久々に一緒に帰宅
三月十四日。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
俺はすぐさま帰り支度を済ませて優奈の元へと向かった。
「優奈。帰ろうぜ」
声をかけると、優奈はゆっくりとこちらを見上げる。
「はい。ちょっと待っていてください」
優奈は薄く微笑みながら小さくコクリと頷いて、机の下の教科書を取り出して鞄に片付け始める。
バレンタインのお返しに手作りお菓子をプレゼントすると決めてから、優奈にバレないようなんとか隠し通し続けて今日を迎えた。
その後も味の試行錯誤を続け、自分が満足のいくガトーショコラを作ることができ、今は冷蔵庫の中で眠らせている。
「お待たせしました」
帰り支度を終えた優奈が立ち上がる。
「おう。じゃあ帰るか」
俺と優奈は扉を開けて、教室を後にした。
下駄箱で靴を履き替えて昇降口を出て、正門をくぐる。
帰路についたところで、手を包み込むような柔らかな感触が伝わる。視線を落とせば優奈が俺の手を握りしめていた。
「どうしました?」
「いや。珍しいと思いまして」
目を丸くしていた俺に優奈は尋ねる。
感じる温もりを離さないように、俺も手を握り返してそう答えた。
登下校のときはいつも俺から手を差し出し、優奈がその手をとるといった感じで、逆のパターンは滅多にない。もちろん優奈からアクションを起こしてくれたことは嬉しい限りなのだが、それ以上に驚きの方が勝る。
「最近良くんと帰ることができていなかったので、今日は一緒に帰れて浮かれているんです。バイトがない日でも良くん『ちょっと用があるから』って一人で帰ってしまいますし」
浮ついた感情もあるのだろうが少し拗ねてもいるのだろう。優奈は寂しさを宿らせた声を発した。
「それに関してはごめん」
その姿に胸をときめかせつつも、寂しい思いをさせてしまったこと紛れもない事実について、俺は謝った。
「別に怒っていませんよ。大体予想はついてますし」
「え?」
思わず戸惑いの声を漏らした俺を見て、優奈は小さくクスッと笑った。
「ここのところ宮本さんと教室や廊下で結構話されてましたよね。ときどき会話もこちらまで聞こえてましたよ」
「あー。マジかよ」
俺は頭を抱えた。ということはつまり、現状優奈は俺が昨日まで一人で帰った理由として純也が絡んでいることまでは把握している。
「……ちなみに聞くけどどの程度把握してる?」
「細かい内容までは聞こえなかったのですが、『チョコ』って単語がよく聞こえたので、ホワイトデーのことなのかなと」
思ったよりもがっつり優奈に情報が行き渡っている。というより俺が迂闊だったというべきだ。
せっかく優奈のサプライズという形で進めていたのに……。
だがしかし、何を作ったまでかは把握をしていようだ。色々と予定が崩れてしまったがそれはそれとして切り替える。今日は優奈が喜んでくれればそれでいいのだ。
「まぁその……色々と準備してきたから楽しみにしててくれ」
「はい。楽しみにしてますね」
俺たちは微笑みあって、帰り道を歩いた。




