新年
年が明けて元旦。
長くも早いように感じた一年に終わりを告げて、今日からまた新しい一年を迎える。
澄みきった青空から初日の出が顔を覗こうとしていた頃、俺は毎年お参りに行っている神社へと向かうべく洋服に着替えていた。
「良介、あんた昨日随分遅くまで起きてなかった?話し声も聞こえたし」
「俺だって本当は寝たかったけどさ、斗真たちからメッセージが届きまくった上に電話までかけてきたんだよ」
年が明けてすぐ優奈から『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』とメッセージが届き、俺も新年の挨拶を送った。
その後も斗真や瀬尾さんたちからも続々と来て、一通り返信し終わったし寝ようと自室に向かいベットに横になった瞬間、グループのチャットが騒がしく成り始めたのだ。
メンバーは斗真、真司、秀隆、純也、そして俺のいつもの五人。何気ない他愛のない話から始まり、気がつけば電話までしていて、終わったのは二時過ぎ。おかげで若干寝不足だ。
「あら、仲良くていいじゃない。てっきり優奈ちゃんにうつつを抜かしてばかりだと思ってたわ」
「友達付き合いも大事にしてるっての」
斗真たちがいるおかげで騒がしくも充実した学校生活を送れているといってもいい。優奈と二人で過ごす時間に劣らず、彼らと過ごす時間も俺にとっては大切な時間だ。
「みんなで撮った写真あるの?」
「あるにはあるけど」
「初詣から帰ったら見せてよ。どんな子たちか知りたいし」
「まぁいいけど」
今思えば、母さんに斗真以外の友達の話をした覚えはないし、一緒に住んでいるわけでもないので真司や秀隆が遊びにきたとしても顔は見られない。母親としても息子がどんな友達と日々過ごしているのか気になるのだろう。
そんな会話をしながらコートに袖を通して、最後にマフラーを巻く。
「それじゃあもう行こっか」
「あぁ」
身支度を済ませた母さんが玄関へと向かい、俺もその後を追う。
外は雲一つ見当たらない快晴とは裏腹に、身体を巡る血液が凍ってしまいそうなくらいに冷えている。
エレベータに乗り一階まで降りて、外へと繋がるエントランスを歩く。横開きの自動ドアをくぐろうとしたところで、エントランスに入ろうとする人影があった。
見覚えのある三つの人影。
一人は男性。端正な顔立ちとキリッとした目元。黒縁眼鏡をかけている男性は仕事の出来る堅物の印象を与えるだろう。
もう二人は女性で、一人は男性とは対称的に目元が柔らかく優しさが滲み出ている。美しくも可愛らしい顔立ちは明らかに実年齢にそぐわない。
もう一人は俺の大切な人。
それ以上は何も言うことはない。
自動ドアに立ったところで彼女たちも俺たちに気がついて、エントランスへと足を踏み入れる。
「あっ。良介くんに沙織さん。明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。天野家は初詣帰り?」
「えぇ、朝早めに出たものですから全然混んでなくてスムーズに初詣に行けました」
最初に口を開いたのは希美さんで、続いて母さんが新年の挨拶を返す。去年は柿谷家と天野家は同じ神社で初詣したので、母さんは希美さんに今の神社の混み具合を確認した。
「良くん。明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いしますね」
「明けましておめでとう。こちらこそ今年もよろしくお願いします」
そう言って会釈をしたあと微笑を浮かべた優奈に、俺も会釈で応じる。
去年は着物を着ていたが、今年は防寒対策をしっかりした私服姿。新年早々、優奈の姿を見ることができて嬉しいと思う反面、着物姿を見たかったと残念がる自分もいた。
このまま優奈と話していたかったが、俺は気を引き締めて優奈の隣にいた圭吾さんに視線を向ける。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
新年最初の顔合わせ。印象を悪くするわけにもいかず、優奈に会釈したときよりもさらに深いお辞儀をする。
「あぁ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
と、圭吾さんはいつもの落ち着いた声音で言った。
どうやら印象を下げるようなことはなかったようで小さく息を吐く。
母さんと希美さんの方はまだ話が続いている。
耳を立てれば神社の混み具合の話ではなくなっていて、何やら昼食のことについての話をしているようだった。
「希美ちゃん。良かったらお昼ご飯食べに来ない?」
「お誘いは嬉しいんですけど……邪魔になったりしません?」
「いいのいいの。去年だって圭吾さんに朝食をご馳走になったんだしそのお返しということで。優奈ちゃんはどうかしら?お昼ご飯、一緒に食べない?」
「えっと……ご迷惑にならないのであれば」
優奈が断れないことを分かってて聞いてくるあたり、母さんも性格が悪い。圭吾さんと希美さんがいなければ俺にしたり顔を向けてきていただろう。
「圭吾さんもご一緒にどうですか?」
「そこまで誘ってくださるのなら、お言葉に甘えさせていただきます」
「二人がそう言うのなら……お昼ご飯ご一緒させていただきますね」
「良介もいいわよね?」
「あぁ、みんながいいって言うなら」
と、話はトントン進んでいって、新年の昼食は優奈たちと食べることになった。
一緒に食べる分には問題ないのだが、俺は母さんにチラリと視線を向ける。
「ん、何よ」
「別に」
新年から昼酒を飲むのはさすがないか。
いや、百歩譲って飲むのはいい。面倒なことにさえならなければ。




