手作りか市販か
放課後――
俺と優奈はいつものスーパーに足を運んで買い物をしていた。
今日の夕食は腕によりをかけて俺の好物を作ってくれるそうで、俺が押しているカートの上に置いてある買い物カゴには既に多くの食材が敷き詰められている。
今、俺たちは精肉エリアにいて、優奈はお肉を選んでいた。
「必要なのは、今日使う合挽き肉と鶏胸肉と……。良くんは近日中に食べたいお肉料理はありますか?」
「そうだな……。久々に生姜焼き食いたいな。タレ甘めのやつ」
「では豚肉も買っておかないとですね」
合挽き肉、鶏胸肉、そして俺のリクエストの料理に応えるべく豚肉にも手を伸ばして、順番に買い物カゴへと置く。
必要なものはこれで全部なので、俺たちはレジへと向かい列に並ぶ。
「そうだ。優奈がくれたマフィン、めっちゃ美味かった」
順番を待っている間、優奈がくれたマフィンの感想を伝えた。
焼き色が美しく、ふわふわとした柔らかい生地よ甘さを少し控えた微糖のトッピング。見た目、味ともに満足のいくもので、美味しく食べさせてもらった。
「美味しく食べてもらえて良かったです。機会があればまた今度作りますね」
「あぁ。それと一つ聞きたいんだけどさ」
「なんですか?」
「気が早いかもしれないけどホワイトデーのことでさ。見た目、味ともにあまり自信がない手作りのお菓子と市販のお菓子、貰うならどっちが嬉しいのかなって」
去年のホワイトデーはバームクーヘンをお返しとして優奈にプレゼントしたのだが、去年今年と優奈は手作りに対して、俺は市販もの。
お菓子作りも優奈と何度かやったことはあるし作れないわけではないが、見た目や味は優奈の足元にも及ばない。
できるなら手作りのものをあげたいと思っているが、味や安全面の話をするなら市販の方が確実だ。
「わたしは手作りでも市販のものでもどちらでも嬉しいですよ。きっと良くんはわたしのために作ってくれたり選んでくれるでしょうから」
そう言って優奈は朗らかに微笑んだ。
俺に気を遣っているわけではない。本心からの言葉なのは俺が一番分かっている。
「そうだな」
列が進みカートを押しながら、優奈の微笑に釣られるように俺も薄い笑みをこぼして、続ける。
「まぁ楽しみにしておいてくれ。なるべくご期待に沿えるもの用意しておくよ」
とは言え、用意する立場からすればやはり喜んでほしい気持ちもあるので、それなりのものは準備するつもりだ。
「はい。楽しみにしておきます」
このタイミングで俺たちの会計の順番になったので、俺は買い物カゴを持ち上げてレジカウンターに乗せた。
☆ ★ ☆
自宅に戻った俺は、手洗いうがいを済ませて部屋着に着替えて、購入した食材を整理していた。
今日使うであろう食材はキッチンに置き、それ以外のものは冷凍庫や収納棚に片付ける。
しばらくすると鍵が開錠する音がする。カチャリと施錠されてリビングに繋がる扉が開くと、着替えに戻っていた優奈が現れた。
「食材の片付けありがとうございます」
「いいよ。てかそもそもここ俺の家なんだから、俺がやらないといけないだろ」
「それもそうですね」
エプロンを身につけながら、優奈は口元を緩めた。
思うのだが、ここ最近冷蔵庫や食品棚を開くと、食材や味の素の配置が変わっている。おそらく優奈が取り出しやすいように配置していると思うのだが、いよいよここにまで優奈の息がかかってきているのかと強く思わさせる。もちろんいい意味で、だ。
それだけここが優奈にとっても過ごしやすい環境にもなっていることだと思うから。
「で、今日は何作るんだ?」
まぁ俺の好物と言っていたし、購入した食材を見れば皆目見当がつく。それでも一応、ハンガーにかけていたエプロンを手にして腰あたりに紐を結びながら俺は問いかけた。
「ハンバーグを作るつもりですけど……良くんはゆっくりしててもいいんですよ。誕生日なんですから」
「いや、手伝えるときは手伝うさ。誕生日だからってそこを甘えるのはなんか違う気がするし。それに優奈と一緒にご飯の準備する時間が俺は好きだからさ」
むしろ誕生日だからこそ、一緒に準備をして同じ時間を過ごしたいとすら思う。その時間が誕生日プレゼントみたいなもの。そういう意味では毎日プレゼントをもらっている。
「では一緒に作りましょうか」
「おうよ」
俺と優奈は一緒にキッチンに立って、ハンバーグの下準備を始めた。




