洋服選びとゲームセンター
予想通り、優奈と瀬尾さんの買い物を俺と斗真の二人が付き添うという、ダブルデートとはいえない状況下で店内を歩いていた。
最初に訪れたのは洋服店だった。
「これとか天ちゃんに似合うんじゃない?」
瀬尾さんが折り畳まれた服を優奈に当てて、「うーん」と唸る。
「それを言うなら梨花さんにはこの落ち着いた色の服が……」
その光景を、俺たち男性陣は設置されているベンチに腰掛けてただボーッと見つめていた。
「暇だなー」
斗真がポツリと呟いて、大きな欠伸をする。
「それなら斗真も一緒に選べば……ぁ……」
途中で言葉を途切らせたが、何を言いたかったのか分かったかのように彼は頷いて苦笑いを浮かべる。
「服選ぶセンスないから大人しくしててって梨花に言われてんの。ちなみに今日の服も梨花のチョイス」
部活が忙しいが故に、斗真の服装はジャージやスポーティーな格好がほとんどで、どこかに遊びに行く服装に関しては無頓着なことが多い。「服は着れればいい」というのが彼の考えなのである。良く言えば個性的。悪く言えば壊滅的だ。
瀬尾さんと付き合って以降は、彼女が斗真の服選びをやっているらしい。「もう少し服に気を遣ってよ」と言われたそうで、最近はファッション誌に目を通しているそうだ。
「瀬尾さんに完全に尻に敷かれているな……」
「ほんとそれなー」
「笑い事じゃねぇよ」
嬉しそうに笑う斗真に俺は苦言を呈す。
学校では格好良くて性格も良し。成績も上位でサッカー部のレギュラー。側から見たら完璧超人に見える斗真がこんな発言をするとは思わないだろう。
「俺は悪くないぞ。梨花なしに生きていけない身体にした梨花が悪い」
「見捨てられても知らないぞ」
「それは嫌だな」
「じゃあ少しぐらい自分の力で頑張れよ」
将来、瀬尾さんにああだこうだ言われる未来しか見えない。斗真は嬉しそうに笑って彼女は呆れてため息を漏らしつつもお世話をしている……と言った具合に。
「逆に良介は人に甘えなさすぎるんだよ。こっちから何か言わないと一人でなんでもやっちゃうじゃないか。少しは誰かに甘えろよ」
「おかげさまで一人でできちゃうからな。お金のことはあれだけど、甘える必要ないんだよ」
などと話していると、二人が洋服店から出てきた。瀬尾さんの片手には袋で塞がっていたが、優奈は何も持っていなかった。
「あれ?天野さんは何も買わなかったの?」
「そうなの。天ちゃんに似合う服たくさんあったのに勿体無いなー」
「選んでいただいたのにすみません。最近買いに行ったばかりで……しばらくはその洋服を大切に着たいって思って……今日の服もそのときに買ってもらったものなんです」
「買ってもらったって……えっ!?誰に!?」
優奈の言葉に斗真が食いつく。瀬尾さんも興味深そうにしていた。
彼女は一瞬チラッと視線をこちらに向けた。
あぁ、母さんに買ってもらったものなんだなと俺は察する。
「名前は言えないですけど……わたしが好きな人……ですかね……」
そう言うと二人はこちらに視線を移した。
あ、勘違いしてるな。俺は苦し紛れに視線を逸らす。
「おうおう良ちゃんよ。俺が知らない間にどんだけ進んでんだよ。えー」
「天ちゃん!わたし応援してるから、できることがあったらなんでも言ってね!手伝うから!」
斗真は俺をからかい、瀬尾さんは優奈にエールを送っていた。ここで変に否定したら余計面倒なことになるのは目に見えているので、俺は弄られるがままにされていた。
優奈の視線が合うと、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。だが俺は、優奈がそう言ってくれて嬉しいと思った。二人の前で母さんのことを好きだと言ってくれたということは、その気持ちは本当なんだと分かったからだ。
母さんがこの場にいたのなら、多分泣きながら優奈の頭を撫でに撫で回していただろう。
「それじゃちょっと早いけど昼飯でも食うか?」
時間は十一時を少し回った頃。二人の買い物は一時間を超えていたということだ。
「うん。いいよ」
「俺は構わないぞ」
「わたしも大丈夫です」
俺たちは少し早めの昼食を食べにフードコートへと向かった。
☆ ★ ☆
昼食を済ませた俺たちはゲームセンターへと足を運んでいた。スロットや音ゲー特有の音。そしてそれを楽しむ人たちの騒ぎ声が入り混じっている。
「柿谷くん。あれはなんですか?」
優奈が一つのゲームを指差した。
「ドライブゲームだな。二人で対戦とかもできるんだよ。ここに来たのって初めてなのか?」
「小さい頃に数える程度で……ほとんど覚えていないんです。向こうにいたときはこういう場に足を運んだことがないので」
「じゃあやってみるか?面白いぞ」
二人で話をしていると、
「あ、梨花。俺あのゲームやりたいから一緒にやらない?」
「そうだね。わたしもちょうどやりたいって思っていたの」
「良介。天野さん。俺たちあっちのゲームで遊んでるから、しばらくしたらまた集合な!」
そう言って斗真と瀬尾さんは奥のゲーム場へと向かって、やがて姿が見えなくなった。
「二人も行ったことだし俺たちも遊ぶか」
「はい」
俺たちはそのドライブゲームの元へと向かい、お金を入れて座席に座る。
「ええと、下にあるレバーで座席の位置調節できるから自分のやりやすい位置に調整してくれ。操作方法は画面の右上に書いてあるから。とは言ってもハンドル回して状況に応じてアクセルとブレーキを踏んでくだけなんだけどな」
キャラクター、走る車のボディーやタイヤを選択していく。走りやすいカスタム等があるらしいのだが、そういう知識は持ち合わせていないのでカッコいいと思ったカスタムを完成させる。
優奈も準備ができたようでコースを選び、画面がスタート地点へと移動する。
「負けませんよ」
ここでも負けず嫌いの優奈が発動する。
「俺も久々だからな。勝てるかどうか分からないなー」
スタートの合図となる音が鳴り響き、俺たちは車を走らせた。次はどこに曲がれば良いのか、矢印が表示されるのでブレーキで速さを調整しつつ走っていく。
「むぅっ」
優奈は苦戦しているようで、スタート直後だが少し距離が空いていた。どうやらダートに突っ込んで減速してしまっているらしい。
「アクセルばっか踏んでちゃダメだぞ。ちゃんとブレーキも使って」
「分かってます」
そうは言っても気になってしまって、俺は優奈の画面を覗き込んだ。
「そうそう。スピードは落ちるけどダートでコースアウトするよりはよっぽど早いから」
「あ、良くん追い抜きました」
「えっ!?うそ!?」
自分の画面に視線を戻すと、優奈の車が何十メートルも先を走っていて、慌ててその後を追いかけた。
やっているうちに昔の感覚を取り戻してきて、あと半周というところで優奈の車の後ろにつける。最終コーナのカーブを抜ければあとは直線でゴールテープがある。そのカーブで追い抜くと決めた俺はじわじわと様子を伺って……
「あっ……」
優奈が言葉を漏らす。ハンドルを少し早く切り過ぎてしまい、バランスを崩したのだ。当然後ろに付けていた俺の車にも影響が及んで、俺の車はコースから大きく外れた。
その車がクッションとなったのか、バランスを取り戻した優奈の車はそのままゴールテープを切った。
「ま、負けた……」
俺はハンドルに額を当てて言葉を漏らす。
「もう一レースやりますか?今のは練習ということで。コツは掴みましたから」
後ろを見るも誰も待っている様子はない。
「次は止まったりなんかしないぞ」
「望むところです。返り討ちにしてあげます」
優奈はフフッと余裕の笑みで言った。
再度お金を入れて、俺たちはレースを楽しんだ。
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