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変わらない景色

 商店街には先程訪れた精肉店の他に、魚屋や八百屋。衣服店や飲食店に居酒屋、そしてゲームセンターなどこの商店街に集中して揃っている。


 ここ以外で買い物をするとなるとバスに乗って市街地へと向かう必要があるため、ほとんどの人はこの商店街で済ませている。

 

「まぁ、商店街はこんなもんかな」


 一通り見て回った俺たちは置かれているベンチに腰掛けていた。ちょうど建物の影になっていて、休むのには丁度いい。

 手には自販機で購入した百五十mlのペットボトルのお茶を持っていて、喉の渇きを潤すためにそれを口に流し込む。


「デパートとはまた違った雰囲気です。こういうところは初めて来たのでとても新鮮でした」


 麦わら帽子を膝に置き、ホッと一息つく。

 この商店街には、店舗や歩行者を日差しや雨から守るためにアーチ状の屋根で覆われている。

 とは言っても暑いときは暑いし、寒いときは寒い。


「どうする?少し寄りたいところがあるのなら付き合うけど……」


「いえ。それよりも良くんが言っていた場所が気になりますので」


「分かった。そろそろ夕暮れ時だし向かう頃には眺めもいい頃合いだろうからな」


「頃合い?」


 優奈はクリーム色の大きな瞳をこちらに向ける。

  

「おう。もうしばらく休んだら行くか」


「はい」


☆ ★ ☆


 商店街を出て、俺たちは目的の場所へと向かっていた。雲一つなかった夏の青空は真っ赤に染まっていて夕日が強く照らしていた。


 住宅街を通り過ぎてしばらく歩くと、やがて一本の農道のみの道になる。農道以外は原っぱが広がっている。見下ろせば川が流れていて、それを跨ぐように橋が架けられていた。近くには公園やグラウンドがあって、近くに住んでいるであろう子供たちがボールを追いかけていて、夫婦はその光景を柔らかい瞳で見つめていた。


「さっき言ってたお気に入りの場所。ここの夕暮れ時の景色が好きなんだ」


 夕暮れは山も川も、真っ赤に染めていく。初めてここの景色を見た時から何一つ変わっていない。幻想的で美しい世界へと姿を変貌させていく。


「綺麗ですね……」


 優奈もその景色を瞳に焼き付けるかのように見ていた。


「落ち着くんだよ。悩みとか不安とか嫌なことをここにいるときだけは忘れられるんだ。中学時代とかはよくここに足を運んでいたんだ」


 俺は膝を抱えるように原っぱに腰を降ろすと、優奈も隣に座ってきた。


「服、汚れるぞ」


「洗えば取れますから。良くんでも悩みとか不安を抱えているんですね」


「常に抱えているよ。優奈は俺のことロボットだと思ってる?」


「いえ。勉強も運動もできる良くんでもそういうことで悩んだりするなんて、少し意外だなって」


「あるよ。あのときこうしておけば良かったって……ずっと悔やんでる……俺は何もできないただの弱虫だよ」


 目の前に広がる景色を見つめる。

 忘れたくても忘れることのない出来事が脳裏を掠める。俺は首を小さく横に振ってそれを追い払う。優奈の方を見ると心配そうな表情をこちらを見ていた。


「悪い。暗い雰囲気になっちまったな」


「何か嫌なことを思い出させてしまったのならすみません……」


「大丈夫だよ。優奈が気にすることじゃない」


 俺は優しく声をかける。


「もし……わたしにできることがあったら言ってくださいね」


「あぁ。そのときは頼む」


 夕日が沈んでいく。

 赤く染まっていた世界は徐々に暗くなっていって、一軒家や街灯には光が灯った。


「帰ろうか」


「はい」


 スマホを取り出して母さんに、「今から帰る」と連絡を入れる。数十秒後に「夜ご飯もう少しで出来上がるわよ」と返信が返ってきた。


「夕飯。もう出来上がるってよ」


「楽しみです」


 今日の夕食は何か、俺たちは予想し合いながら帰路に着いた。

お読みいただきありがとうございます。

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クリーム色の瞳…
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