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スパダリ

 優奈たちと一度別れたあと、俺たちは初詣のため神社へと足を運んだ。


 多少混んではいたがお参りも無事に済ませることができた。

 ただ残念だったのはおみくじの内容で、選びに選び抜いて手にしたおみくじは小吉。順番上では去年の末吉よりも一段階上がったとはいえ、引いた本人からすると大差なんてないようなもの。


 自分のくじ運は今年もそんなに良くないか、と苦笑しつつも来年は中吉あたり引けたらいいなと、おみくじかけに結んだ。


 初詣から帰宅してからは、勉強したりテレビを見ていたりいつも通りの日常を過ごしていて、時間はあっという間に流れていった。


 ――そして今。

 昼前に優奈たちが自宅に上がってきて、雑談を交えていたところにまで至る。


「そろそろ昼飯の準備する。母さんたちはゆっくりくつろいでて」


「そう。なんか悪いわね」


 母さんは眉を下げて肩を竦めた。

 今の今まで圭吾さんと希美さんと話を咲かせていたので、まだまだ話し足りないのは明白。今はお喋りに専念してもらうことにして、これまで聞き役に徹していた俺はこの場から去ることにする。


「わたしも手伝いますよ」


「あぁ、なら一緒に作るか」


 優奈も俺と同じ聞き役に回って時折り振られる話に頷いていた。考えていたことは一緒だったようで、自分がいなくてもいいと判断したのだろう。

 俺も俺で一人で作るよりも優奈と一緒の方が早く準備できるし何より楽しい。


「あら、二人がご飯作ってくれるの?」


「何を作ってくれるのか楽しみですね」


 エプロンを身につける俺と長い髪を結ぶ優奈の姿を見て、母さんと希美さんは口元を綻ばせる。 

圭吾さんは冷たいとはいかないまでも細く切れ長な目を細めていた。


 仲睦まじい姿を微笑ましく様子で眺めている母さんたちに対して、圭吾さんはあまり面白くない光景に映っているのかもしれない。

 

 (それも仕方のないことか)


 お付き合いを公認しているとはいえ、目の前で愛娘と彼氏が共同作業している姿を見せられるのも、父親としては複雑な心境なのだろう。

 様々な視線を浴びるのを感じながら、俺と優奈はキッチンに移動する。


「何作りましょうか?」


「そうだな……」


 髪を結い終えた優奈にそう問いかけられて、俺は顎に手を当てて少し考え込む。


「ちょうどいい機会だし優奈がくじで当てたズワイガニ使うか」


 年明け前に優奈がくじで見事に引き当てた戦利品で、年明け前に俺の自宅宛に郵送で届いた。届いたのは三匹と四等にしては奮発しすぎではないか。そう思いながら、冷凍庫を開けて冷凍保存していたズワイガニを取り出した。


「そろそろ消費しておかないと傷みそうで怖いからな」


「刺身や蒸し蟹、それに茹で蟹も蟹鍋もできてレパートリーも豊富ですから飽きないでしょうし」


「まぁこれだけあるんだしだいたいのものは作れるだろ。とりあえず蟹茹でるか」


「そうですね」


 今日の献立を考えながら、俺たちは昼食の準備を始めた。


☆ ★ ☆


 栄養バランス込みで考えた結果、刺身と茹で蟹と蟹鍋を作ることにした。

 優奈は刺身用の蟹を捌いていて、蟹のお腹の殻を割るように包丁を入れたあと器用に甲羅を外していく。最後にキッチンバサミで足の付け根を切って身を取り出していた。


「てか優奈、蟹まで捌けるのな。普通に凄いわ」


 魚を捌くのも上手な優奈だが、まさか蟹まで捌けるとは思わなかった。初めは蟹の捌き方の動画でも見ながら俺が捌こうと思っていたので、優奈には頭が上がらない。


「慣れればそんなに難しいものでもないですよ。今度機会があれば捌き方教えてあげます」


「あぁ、頼むわ」


 俺は鍋に入れる野菜や豆腐などを順番に切っていき、別皿へと移す。


 そんな俺たちを、母さんたちはリビングから見つめていて、こんな話をしていた。


「良介くん、手際いいですね」


「小さい頃から手伝ってくれてたからね。大体のものは作れるはずよ」


「料理ができる男性っていいですよね」


「掃除も洗濯も一通りは仕込んだし、我が息子ながらスパダリになる気がするわ」 


「まぁっ。でも家事は女性だけの仕事じゃなくなって男性も一緒にやるのが今どきの形ですからね。その点では確かに良介くんはなるかもしれませんね」


 息子の料理姿に胸を張る母さんに希美さんは口に手を当てて笑っている。

 もちろんその会話は俺と優奈の耳にも届いているが、いちいち反応するのも疲れるので気が流すことにする。


「ちなみに圭吾さんは料理はされるんですか?」


「いえ、恥ずかしながら料理の腕は壊滅的で……」


「基本、わたしが家を空けていて圭吾さん一人のときは作り置き用意しておかないとすぐインスタント食品に走っちゃうから。いい歳だし気をつけてもらわないと」


「いい歳と言うけど希美。わたしはまだ四十半ばだぞ」


「十分いい歳じゃないですか」


 身体をちゃんと労ってください、と希美さんからの追加攻撃に圭吾さんは何も返すことができない。希美さんは湯気の立つ湯呑みに口を付けて小さく息を吐いたあと、「沙織さん」と母さんの方を見る。


「良介くん、将来はいい旦那さんになりますね」


「それを言うなら優奈ちゃんこそ、将来はいいお嫁さんになるわよ」


 母さんと希美さんが二人で盛り上がっている。


 その会話ももちろん俺と優奈には聞こえていて、褒められていることには感謝しつつもこれ以上はその話を辞めていただけたら助かると、心の中で思っていたのだが、その話は昼食をテーブルに運ぶまで続いていた。

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