働き者
その後も、親戚の集まりや圭吾さんたちのお見送りなどあって、気がつけば冬休みももう最終日まで時間が流れていた。
去年もそうだったが、今年の年始も忙しく動き回っていたような気がする。
そんな俺は今、バイトに勤しんでいる。
本来ならば今日はシフトに組み込まれていなかったので、明日からの学校にも備えて家でのんびりしようと思っていたのだが、昨日店長の羽田さんから電話がかかってきて『急で申し訳ないんだけど、明日の午前中だけシフト入ってくれない?』と頼まれた。
午前中だけならいいか、とその頼みを了承して、今こうしてホールで注文を捌いているのだが、今日は客の入りも多くないしそこまで忙しくもないので、俺が入らなくても回せたのではと思う。
程なくして客の足も完全に途絶える。
片付けも済ませ本当に何もやることがなくなってしまい、立ち話している店員の姿もちらほら。俺も肩を回したり腰を伸ばしたりして時間を潰すこと十分。カランカラン、と心地よいドアベルの音が響き渡った。
物憂げで気の抜けた状態から営業スマイルの仕事モードへとスイッチを切り替える。この切り替えも何度もやっている中で、すっかり身についてしまった。
「いらっしゃいませー」
一番ドアの近くにいたのは俺だったので、接客するのは当然俺の役目。爽やかさを意識した声と共に向かったその先には――、
「あっ。良介いた」
ファミレスで制服姿で働く俺を見て、制服姿で鞄を担ぐ斗真は表情を明るいものにする。同じく制服姿である瀬尾さんも小さく手を振った。
ここに訪れたのは二人だけではなくもう一人の影があった。
「斗真に瀬尾さん。それに……なんで優奈も?」
「買い物が終わって少し本屋に寄ったあと帰ってたら偶然お二人と会ったんです」
「そそっ。俺と梨花は午後から部活でさ。外で飯食ってから学校行こうと思ってたら天野さんと会ったんだよ」
「それで柿谷くんが今日はバイトしてるって聞いたから、ちょうどいいしここでご飯食べようって話になったってわけ」
時間帯は十一時を回っている。ご飯どきと言われると少し早い気もするが、午後から部活ということを考えれば頷ける。
「にしても良介。明日から学校だってのにお前は働き者だなー。しかも代わりに出勤してるんだろ。勤勉すぎて涙が出てきそうだわ」
「ちゃんと金が貰えるなら働くさ」
タダ働きはごめんだが、ちゃんと給料が貰えるのであれば問題ない。なんならこの忙しさでいつも通りの給料ならむしろラッキーとすら思える。
と、立ち話に花を咲かせていたが、ここでは斗真たちは客で俺は店員。仕事を全うするべく、三人を一番近くのテーブル席へと案内する。
「さーて。何食べよっかなー」
「斗真くん。食べ過ぎると午後からの部活動けなくなっちゃうよ」
「へーい……」
目を輝かせて意気揚々とメニュー表を開く斗真に、瀬尾さんに釘を刺す。
何を頼むか悩むかのような口ぶりの斗真だったが、彼がこの店に来たときに注文するメニューは決まっていて、ドリアとチーズたっぷりのカルボナーラ、そしてコーンポタージュ。
確かに運動前にそれだけの量を食べれば途中で体調を崩してしまうのは目に見えている。瀬尾さんもそれが分かっていたから止めたのだろう。
一方、それだけ食べたくなる気持ちも分からんでもない。ここの店の料理はボリュームの割に金額が安く、元がとれる。
「天ちゃんは何か食べる?」
「いえ、わたしは家でお昼ご飯食べるつもりなので……ソフトドリンクだけ頼もうと思います」
「ちなみに聞くけど、今日の良介と天野さんの昼飯はなんの予定?」
「オムライスとスープを作ろうかなと。どうですか?」
と、優奈は俺に尋ねた。
「もちろんいいよ。優奈のオムライス美味いし」
ふわふわな半熟卵とちょうど良い味付けのケチャップライスの組み合わせが堪らなく美味で、食べれば食べるほど食欲が湧く。
今日の昼食を聞いただけで、残りのバイトも頑張れる気力が湧いてくる。
「美味しそーう。今度家に遊びに行ったときに天ちゃんのオムライスの作り方教えて」
「はい、いいですよ」
ところで、と再度優奈は俺に視線を送って、
「良くん。バイトは何時までですか?終わるまで待ってますよ」
「終わるのは十二時。だけど少し過ぎるかもだぞ」
「大丈夫ですよ。気長に待っていますから、残りのお仕事頑張ってくださいね」
「あぁ、ありがとう」
優奈の愛らしい笑顔と共に激励の言葉が送られてさらに気力が漲るのを感じながら、斗真たちの注文を受けた。




