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尾行開始

 今日は日曜日なのもあってか、ショッピングモールには多くの家族連れや友人同士で、そして恋人たちが多く訪れていて賑わいで溢れている。

 まだ冷える時期なのもあるだろうし、ここのショッピングモールには多くのお店や遊び場が揃っているので、大勢の人が集まるのは当然といえば当然といえる。


 場所は一階、待ち合わせ場所に最適とも言える時計台のある広場で、真司はスマホを弄っている。その姿を少し離れた場所から俺たちは見守っていた。


「――まさか友達のデートを尾行する日が来るなんてな」


 真司もまさか、心配だからと俺たちが今この場にいるとは思うまい。万が一にも見つかるわけにはいかないので、慎重に行動するべきだろう。


 時刻は九時五十分で、待ち合わせの時間は十時。時間ギリギリに慌てて走ってくるのはあまり格好がつかない気がするので、余裕を持った行動と言っていい。

 小林さんが来るまでもう少し時間はかかるだろう。


「今思ったけど、尾行って探偵みたいだよね」


「確かに。カッコいいよな」


「カッコいい……のか?」


 同じく眺めていた純也の瞳はどこか輝いており、発案者だけあってかなり乗り気なように見える。腕を組みながら純也の意見を斗真は首肯する。

 価値観は人それぞれなので、それを全面的に否定するつもりもないが俺は思わず首を傾げたあと、斗真に目を向けて問いかけた。


「斗真。そんな眼鏡持ってたか?」


 斗真は昔から視力が良くて今も視力は落ちていないと言っていたから、眼鏡もコンタクトも必要ないはず。


「あぁこれ。イメチェンで買ってみたんだよ、伊達メガネ」


「確かに眼鏡をかけるとかけないとじゃ雰囲気変わるもんね。その伊達メガネお洒落だね」


「いいだろー。今日みたいなときには変装にも使えるしでちょー便利」


 左手でスッと眼鏡を軽く上げて「フフンッ」と斗真は得意げに笑って見せる。本人も相当気に入っているようだ。


 今日は真司と小林さんの後を追うため、地味とは言わないまでも極力目立たないような服装。伊達メガネもそうだが、二人とも形から入っていることが見て分かる。

 俺は黒のチノパンツに白パーカーとカジュアルコーデでまとめている。


「あー。なんかこっちが緊張してきた……」


 時間の針が進んでいくにつれて、斗真が心臓に手を当ててその面持ちを強張らせる。


「まぁ真司もなんだかんだでやるときはやるやつなんだから大丈夫だろ」


「って話してるうちに――」


 真司の方に動きがあった。時計台の下にいる真司のスマホに向けられていた視線が真っ直ぐ伸びる。その先には真司の元に歩いてくる小林さんの姿があった。


「お、お待たせ。待った?」


「お、おう。いや、そんなに待ってない」


 たどたどしい挨拶からも、双方緊張しているのが分かる。真司はデートそのものが初めてだし、小林さんも好意を持った相手とのデート。そうなるのも仕方のないことだと言える。


 (小林、いつもと雰囲気違うな。まぁ制服姿しか知らないし私服だからってのもあるか。それに今日は眼鏡してないし)


 ラベンダー色のスカートに白のセーターのコーデ。腰まで伸ばしている髪を三つ編みにしている。いつもかけている丸眼鏡を付けておらず、代わりにコンタクトを付けている。


「どう、かな?」


「……似合ってる、すごく」


 (こ、こんな回答で大丈夫か?なんかもっと細かく褒めた方がいいのか?でも俺服なんて全く詳しくないし……)


「そっか。嬉しい」


 と、ぐるんぐるんと思考を巡らせる真司をよそに、小林さんは小さな微笑みをこぼす。


「白石くんも似合ってるよ」


「ありがと。つっても家にあるもの引っ張ってきただけだけどな」


 真司はネイビーのデニムジーンズに白の長Tシャツ、黒のジャケットを羽織っている。真司が持っている洋服の中で一番清潔感があって尚且つ似合いそうなものをチョイスしたつもりではある。

 結果的に、小林さんには好印象だったようで真司も頬を緩めつつ照れ隠しのように視線を逸らした。


「白石くん。緊張……してる?」


「あー……正直してる。こうして女子と二人で遊ぶなんて初めてだから」


「……それを聞いてちょっと安心」


「なんで?」


「わたしも凄く緊張してるから」


「そっか。じゃあ一緒だな」


「うん」


 と、二人が会話に盛り上がっている一方で――、


「どうかな?上手くいってそうな感じかな?」


「くっそ。ここからじゃなんも聞こえねぇ……もう少し近づくか?」


「バレるからやめとけ」


 俺たちは二人の遠くから眺めている。

 なにを話しているかは分からないが、見た感じ今のところは雰囲気的には悪くない。二人からは笑顔も見られるので、むしろ良いと言える。

 どうか雰囲気のまま今日のお出かけを終えられればいいのだが。


 しばらくして、真司と小林さんが何か話しながら歩き始めめてエスカレーターに乗った。


「よし。俺たちもついていこう」


「よっしゃ。楽しくなってきた」


 斗真と純也も二人のあとを追う。よほどのことがない限り普通に歩いていても見つからないような気がするのだが、コソコソと行動するせいで怪しさ極まりない。

 一緒に歩いていたら、俺も怪しい人間なのではと思われてしまいそうなので、離れた位置を歩く真司たちを尾行する斗真たちからさらに離れて俺は歩き始めた。

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