表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/352

線香花火と記憶の一端

 俺たちは母さんの作った夕食を食べていた。

 明日の朝にはアパートに帰るので、これでまたしばらくは食べることができない。やはり心のどこかに寂しさはある。

 それを察してかどうかは分からないが、今日はハンバーグを作ってくれた。こういうところがあるからいくらちょっかいをかけてきても母さんのことを嫌いになれないのだ。俺は味を噛み締めるように咀嚼していた。


 夕食を食べ終えて一息ついていた頃。食器を洗い終えた母さんがソファーに座っていた俺と優奈の前に立った。両手を後ろにしていて何かを隠しているようだった。


「二人とも。今日はこれやらない!?」


 そう言って隠していたものを見せる。


「手持ち花火ですか?」


「スーパー行ったときに買っておいたの。やっぱり最後は夏らしいことしたいじゃない!」


 母さんは目を輝かせていた。確かに実家に戻ってからはそれらしいことはしていない。アパートでそういったことをするのは近所迷惑になるだろうし。


「いいですね!わたしもやりたいです!」


「そうだな。実家で暮らす夏の終わりのいい締めになるだろうし」


「決まりね!それじゃあ今から外に集合!あ、良介はバケツに水入れて持ってきてね!」


「へーい。優奈、先行ってて」


「分かりました」


 俺は腰を上げて水を汲みに行った。


☆ ★ ☆


 バケツを片手に持って外に出る。


 母さんが蝋燭に火を付けていて、優奈は手持ち花火の袋を開けていた。手持ちすすきやスパーク、線香花火が入っている。


「それじゃあ始めましょうか」


 その一声に、各々が手持ちすすきに手を取る。母さんが蝋燭の火に当てると、黄色の火花が舞った。

 俺たちも花火の火を借りて点火させる。優奈には青色の、俺には赤色の火花が咲いた。


「綺麗ですね」


「夏祭りで見た花火とはどうしても劣っちまうけどな。これはこれで手軽だし面白いよな」


 目の前に広がる美しい光景を見つめながら呟く。やがて力尽きたように火が消えるとバケツに放り込んで、次の花火に手を伸ばす。


 次にやっているのはスパークだ。手持ちすすきとは違い、四方八方にパチパチと飛び散る火花を見て「おおっ」と声を漏らす。


 そこそこ量はあったはずなのだが、あっという間に消費していって残るは線香花火だけとなった。

 俺たちはしゃがみ込んで、火の玉を見つめていた。昔は従兄弟と蕾を落とした方が負けという勝負をやっていたものだ。


 隣にいる優奈に目を向ける。

 辺りは暗くて、近くにある街灯と線香花火の光のみが彼女を照らしてくれている。白い素肌は暗闇によってさらに強調され、楽しそうに線香花火を見つめるその表情はとても可愛らしく映って、俺の鼓動を早くさせた。


 カシャッ。

 パチパチと火花の散る線香花火とは異なる音が響く。母さんがスマホをこちらに向けて写真を撮っていたのだ。


「仲睦まじいわねー」


 撮った写真を眺めて満足そうな笑みを浮かべていた。俺たちは驚いてそれぞれ蕾を落とす。


「それじゃあお邪魔虫は退散しますねー。あとは若い二人でごゆっくりー。優奈ちゃんにはこの写真あとで送ってあげるから」


 そう言って玄関へと向かい、家の中に入っていった。


「お義母さま。気を遣ってくださったんですね」


「どうだろうな。あの人の場合面白がってっていうところがあるから」


 実家に帰ってきてから、二人でいる時間というのがあまり取れなかった。母さんの考えがどうであれ、今は二人の空間を過ごせているのだから結果オーライだろう。新しい線香花火に手を伸ばして、それを眺めていた。


「この一週間。楽しかったか?」


 優奈にとってこの時間は有意義なものになったのか。少し不安になってしまい問いかけた。


「はい。とても充実した一週間になりました。お義母さまも可愛がってくれて。最後のあたりは本当のお母さんのように思っちゃいました」


 彼女はどんなものにも代え難いぐらいの笑顔でそう言ってくれた。


「ありがとうな。母さんがあんなに笑顔でいるのは優奈がいたからだ」


「お礼を言いたいのはわたしの方ですよ。誘っていただかなければこのような時間を過ごすことはできなかったですから」


 互いが互いに感謝する気持ちが強かったようで、こんな言い合いをしているうちに俺たちはクスッと笑いあった。


 優奈の蕾がポトリと落ちると、「次の線香花火取ってきますね」と言って立ち上がった。


 俺はジッと線香花火を見つめる。

 この先もずっと、こんな穏やかで平凡な日々が続いてくれるといいなーー



『お前と一緒に居たから、あいつは居なくなったんだよ』


 ふと蘇るその言葉。

 心の奥底に鍵をかけて封じ込めていたはずの一端の記憶。チラつくあの顔に俺は歯軋りする。


「うるせぇよ……」


 脳内で流れるその音声が煩わしくて、俺は小声で呟いた。

お読みいただきありがとうございます。

少しお話しますが、もう数話したのちに新章と言いますか、夏休みが終わる直前に良介の過去について触れていき物語が一気に動きます。


ブクマ、評価等いただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ