれないんだもん」


「へぇ。斗真くんはわたしと勉強するのが嫌なんだ」


「嫌ってわけじゃないんだけどね。もう少し優しく接してくれても……ん?」


 背後から聞き慣れた声が届き、斗真の表情が凍る。ギコギコと壊れかけのロボットのような固い動きで振り返ると、笑顔で瀬尾さんが立っていた。


「おはよう。柿谷くん」


「おはよう。斗真になんか用があった?」


「ううん。天ちゃんと少しお話に。そしたら耳の痛い話をしているなって思って。話に夢中で気づいていない様子だったから……ね?」


 ポンと優しく斗真の肩に手を置いた。「ヒッ!」と小さな悲鳴をあげる。


「次の中間テストまでのテスト期間。わたしと勉強しよっか」


「え?でも……」


「しようね」


「……はい」


 笑顔を崩さずあんなことを言われるのが一番怖い。少し斗真が可哀想にすら思えた。彼女は満足したように「うん」と頷くと、優奈の方へと向かい「じゃあね」と言って自分の教室へと戻っていった。


「おれ、生きてっかな……」


「頑張れ」


 テスト期間中、怠けることを許されない環境に身を置かれることを想像してブルッと身体を震わせる親友に、俺は労いの言葉を送る。

 瀬尾さんのことだ。何かしらの条件を出してそれをクリアしたらアメを一つや二つ、斗真にあげるつもりだろう。


 程なくして、予鈴のチャイムが鳴り響いた。


☆ ★ ☆


「優奈。中間テストの勉強、一緒やらない?」


 いつもの屋上で優奈が作った色とりどりの弁当を食っている最中に、俺は提案する。本来であれば、斗真とテスト勉強のはずだったのだが瀬尾さんの作戦によってそれがなくなってしまった。

 

 たまには一人で勉強するのもいいと思ったのだが、期末テストのときのように彼女と一緒に勉強をするのもいいと思ったのだ。


「はい。一緒にやりましょう」


 二つ返事で了承をいただく。俺はホッと胸を撫で下ろした。 


「どうする?また賭けでもやるか?」


「いえ。わたしのお願いはもう賭けがなくても叶いますから」


 そっと俺の肩に寄りかかる。今日はまだ日差しが柔らかくてポカポカとした陽気に包まれていて、俺は大きな欠伸をした。


「眠いですか?」


「腹一杯になって天気もいいからな。すぐにでも寝られそうだ」


「寝てていいですよ。時間になったら起こしてあげます」


「助かる」


 陽気と隣に座る彼女の体温を感じながら、俺はスッと目を閉じた。

お読みいただきありがとうございます。

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