新学期
九月上旬。
今日から二学期が始まろうとしていた。
夏休みだからといって昼夜逆転の生活を送ったわけでもなかった俺はいつも通りの時間に目が覚めた。カーテンを開けて太陽の光を浴びる。清々しさと同時に、また学校へと行かなければいけないのかという憂鬱な気持ちを覚えた。
優奈と仲直りをして以降、今まで永遠だと思われていた時の流れがまるで早送りでもしているのではないかと錯覚するくらいに早く感じた。
そして、この夏休みを通して分かったことが一つある。優奈という存在が自分にとって生活の一部になっているということだ。彼女を遠ざけてしまったことで自分の本当の気持ちをはっきりと自覚してしまったのだ。そして誓った。手放しはしないと。
約一ヶ月ぶりに学生服に袖を通し、身支度を整えていつもの待ち合わせ場所へと向かう。
そこには清楚な印象を与えるセーラースタイルの制服を纏った優奈が既に待っていて、
「おはようございます」
「おはよう。待った?」
「いえ。わたしも今来たところです」
久々に見た優奈の夏服姿。可愛らしさと優しさを表現しているピンクのリボンがマッチしていて何度見ても飽きないな、と心の中で呟いた。
「早く行きましょう」
「おう」
俺たちは太陽に照らされながら、高校へと向けて歩き出した。
☆ ★ ☆
正門をくぐり、校舎に入る。
登校中、やはり少し気が緩んでいた俺であったが、学校の中に入るとしっかりしなければいけないと、気が引き締まる思いだった。
すれ違う生徒や立ち話に盛り上がっていた生徒たちからの視線を感じたのだが、特に気にすることもなく教室へと入った。
席へと向かうと、俺より来るのが遅い斗真が珍しく早く来ていて、机に突っ伏して睡眠をとっていた。起こさぬように音を立てずに椅子を引こうとすると、
「ん。モーニング。良介」
「おはよう。悪い。起こしたか?」
「いや、良介が来た感じがしたから起きた」
完璧なタイミングで俺の方を見て挨拶をすると、大きな欠伸をする。それも小学校からの付き合いで分かるものなのだろうか。俺は椅子に腰掛ける。
斗真には仲直りしたことをまだ伝えていない。本当はすぐにでも言うべきだったのだろうが、彼にはどうしても顔を合わせて直接言いたかった。
「斗真……あのな」
「仲直り、上手くいったのか?」
本題を切り出すより先に、斗真がそう尋ねてくる。一体どれだけ俺のことを理解してくれているのだろうか。
「あぁ、上手くいったよ」
「良かったじゃん」
「ありがとうな。お前が色々言ってくれて目が覚めた。もしあのままの俺だったらきっと今もギクシャクした関係が続いてて最悪……関係が崩壊してしまっていたかもしれない。本当に感謝している。ありがとう」
「まぁ……あんな沈んだ表情のままいられるのは俺としても気分が良くないし、仲の良い姿を見れなくなるのが嫌だったからな」
「斗真……」
「でも相談くらいはしてほしかったなー。大事な親友にお前は関係ないって言われて悲しくなっちゃったなー」
彼は後頭部で手を組んでそう言うと、悪戯っぽく笑った。俺たちの仲を心配して斗真と瀬尾さんは来てくれたのに、俺は二人の優しさを一度拒んでしまったのだ。
「すまん……」
「悪い悪い。まさかそんなに真に受けるとは思ってなかった。もう気にしてないし、怒ってもないから」
明らかにトーンが落ちた声で謝る俺に、斗真は慌ててフォローを入れる。そして爽やかな笑みを見せて、
「とりあえず仲直りしてくれて良かったよ。お互い大事な女の子を泣かせないように気をつけような」
「ん……放課後にでも瀬尾さんに謝りに行かないとな……」
「天野さんから仲直りしたって連絡をもらったって言ってたけど、本当かどうか気が気でない状態だったからさ。直接言って安心させてやってくれ」
「おう」
俺は小さく呟く。仲直りできたのは彼らのおかげと言っても過言ではない。感謝と謝罪の言葉をいくら述べても足りないだろう。
チャイムが鳴るまでまだ時間がある。斗真は机に突っ伏していた。俺も読書で時間を潰そうかなと考えていると、ある一つのことを思い出す。
「斗真。一つ相談があるんだ」
眠りにつこうとしていた彼の肩をさする。今度はゆっくりと顔を上げて、「んー」と眠そうな声を漏らす。
「なんだよ。また何かやらかしたのか?」
「違うわ」
優奈に誓いの言葉を捧げたばかりなのに、もしそうだったら学習能力なさすぎである。
「斗真にしかできない相談なんだよ。頼む」
「親友の頼みなら仕方がない。なんでも言ってみるがいいぞよ」
深く息を吐くと、身体の向きをこちらに向けて太腿を叩く。
「……甘えるって……何したらいいんだ?」
「……ん?」
俺の投げかけた言葉に、斗真は首を傾げた。
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