パーティー前のデート
冬休みに突入した十二月二十四日。
駅前を照らす柔らかな日差しを浴びながら、俺と優奈は外へ繰り出している。
夜からのクリスマスパーティの前に、二人で過ごすクリスマスイブ。去年のクリスマスイブは、しんしんと降り積もる雪の中で、夜のイルミネーションを撮影したりした。
思わず口元が緩んでしまいそうな、そんな思い出にふけりながら街並みに視線を向けて、
「雪が降らなくて良かったな」
「でもそれはそれで少し寂しくないですか?クリスマスイブって感じがしないというか」
「確かに雪がイルミネーションを映えさせるってのは間違いなくあるだろうな」
今年、優奈と外で過ごすクリスマスイブは、去年とは真逆の状況。彩るイルミネーションも日中のためその輝きを放とうとはしない。夜になれば、この景色は幻想的な風景へと一変する。
去年の経験上、ここの往来は今の時間帯よりも夜の方が間違いなく多くなるだろう。
午前中は映画を観たあとに近くのラーメン屋で昼食を食べてきた。そして今、俺たちは年末年始の準備などの必要な物を購入するため商業施設へと向かっていた。
そういえば、と優奈がふと呟く。
「良くんは年末年始どう過ごされるのですか?やはりご実家に帰省されるのですか?」
「いや。それが実は母さんが大晦日に家に来るって連絡が入ってさ。今年は俺の家で年越しするんだってさ」
昨日母さんからメッセージが来て確認すると、『今年の大晦日、良介の家で過ごすから』と、なんの前触れもなく届いたのだ。理由を聞いても特に大した理由はないらしく、ただ俺の家で過ごしたいから出そうだ。
お雑煮は作れるがおせち料理は作ったことがないため、大晦日は母さんと二人で準備することになるだろう。
「優奈の方は、圭吾さんと希美さんはいつ戻ってくるんだ?」
「三十日には戻ってくるそうです。おそらく三人家でのんびり過ごすと思います」
「まさか母さん、優奈や希美さんに会いたいから俺の家に来るって言い出したんじゃないだろうな」
母さんのことだからその線も十分に考えられる。というかそれ目的なんじゃないだろうな。
まぁでも、彼女とその母親と仲が良いことは俺としてもやりやすさはあるしそこまで変な気を遣う必要もないのは結構ありがたいことではある。
「わたしは嬉しいですよ。お義母さまのこと好きですし、お母さんもわたしと一緒でしょうから」
顰めっ面で言葉を吐いた俺に、優奈は薄く微笑みを浮かべてそう言った。
「母さんが聞いたら泣いて喜ぶやつだな」
商業施設に辿り着いた俺たちは、早速買い物を始める。
俺と優奈が欲しいものは大体被っていて、大晦日に食べる年越し蕎麦と元日に食べるおせち料理とお雑煮の材料。
食材の買い出しが終われば、最新の調理器具や掃除用具、新しく出た冬服を見て回るなどウインドウショッピングを楽しんで、時間はあっという間に過ぎていった。
「良くん。荷物大丈夫ですか?」
エスカレーターで一階に降りていたときに、優奈からそう声をかけられる。
「わたしの方は軽いのですからもう少し持てますよ」
「あぁ、これくらいなら全然」
両手には俺の優奈の重ためな荷物を持っていてる。流石に全部は無理だったので、優奈には軽めな荷物を運んでもらっている。俺から優奈に言ったので気にする必要なんてこれっぽっちもないのだが。
「ふふっ、良くんは頼もしいですね」
そんな会話をしながら、俺たちはエスカレーターを降りる。そんなときにあるものに視線が向いた。
年末年始のイメージカラーの紅白の横幕のテストが設営されている。テーブルの上には商店街でよくありそうなイメージのある抽選機が。
「おっ、抽選会やってんじゃん」
「せっかくだし少し覗いて見ましょうか。ちょうど券もいただきましたし」
俺と優奈が足を運ぶと、そこには五十代くらいの男性の姿があった。
「おー、いらっしゃい。お二人とも若いねぇー」
そう声をかけられて苦笑を浮かべながら、テーブルに貼られている貼り紙に目をやる。
玉の色ごとの景品が掲載されていて、一等は三泊四日の沖縄旅行、二等は最新ゲーム機、三等に黒毛和牛など、中々に豪華なラインナップだ。
ここまで豪華だと当たりが入っているのか不安にもなる並びではあるのだが。
「一回につき抽選券一枚だよ」
「そしたら俺らが回せるのは三回だな」
俺は先ほどの買い物で貰った抽選券三枚を財布から取り出して、男性に渡す。
「ちなみに優奈は何を狙う?」
「わたしは三等が欲しいです」
ちなみに俺も三等狙い。沖縄旅行も行けるなら行きたいが、確率的に一等は希望薄。最新ゲーム機も今はそこまで興味がない。一番現実的かつ欲しいと思うのは、やはり三等の黒毛和牛だ。
一回目、三等狙いの優奈が抽選機を回す。三回ほど回すと、白い玉が出た。
「はい、残念賞のティッシュ」
ポケットティッシュを貰った優奈はそれを見つめてムスッとした表情になる。
「次、良くん引いていいですよ」
「俺こういうの運ないんだよな」
二回目、俺はゆっくりと抽選機を回す。二回転させると白い玉が顔を出す。
「はい、残念賞のティッシュ」
やはりこういうときの運は俺にはない。
プレゼント交換のときも爆弾を引かされるような気がしてきた。
ラスト三回目、優奈が抽選機を回す。しばらく回すと、黄色の玉が転がった。
「おー!おめでとーう!四等の特産ズワイガニー!」
特産ズワイガニは一週間後に郵送して届けられるようで、とりあえず住所だけを書いて俺たちはこの場を去る。
「とりあえず、残念賞のティッシュではなくて良かったですね」
「まぁな」
お目当ての黒毛和牛でなかったことは残念だが、特産ズワイガニも普段中々食べられるものではない。
これはこれでよしとするかと、俺と優奈は商業施設を後にした。




