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くっつき姫再来

 家電屋に着くと、心地よい室温が俺たちを出迎える。

 俺たちはその足でエスカレーターに乗って暖房器具類が並んでいる二階のフロアへと向かった。


「おー。結構混んでるな」


 時期が時期なだけに、訪れている人はかなり多い。暖房器具も数多く揃っているが、その中でも人気なのはやはりエアコンや炬燵、次いで寝具と言ったところだろう。


「やはり外に比べて室内は過ごしやすいですね」


「そうだな。少し暑いくらいか」


 外はもちろん冷えていたのだが、その上肌を突き刺すような冷気が吹き込んでいたため、気温以上に寒かった。それを見越してかなり厚着をしてきたのでこの室内が暑く感じ、俺は首元を暖めてくれたマフラーと羽織っていたコートを畳んで、腕にかけた。


「わーいっ!」


 歩いている途中、その後ろから声が聞こえてきて、振り返ると子供が元気よくこちらへ走ってくる姿が視界に入った。 

 その子供がそのまま真っ直ぐ走ってくると、その直線上にいた優奈にぶつかってしまう。 


「――っと」


 俺は優奈の背中に手を回してこちらへと抱き寄せると、優奈の小さく美しいかんばせが胸元へポスッと収まる。

 塞がっていた進行通路が開いて、子供はそのまま真っ直ぐ走り抜けていき、さらにその後ろから「こらっ。走らないのっ!他の人に迷惑かけるでしょっ!」と注意する母親の声と、俺たちに迷惑をかけたことへの詫びとして、こちらに視線を向けて小さく頭を下げて、その後を追った。


「ごめんな。急に抱き寄せて。びっくりしただろ」


「いえ。ありがとうございます……」


 背中に回していた手を解くと、優奈は胸元に収めていた顔を上げた。その頬が赤らんでいたのは、抱き寄せられたことも少なからずあると思うが、周囲にその光景を見られてしまったことが一番だろう。


 もちろんほとんどの人はこちらなんて見向きもしていないだろうが、全員がそういうわけではない。経緯がどうであれ、その様子をさっきの子供の母親と俺たちの近辺にいた人たちは目撃していたるのだから。


 優奈が周りの目を惹くほどの魅力的な人間であることを認識させられる。それが当たり前だと思っていても、今みたいにふとした瞬間にそれを実感させられて、優奈の隣に立つ以上はしっかりしなければいけないと身が引き締まる思いになる。


そして、久しく忘れかけていたこの感じを思い出してどこか懐かしむような、そんな能天気なことも脳裏にチラリとよぎった。


「ほら、いくぞ」


 気を取り直して、俺が右手を優奈に差し出した。


 手を繋ぐ、俺はその意で手を出したつもりだったのだが、優奈は手を握るのではなく俺の腕に自らの腕を絡ませてきた。


「手繋ごうって意味だったんだけどな」


「わたしがこうしたくてやったんです。それにさっき抱きついてしまったのですし、腕を組んだって変わりないでしょう?それとも、良くんはこうされるのが嫌なのですか?嫌なら離れますけど」


「嫌なわけないだろ。驚いただけだ」


 優奈はプクッと頬を膨らませてご機嫌斜めであることをアピールしたが、優奈の行動は反して俺の腕から離れる気配が全くない。

 むしろ嫌と言った方が本当に優奈の機嫌を損ねるような気がするし、俺も嫌だなんて微塵も思っていないから離すつもりもない。


 そう言った俺に、優奈は膨らませていた頬の空気を抜いて笑顔を浮かべると、絡めていた腕に身体を密着させる。


 俺も口元を緩めて、止めていた歩を一歩前へ踏み出した。

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