終わりを迎えた一学期
一学期も今日で終わり。
体育館には全校生徒が集まっていて、終業式が行われていた。体育館の窓は開放されているもののやはり夏。どうしても暑さが鬱陶しくて、校長先生の話がまるで入ってこなかった。
実際には一時間程度しか経っていないのに、感覚ではその倍以上の時間が経過したと思わせられた。
なんとか終業式を乗り越えて、教室へと戻っていく。教室には空調設備がきちんとされているのだ。
「それで良介。手伝い終わったあとは夏祭りは回るのか?」
席に座ると、斗真が以前の質問を再び投げかけてくる。
「あー……まぁそのつもり……」
「ほー。良介の中で一体どんな心境の変化があったのやら」
優奈が行きたいと言ったから……とは言えるはずもなく、
「気が向いたからかな」
俺は適当は理由を言って、斗真から視線を逸らす。
「はーん。まぁ本当の理由は聞かないでおいてやるよ」
不敵な笑みをこちらに見せて、斗真は椅子にもたれかかるようにして座った。
☆ ★ ☆
帰りのホームルームを終えて、生徒たちはこれから始まる夏休みに心を躍らせていた。
「まぁ夏休みっていっても部活三昧だけどな」
良介は苦笑いを見せる。サッカー部は今年もいいところまで勝ち進んだらしいが、準決勝で今年の優勝校と戦い2対0で負けてしまった。既に新チームは始動していて、斗真もレギュラーとして頑張っているそうだ。
「サッカー部は大変っすね」
「楽しいからやってんだけどな。良介はどうなんだよ。夏休みの予定。またジムに入り浸るのか?」
「いや。しばらくは行かないかな」
これまでは一人で過ごす時間が多かったのだが、優奈と一緒の時間を過ごすようになってからジムに行く時間が割けなくなった。
別にジムに行けないからといって身体を鍛えられないわけではない。今はダンベルを購入してトレーニングしたり、早朝にアパートの周辺を走ったりしている。
通ってたジムも月額制ではないので、お金の心配もする必要はない。
などと話していると、斗真が時間を見て「ヤベッ!」と慌てた様子を見せる。
「んじゃ部活行くわ。オフの日のときはまた良介の家で遊ぼーぜ」
「へーい。頑張れよ」
鞄を持って駆け足気味で教室を出て行った斗真を見送る。俺も特に教室に留まる理由がないので、帰り支度を済ませて優奈の元へと向かった。
☆ ★ ☆
「もう夏休みか……」
「あっという間でしたねー」
今年の一学期はあっという間に終わった気がした。それはこの三ヶ月ちょっとの高校生活が楽しかったと思っていたからだろう。入学したときはこれほどまで充実したものになるとは思わなかったのに。斗真や瀬尾さんの顔馴染みがいたことや、真司や秀隆の接しやすい彼らと出会えたこともあるのだろうが一番はーー
ふと彼女に視線を向けると、優奈もこちらを見ていた。
「ありがとうな」
自然と心からの言葉が出た。突然感謝を述べられて優奈は困惑している様子だった。
「い、いきなりどうしたんですか?」
「そのままの意味だよ。ありがとうな」
理由なんてない。ただ思っていたことをそのまま言葉にしただけなのだから。
「も、もう……急にそんなこと言わないでください……」
優奈は肩を軽く俺に当ててくる。
フワッといい香りが鼻をくすぐる。柔らかな感触がいつまでも俺の身体に残る感じがした。
「こんなところ、誰かに見られたら変な噂流されるぞ」
「大丈夫です。誰もいないのを確認してからやってますから」
俺は辺りを見渡すも人気はない。
「せめて家でやってくれよ……」
「好きな時間に好きなだけ甘えて言ったのはどこの誰でしたっけ?」
俺は言葉を詰まらせる。人気がないからといって、今の行動には心臓が止まりそうなほどになった。
「それとも……嫌でしたか?」
上目遣いで優奈は聞いてくる。鼓動が少し早くなるのを感じた。
「……誰か来たら、すぐにやめろよ」
今すぐやめろとは言えなかった。優奈は小悪魔のような笑みを見せて、再び俺の身体と軽く触れ合うほどの距離で帰っていった。
お読みいただきありがとうございます。




