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姫からの申し込み

 翌日ーー


 優奈はいつも通りの様子を見せていた。憑き物が取れたかのような、なんとなく顔色が良いような気がした。


 両親ともテレビ電話で話していたらしく、また今度の機会にたくさん話をしようと言う話になったらしい。


 俺はと言うと、優奈が頭を乗せていた肩の感触。そして彼女の甘えた姿が頭をよぎって中々寝付けなかった。その分勉強時間に当てたので問題はない。


 屋上でもこんなことはあったのだが、そのときはお互いあまり意識していなかった。だが今は少なくとも、あの時よりは好意的な感情を持ち合わせているのは確かである。


 誰かを好きになったとか、そんな経験は生まれて十六年したことがないので、この気持ちは優奈のことを交友的な意味での好きなのか、恋愛的な意味での好きなのかは分からない。


 でも、この居場所は悪くないものだと今なら胸を張って言えるだろう。


 彼女の笑う姿を見ると、俺の心も自然と温かくなるのだから。


☆ ★ ☆


「んー疲れたー」


 斗真が机に突っ伏して言った。


「お疲れさん。何か飲むか?瀬尾さんも」


「こんなときは麦茶でしょ!」


「わたしも麦茶、貰ってもいい?」


「あいよ」


 迎えたテスト前日。

 追い込みや細かい単語の確認等を終え、あとはテストを迎え撃つだけとなった。


 二人の前に麦茶を置くと、斗真はそれを一気に流し込んだ。飲み干すと「あー!生き返るー!」と口元を拭う。


「ありがとうな良介。これなら赤点どころか八割取れそうだ」


「お、それは楽しみだ」


「わたしももう少し順位上げられるかも」


 二人は満足げな表情を浮かべる。今回の勉強会は有意義なものだったようだ。


 帰り支度を済ませて、二人は玄関へと向かっていく。

 

「んじゃ、明日からのテスト。頑張ろうぜ」


「じゃあね柿谷くん。また明日」


「おう」


 俺は二人を見送った。多分帰り道は、瀬尾さんに単語の確認やらなんならさせられるだろうな。

 

 俺はリビングへと戻り、夕食の準備を始める。


 その五分後にインターホンが鳴ると、優奈が立っていたので家に入れた。俺が夕食を作っている間、優奈は問題を解いていた。


「優奈。できたぞ」


 俺はテーブルに夕食を並べていく。

 

「カレーですか」


 今日の夕食はカレーとサラダ。そしてコンソメスープである。俺が好きなラインナップの一つだ。


「あ、辛いのと甘いのどっちが好きか聞けばよかったな」


「わたしはどちらでも大好きなので大丈夫です」


 俺たちは椅子に座って、カレーを口にする。

 ご飯に少し辛めのルーが絡まって、それが食欲を増させる。肉と野菜も程よく煮込まれていて、美味い。


 優奈は口元を手で隠しながら、「あふっ」と空気を口に入れている。どうやら猫舌だったようだ。


「美味しいです」


「カレーだからな」


 談笑しながら夕食を食べているうちに、あっという間になくなってしまった。カレーは少し作り過ぎてしまったため、「明日は朝カレーだな」と思いながら、カレーを冷蔵庫の中へとしまった。


 夕食を食べ終えた俺たちは、食休みを挟んでテスト勉強を行った。


 優奈の集中力は凄まじい。

 それは今度こそ自分が一位になるという目標があるからこそだろう。「何か飲むか?」と尋ねるつもりだったのだが、声をかけるのすら躊躇うほどだった。


 俺は時間を確認する。時刻は九時を回っていた。


「優奈。もう時間だ」


 そう言うと優奈が顔を上げる。


「あ、もうそんな時間……」


 本人すらも時間が気にならないほど集中していたようだ。


「結局、俺たちが教え合うことなんてことはほとんどなかったな」


 強いていうなら数学の応用問題の確認をしたぐらいで、あとは個人勉強だった。


「でも……わたしは楽しかったです。良くんと一緒に勉強できて。お陰で明日からのテストは今まで以上に良い結果が出せそうな気がします」


 優奈ははにかむように笑った。

 俺は照れ隠しのように、彼女の笑顔から視線を外す。


「良くん。一つ勝負しましょう」


「……勝負?」


 俺は驚いたような声で言葉を漏らした。


「今回の期末考査。負けた方が勝った方のお願いを一つだけ叶えるというのは」


「ほうほう」

 

「い、言っておきますけど叶えられる範囲ですからね。その、いやらしいことはなしですから」


「しねぇよ」


 心配になったのか、優奈は釘を刺してきた。

 そもそもそんなお願いをしようものなら、今の優奈との関係が崩れてしまうというのが容易に想像できる。


「だがまたなんで急に?」


 優奈からそんな勝負を持ちかけてくるのは珍しい。俺は気になって疑問をぶつけた。


「いや……その……」


 優奈は俺から目を逸らして口籠る。何か言いにくい理由でもあるのだろうか。だが今回の勝負は勝てばお願いを聞いてもらえるし、仮に負けたとしても失うものは何もない。デメリットはないだろう。


「優奈から言ってくるっていうことは、相当の自信があるってことだな」


「はい。絶対に勝ちますよ」


 優奈は顔を上げて、得意げに言ってくる。


「分かった。その勝負受けよう」


 何か裏でもあるんだろうなっと思いつつも、俺はその勝負を受け入れたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ブクマ、評価等いただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
優奈ちゃんの 「カレーですか」というセリフは要らないと思う。 作っているときに匂いでわかるよね。
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