姫に昼寝を禁止されました
青蘭高校には学食がある。
ほとんどのものがそこで昼食をとっており、俺もその一員だ。なんせ昼食の準備をしなくて済むんだからな。
俺はかけうどん定食を頼んだ。
油揚げがのったうどんに白米、そして漬物がついて三百円と言う学生には優しい金額である。
とは言っても俺は一人暮らしであるため、本当は少しでも節約しなければいけないのだが、「せっかく学食あるんだから食べなよ!それぐらいの経費なら出してあげるから!」と母さんの後押しがあって、こうして学食を食べている。
向かい合うように座っている斗真が頼んだのはチキンカツ定食だ。大盛りの白米に味噌汁。ふっくらと柔らかそうな鶏肉をサクサクな衣でつつみこみ、その上にはソースがかかっている。隣には口直しのキャベツが置かれていた。
運動部である斗真にとっては、あれぐらいの量が丁度良いのだろう。美味しそうに白米とチキンカツを頬張っていた。
「美味そうに食うな」
「美味いからな。昼飯は高校で唯一の楽しみ」
言葉でもあるように、斗真は幸せそうな顔を浮かべていた。
俺もうどんを啜る。モチモチとした食感で美味い。斗真より量が少ないため、俺の方が早く食べ終わった。
「良介。先に戻ってていいぞ。なんかこの後サッカー部でミーティングあるらしくてな」
「大変だな。じゃあ先に行くぞ」
俺はお盆を持ち、返品と書かれた札の前に置く。「ご馳走様でした」と、奥にいる従業員さんに声をかけて俺は食堂を後にした。
さて、この後はどうしたものか。
教室の中で寝るというのもありだが。
俺は廊下の窓から空を見上げる。今日は雲一つない晴天だ。
(屋上で寝るか)
せっかくだから日向に当てられながら寝ようと決め込んだ俺は、階段を登っていく。
昼休みのみ、屋上の出入りが可能となっているのだ。仮に誰かいたとしても、どうせ寝るだけなので問題ない。
屋上に繋がるドアノブに手を取り、それを捻る。程よい日差しが気持ちよくて、俺は大きく伸びをした。
どこで寝ようかなーなどと考えていると、
「わたしたち、本当によく遭遇しますね」
もはや振り返らずとも、その声音だけがその場に誰がいるのかが分かった。それでも振り返ると天野さんがベンチに腰掛けて、一人手作りの弁当を食べていたのだ。
「昼食はもう食べられたんですか?」
「あぁ、学食でもう済ませた」
「いつも一緒にいる石坂さんは?」
「この後サッカー部のミーティングがあるんだと。だから屋上で寝ることにした」
「授業が始まる前も寝ていましたもんね」
はぁっと呆れたようにため息を吐く。
「別に始まる前だったからいいと思うんだが」
「学校は寝るところではありませんよ。昨日何時に就寝されたんですか?」
「確か……一時くらいかな」
「なんでそんな夜遅くまで?」
「動画見てた」
本日二度目の呆れたようなため息を吐く。
「ため息ついてたら幸せが逃げるぞ。姫」
「柿谷くんの生活リズムに呆れてるんですよ。それよりなんですか姫って」
「知らないのか?天野さんのことを姫って言う生徒が増えているんだぞ」
おそらくその可愛らしい見た目の上品な振る舞いからそんな二つ名が付けられたのだろう。実際その二つ名は相応しいと俺は考えている。
「それは褒められているんでしょうか?」
「褒めていると思うぞ」
「ならいいのですが……」
天野さんは視線を落として、弁当を食べた。
可愛らしい弁当に入っているのはふりかけがかかった白米。タコさんウインナーと卵焼き。そしてサラダが入っていた。
「筑前煮食べたときも思ったんだが、料理得意なんだな」
「小さい頃に母から教わりましたから。それを言うなら柿谷くんだって……」
「天野さんと一緒だ。俺も小さいときに母さんから教わった」
「料理できる男性の人、あまり見かけないので意外だと思いました」
「まぁ、そうだろうな」
実際、父さんが生きていたときも基本は母さんが料理をしていた。家事は分担して行っていたが、やはり昔の考えが残っているのだろう。どうしても母さんに家事の負担がかかっていたような気がする。
「んじゃ、俺は寝る」
そう言って日当たりの良い場所を探そうとすると、「柿谷くん」と呼び止められてしまった。
「今寝てしまったら、また夜更かししてしまいますよ。規則正しい生活リズムにするために、昼寝は我慢してください」
「えー」
「えーではありません。休日に昼寝すると言っていた意味が今分かりました。とりあえず寝てはいけません」
「じゃあどうしろと」
「そうですね……」と彼女は顎に手を当てて、考える。
「では話し相手になってください。そうすればわたしも退屈せずに済みますし、柿谷くんも眠気がとれるでしょう」
「んな横暴な……」
などと言いながらも、内心どこか喜んでいる自分がいた。天野さんは「ここに座ってください」と言わんばかりに、ベンチにポンポンと手を当てる。
言われるがまま、俺はベンチに座った。
「とは言っても、なんの話をするんだよ」
「なんでもいいですよ」
なんでもいいが一番困るんだよなーと思いつつ、眠りにつこうとしている脳を回して考える。
「彼氏でもできたのかな?どう思う?」
そのとき、斗真と話していた内容を思い出す。
あのときは斗真にああ言ったが、少し気にもなっていた。
だが聞いても良いのか?そういうのを聞ける仲ではないと思うのだが?流石に踏み込みすぎではないか?と自身の中で葛藤する。
そうしている間にも、天野さんは「ご馳走様でした」と手を合わせて弁当箱を片付ける。
「天野さん」
「はい?」
「天野さんってさ。彼氏っているの?」
気になるという好奇心が勝ってしまい、俺は彼女に問いかけた。
今日はあと二本投稿します。
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