表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
314/352

炬燵と毛布

 目の前にズラリと並んでいる数多くの炬燵を目にして、顎に手を当てている俺は小さく唸り声をあげた。


 前々からカタログで相場や性能は調べていて、ある程度の目星は付けてきた。そのため早々に二つまで絞ることができたのだが、その二つがどちらも甲乙付け難いもので、それが俺の唸り悩む原因の種となっている。


 一つは右にある二万円の炬燵。少し小さいが俺と優奈の二人で使用する分には丁度いい大きさ。

 もう一つは左にある二万八千円の炬燵。横幅と奥行きは一つ目と同じ。細やかな温度調整ができて、天板+ヒーターの厚みが一つ目よりも薄く、足の組み替えなどストレスなく行えるのが利点。

 ただ性能のが良い分、他の商品に比べるとやはり金額は高めに設定されていて一番ネックな部分でもある。


 幸いにも俺の財布の中には三万円の大金が入っているので、一応どちらも購入できるわけなのだが、


「ちなみに優奈だったらどっち買うよ?」


 俺は隣にいる優奈に意見を求めた。

 これは俺と優奈が冬の間自宅で暖かく過ごせるようにと思って購入に乗り出したものだ。

 俺の意見もそうだが、優奈の意見も尊重するべきだろうと考えた。


「……わたしだったら左のものを買いますね」


「ほう。それまたなんで?」


「これから長く使うことを考えたら少しでも機能性が優れたものの方がいいですし、それなら多少金額が張っていても十分に元がとれると思いますから」


「なるほど」


「でも最終的には良くんがいいと思ったものを買ってください」


 的を射ている優奈の発言に、俺は頷いて再度思考する。そんな俺に優奈はそう言葉を送った。


 もし購入したとして今年、そして来年。この先の未来――進路の関係も絡んでくるだろうが、何事もなければ、この先も優奈と一緒に過ごしていくだろう。目先だけでなく長期的なことを視野にして考えれば、金額よりも機能性の方が優先される。 

 諸々のことを考えれば、さっき優奈が言っていた通り、多少金額が張っていても長年使っていれば金額以上の元が返ってくる。

 

「そうだな……そしたらこっちを買うか」


 その他諸々を加味した上でしばらく熟考した俺は、左の方を購入することを結論付けた。


☆ ★ ☆


「悪い優奈。買い物もうちょい付き合ってくれ」


 目当ての炬燵を購入し終えたあと、俺は優奈に言った。


「他に何か気になる商品でもあったんですか?」


「まぁな。ちょっと寝具が気になっててさ。毛布とか色々見てみたいなって。買い物ってよりはウインドウショッピングなんだけど」


 先ほどの買い物で俺の財布の中身はほぼ空っぽになってしまい、自販機で飲み物を買えるくらいのお金しか残っていない。元より今日は炬燵を購入するのがメインであったため、寝具はどんなものがあるか目だけ通して、後日買いに来る予定だ。


「いいですよ。わたしも今どんな寝具が揃っているのか気になりますから」


「よし。んじゃ行くか」


 身体をくるりと百八十度回転させて、会計にいた足をまた売り場へと戻す。そしてそのまま、寝具コーナーへと向かう。


 寝具は一人暮らしを始める記念として買ってもらったものなので、買い手目線でこうして目をするのは初めてだ。

 色合いやデザインは当然だが、使用している素材や付与された機能性が様々あって、ライフスタイルや住環境によって選ぶことができるため、毛布一つとってもここまで種類が豊富なのかと、唸り声を上げそうになる。


 優奈は俺から少し離れた場所に置いてある毛布の肌触りを確認していて、気に入ったものがあったのか、柔らかな表情を浮かべていたので俺は優奈のいる場所へと向かって、


「なんか気に入ったものでもあったのか?」


「この毛布。肌触りが凄く良くて気持ちいいんですよ。それに保温性も高くてこれなら夜もぐっすり眠ることができそうだなって」


「おぉ。確かに肌触りいいな」


 俺は手を伸ばして優奈が手にした毛布に触れると、感想を口にした。


 優奈は体温が低めだし、夏に冷房を効かせて眠っていたときもピタリと俺の側にくっついて離れなかったくらいに寒いのが得意でないことは知っている。

 それを使うことによって発動するくっつき虫のようなところを見れるのも可愛いところなのだが、その毛布を使えばそれも見れなくなってしまいそうで少し寂しいような。


「心配しなくてもこの毛布を使うとしたら一人で眠るときに使います。良くんと寝るときは使いません」


「なんで分かるんだ」


「分かりやすく顔に書いてありますよ」


 動揺を見せながら目を開いた俺に、優奈は微笑みを浮かべながらそう言って、続けた。


「良くんの体温は、どんな毛布よりも温かくて凄く安心できますから……」


「……そりゃどーも」


 優奈が送ったその一言は、今ここに並ぶどんな毛布よりも温かくて、むしろ暑すぎるくらいで確かな熱をもたらした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ