お盆休み
今話は少し短いです。
夏休みに突入して、一週間以上が経過していた。とは言ってもやることは変わらず、いつも通りの時間に起床、朝食や歯磨きを済ませて、家の掃除、それらが終われば夏休みの課題をやるというサイクルを繰り返している。
先日の屋台の手伝いと日頃の軽いランニングぐらいしか外出していない。ちなみにいただいたお給料は大切に保管している。
男子高校生にしては寂しい夏休みに見えるかもしれないが、実はそうでもない。
何故ならーー
「良くん。そこの数式間違ってませんか?」
「お、本当だ」
優奈が俺の家にいるからだ。
夏休みの最初の方はいつも通り互いの家で夕食を食べるくらいだったのだが、三日ほど前。
午前中に優奈が突然家に訪れていて、「課題一緒にやりましょう」と言ってきたのだ。特に断る理由がないので家に上げたのはいいのだが、
「今日のお昼ご飯はそうめんにしようと思います」
「そうめんか……めんつゆはあるけど麺のストックあったっけ?」
「家から持ってきています」
「準備がよろしいようで」
優奈がこの時間に家に来るようになってから、昼食も一緒に食べるようになったのだ。昼ごはんも交互に作りあって食費は割り勘で出し合うことにしている。今日の昼食当番は優奈だ。
「あー疲れた……少し休憩。麦茶飲むか?」
「はい。お願いします」
俺は立ち上がってコップに麦茶を注ぎ、優奈の元へと置いた。
「こぼすなよ」
「そこまで子供じゃありません」
そっぽを向いて優奈は麦茶を口に含む。もちろん分かっているのだが、小さな身体と端正な顔立ちのせいで年齢よりも幼く見えてしまうのだ。
教室では近寄り難くもマスコット的な存在として見られている優奈だが、その扱いに対して不満があるのかもしれない。
「あ、優奈に伝えておくけど、お盆休みは一週間ぐらい実家に帰省しようと思ってる」
普段の休日もロクに会っていないので、長期休暇のときぐらいは顔を出さないとバチが当たってしまう。母さんにも元気な姿を見せて安心させてあげないとな。
「その間はアパートにいないからしばらくは……」
「その件なんですけど、お義母さまから連絡をいただいて、わたしも家に来てくれって……」.
優奈から驚くべきことが伝えられた。
前々から優奈と母さんは連絡を取り合っていたらしく、俺に帰省の連絡してきたのと、同じタイミングで優奈にも同じことを聞いていたそうだ。
両親がドイツにいて今年の夏休みは帰ってくれないことを伝えたところ、「じゃあ家に来なさい!」とノリノリな様子で言われたそうだ。
しかも同じアパートに住んでいることも。
「母さん……」
俺は思わず頭を抱えてしまう。確かに母さんには恋人関係であると嘘をついているが、まさかこんな早い段階で言われるとは思ってもいなかった。
「嫌だったら断ってもいいんだぞ」
「いえ。せっかくお誘いいただいたんですから。断るわけにはいきません」
「優奈のことを気に入ってたもんな。でも実家だと今まで以上に質問攻めにされると思うけど」
「お義母さまとはもっとお話したいと思っていたので」
本人が大丈夫と言っている以上、俺からは何も言えないが、正直なところ不安しかない。
ちなみに期間は俺と同じ一週間。何も起きないことを祈りたいが、母さんのことだ。何もしてこないわけがない。
時計に目をやると、二十分ほど経過していた。少し休憩時間をとりすぎてしまったので、俺たちは再び課題と向き合った。
☆ ★ ☆
「腹減ったな……」
時刻は十二時を少し回っていた。ペンをテーブルに置いてお腹をさする。頭を使うのは予想以上にエネルギーを要してしまう。
「それじゃあお昼にしましょうか」
優奈は立ち上がってエプロンを付けると、キッチンへと向かう。最初はエプロン姿ですら見るのが恥ずかしかったのだが、今となってはもう見慣れてしまっている。
「お昼はそうめんとサラダにしますね」
「あいよー」
気がつけば、優奈が隣にいる生活が当たり前のようになっている。こんな穏やかな日々が続けばいいと思いつつ、彼女の料理姿を見ていた。
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