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二日目の朝

「んーよく寝た……」


 目を覚ました俺は、身体を起こして大きく伸びをして肩を回す。昨日はぐっすり寝ることが出来たので身体も軽く感じた。

 ベッドから抜け出してカーテンを開けると、真夏の太陽が差し込んで「眩しっ」と思わず目を細める。


 優奈が用意してくれた冷やしタオルはベットに転がっていていた。


「あいつ……触ってたよな……」


 そう言って、少し眉にかかる程度に伸びている前髪に触れる。意識が落ちる寸前だったのだが、柔らかな手で俺の髪を優しく撫でていたのは覚えている。


 同級生の女の子に頭を撫でられるなど恥ずかしさ以外なかった。スタホをタップすると七時半と表示されていた。そろそろ起きなくてはいけない時間ではあるが一体どんな顔で優奈と話せばよいのか。


 コンコン。

 扉をノックする音が耳に響く。考え事に夢中になっていて階段を登る音が聞こえなかったのだ。


「は、はい。どうぞ」

 

 そう言うと扉が開いた。


「おはようございます。良くん、体調のほうはどうですか?」


「おはよう。だいぶ良くなった。それより……なんでエプロン姿?」


 俺は目を丸くして尋ねた。

 優奈は私服の上にエプロンを身につけていたのだ。それもアパートでいつも見るものとは違うものを。


「お義母さまから貸してもらったんです。今のエプロンの前に使っていたものらしくて」


 母さんと優奈の背丈はほぼと言っていいほど変わらない。サイズも特に問題ないだろうがどことなく雰囲気が違っていた。

 普段身につけているものは可愛らしく年相応といったものだが、今はシンプルな黒色のエプロンだ。しかも年季が入っているため、若妻のような雰囲気を醸し出している。


「今日の朝ごはんは良くんの大好きなフレンチトーストですよ」


「マジで!?……って言うかなんで知ってんの?教えた覚えがないんだけど」


「昨日お義母さまから聞きました。良くんの好きなものから小さいときの思い出話。そして……」


「ストップ!これ以上は聞きたくない」


 俺が寝ている間、母さんと二人で何を話していたんだか。優奈は小さな笑みを浮かべて、


「早く降りましょう。せっかくの朝ごはんが冷めてしまいますから」


「分かった。着替えたらすぐに行くよ」


 軽くベットを直して寝衣からルームウェアに着替えると、スマホと冷やしタオルだったものを掴んでリビングへと向かった。


☆ ★ ☆


「おはよう」


 キッチンでコーヒーを淹れている母さんに挨拶する。


「おはよう。表情から見るにもう大丈夫そうね。それにどうだった?彼女が朝起こしにきてくれた感想は?」


 ニヤニヤと笑みを見せて、俺を茶化すように問いかけてきた。


「もう起きてたんですけどね。まぁ……悪くはなかったけど……」


「あらそうなの?残念だったわね、優奈ちゃん。良介の寝顔見れなくて」


「母さん。優奈にまた変なこと吹き込んだのか?」


「別に変なことは言っていないわよ。ただ良介の寝顔は可愛いから見ておいた方がいいって……」


「変なこと言ってんじゃん」


 可愛いとは言っているがそれは実の息子だからそう見えるだ。そもそも自分の寝顔なんて見たことないので分からないが可愛くないことだけは確かである。

 優奈が自室に入ってくる前に起きておいて良かったと、俺は心底安心した。


 スンスンと鼻を鳴らすと、パンの香ばしさとバターの甘い香りがする。テーブルの上には焼きたてのフレンチトーストが置かれていた。


「これ、優奈ちゃんが作ったのよ」


 一週間自分が何もしないのは申し訳ないと思い朝食を振る舞ってくれたらしい。


「休日に作ったりするんですよ。良くんは卵たっぷりなのがお好きだとお聞きしたので、いつもより多めに浸してみました」


 俺はごくりと唾を飲み込む。

 黄金色の見た目は絶品であると思わせる。


 俺は手を合わせて口に運んだ。

 咀嚼するとふわふわで卵液が染み出してくる。口溶けが良くとても柔らかい。


「そんな慌てて食べなくてもフレンチトーストは逃げませんから。ゆっくり食べてください」


 早いペースで食べ進める俺に注意をするも、美味しそうに食べる姿を見て優奈は嬉しそうに微笑んでいた。

 するとコーヒーを飲んでいた母さんが話を切り出してきた。


「良介。優奈ちゃん今日一日、わたしと買い物に行くからお留守番よろしくね」


「へぇ」


「あ、もしかして優奈ちゃん取られちゃって嫉妬しちゃってる?なんだったら良介も一緒に行く?」


「してないし、行かない」


 おそらく昨日の夜にそういう話になったのだろう。優奈と母さんの仲が良くなったのは微笑ましいことだし、女性だけでしかできない買い物だってあるかもしれない。変についていって邪魔をするくらいなら家でゴロゴロ過ごしていた方がいいと思い、俺は断ってコップに牛乳を注いで飲んだ。


「良介もああ言っていることだし二人で行こうか」


「はい」


 二人とも楽しみといった様子を見せる。

 

「どこに行くんだ?」


「それは内緒です」


「ねー」


 女の秘密というやつか。二人はクスクスと笑う。フレンチトーストを頬張った。

お読みいただきありがとうございます。

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