想いが込められた手紙
今日は俺の家に寄らずそのまま自分の家に戻るということで、アパートに着いた俺たちはそのまま優奈の家の玄関前まで辿り着く。
玄関のドアの鍵をポーチから取り出して開錠させたところで、優奈が口を開いた。
「少しだけ玄関で待っていてくれませんか?」
「あぁ。分かった」
すぐに戻りますから、と優奈の姿は闇に包まれた部屋へと消えていき、すぐさま明かりが灯る。本当に少し待ったところで優奈が戻ってきて、俺の前に立つと息を吸って、こう言った。
「良くん。メリークリスマス」
優しさを滲ませる瞳と天使を思わせるような柔らかくて穏やかな微笑みを、優奈は俺に向ける。
幸せを願う思いが込められた挨拶と共に、優奈は長方形の黒い箱を差し出した。右下には箱色とは正反対の清純な白のリボンが付いている。
「クリスマスプレゼントです。できれば今日中に渡したいと思っていましたから」
プレゼント交換で用意したアロマグッズとは別で、俺専用のプレゼントを用意してくれていたのだ。その事実に胸が熱くなるのを感じながら、
「ありがとう。てか俺も用意しているんだけど……」
俺も用意していないわけがない。だが優奈用のプレゼントは俺の家にあるので一度それを取りに戻らなければいけない。
それでも五分くらいあれば取りに戻れると思うのだが。そう考えていると、優奈が首を横に振って、
「大丈夫ですよ。明日もお邪魔するのですから、そのときにいただきます」
「そうか。これ、今開けてもいい?」
「その、できれば自宅で開けてほしいです……」
俺の問いに答えた優奈の頬が微かに赤く染まる。その変化に気づきながらも「分かった」とそれだけ答えて、優奈から貰ったプレゼントを右腕に抱えた。
「じゃあまた明日な」
「はい。行くときはまた連絡しますね」
「おう。おやすみ」
「おやすみなさい」
手を小さく振る優奈に見送られながら、俺は玄関を出る。施錠された音を確認したあと、俺は歩き出して部屋のある五階へと向かった。
靴を脱いでリビングに向かうための扉を開けると、思ったよりも冷えていて慌てて電気と暖房を付ける。
今日は机に向かって勉強する気にもなれない。それは明日以降の自分に任せることにして、部屋着に着替えてお風呂の準備にとりかかる。
やるべきことを終えた俺はソファーに腰掛けた。優奈から貰ったギフトボックスを片手に。
(何をプレゼントしてくれたんだろ……)
プレゼント交換のときとはまた違う身体が熱くなるような、鼓動が高鳴るのを感じながらギフトボックスの上蓋を開けた。
目に入ったのは綺麗に畳まれた一枚の洋服で、俺は取り出して広げる。
それは美しい編み目が特徴のブラウンのケーブルセーターだ。
クラシカルな雰囲気が印象的なケーブルセーターと落ち着きを感じさせるブラウンの組み合わせ。試しに身体に合わせてみてもサイズ的にも問題ない。ブラウン系の服はあまり着る機会がない俺だが、優奈が選んで買ってくれたということは似合っていると思ってくれているのだろう。
明日優奈が来たときにこれを着て待っているのもいいかもしれない、とそんなことを思いながら見ていると、俺はあるものに気がつく。
畳まれていたセーターの下に一通の手紙が入っていて、シンプルなリボン付き洋型封筒には俺の名前が書いてあった。
サプライズのために、セーターを購入したお店でギフトボックスに仕舞う前にこの封筒を入れてもらうよう頼んだのだろう。
俺は手紙を手にして、文字に目を通し始めた。
良くんへ
まず初めに、メリークリスマス。
この手紙を読んでくれているということは、その日は二十四日のクリスマス・イブということでしょう。
今年で二回目のクリスマス・イブ
去年はイルミネーションを見に行ったり一緒に豪勢な食事を食べたり、直接想いを言葉で伝えたりすることができました。
今年は結月さんのお家でパーティをするということで、言葉で伝える機会があまりないと思ったので、今年は想いを言葉ではなく文字に書き起こして伝えようと思います。
いざこうして手紙を書き始めていますが、言葉にして伝えることとはまた違った恥ずかしさを感じてしまいますね。
そして文化祭の夜のこと覚えていますか?
良くんが勇気を出して言ってくれた想いの言葉、わたしは今でも覚えていますよ。本当に嬉しかったです。
それよりも前の出来事も、もちろん覚えています。嬉しかったり楽しかったり、もちろん嫌なこともありましたけど、今となってはそれもいい思い出だと思えますし、それがあったから今があると思います。
良くんもそう思ってくれていたら嬉しいです。
恋人になって、良くんのことをより深く知って、勉強もバイトも頑張って、将来の不安や過去ともちゃんと向き合って乗り越えて、時折り見せる弱いところがちょっと可愛く見えたりして――、
でも、その全部を含めた良くんがカッコよくて、凄く尊敬しています。
今も良くんが、将来の夢に向かって一生懸命努力している姿を、わたしは知っています。
そんな良くんなら、必ず夢を叶えてなりたい姿になれると、わたしは信じています。
そして、叶うなら来年もこれまでのように穏やかで楽しい日々を送りたいですし、そしてこの先もずっと一緒に過ごしていきたいと思っています。
長々と書いてしまってすみません。
最後に、これだけ伝えさせてください。
良くんのことをこれまでも、そしてこれからもお慕いしています。
これからも、よろしくお願いします。
優奈より
読み終えた手紙を静かにテーブルに置く。
胸の奥から込み上げてくる感情が目や口から溢れ出しそうになって、俺は両手で口元を覆う。
確かにこれを目の前で見られたら、顔を見ることができなくなって逃げ出したくなるだろう。
それだけ想いの込められた恋文だった。
込み上げてきた感情は溢れ出る寸前で止まったが、ストレートな恋文をノーガードでまともに受けてしまった俺には、心に幸福というとんでもないくらいほどのダメージを負ってしまって、うつ伏せになるようにソファーに倒れ込む。
この心臓の鼓動は、もうしばらく止みそうにもない。




