結果発表
各団選抜リレー二年の部は三位。三年の部は二位という結果に終わった。正直微妙なところであり、一位の緑の結果次第によって総合順位が変わってくる。
「各団足踏みーー始め!」
そして閉会式。アナウンスの声が響き、俺たちはグラウンドに集まる。体育祭の実行委員らしき生徒が前に出てきて一礼。俺たちも遅れて一礼する。
「成績発表!一位……」
三年生はごくりと唾を飲み込む。
「緑団!」
直後、緑団の生徒は歓喜の声を上げた。
男子生徒は手を交わし合い、女子生徒たちは抱き合っていた。
「二位!白団!」
一位との差はほんの僅かだった。それでも自分たちの健闘を讃えて拍手する。
そして第三位、第四位の団も発表された。
☆ ★ ☆
成績発表の後、またまたお偉いさんのありがたいお話を聞いて、団長や副団長、その他応援団員を担当した三年生たちの一言。という時間を十五分ほど与えられた。
「ーーということで、来年も頑張ってください!ありがとうございました!」
応援団員の一人が言い終え、残りは島田先輩と綾瀬先輩を残すのみとなった。
「えー皆さん。副団長の綾瀬です!結果は見ての通り二位です。もちろん優勝できなくて悔しかった……ですけど、これ以上に楽しかったです!それはこの三年生と、一、二年生のみんなだったからこそだと思います!みんなと体育祭ができて最高でした!」
綾瀬先輩が深くお辞儀をすると、俺たちは拍手を送った。
残りは団長。島田先輩のみである。
「島田くん。ラストしっかり締めてね」
綾瀬先輩にそう言われ、彼は頷いた。
「えー。団長の島田です……」
声はもうガラガラで何を言っているか分からない。「島田くん何言ってるか分からないよー!」などと笑い声が聞こえ、島田先輩は「すまん」と手で合わせる。
「僕が一、二年のとき、白団は最下位でした。僕が団長になろうと決めたのは二年生の体育祭が終わった直後でした。団長になって白団を優勝に導きたい。その想いを胸に、今日という日に懸けてきました。でも……結果はあと一歩の二位。正直悔しいです。だから……みんなには約束してほしい…」
ゴホンと咳払いを一つして、
「来年こそは優勝!この二文字を必ず掴んでください!僕も最高に楽しかったです!ありがとうございました!」
島田先輩に割れんばかりの拍手が送られた。
時間は十分ほど経過していて、まだ少し時間が残っていた。
「島田くん。このあとどうしよっか?」
綾瀬先輩が島田先輩に問いかける。
テントの中にいた三年生からは「郁人!このまま終わっていいのかー!?」「まだ言うべきことあんだろー!」と声が飛ぶ。
俺たちの前に立っていた三年生も、何のことかを理解したのかニヤニヤしている。そこには日比野先輩もいて、「もう言っちゃいなよ」などと言っている。
俺たちも三年生の言っている意味が分かっていた。綾瀬先輩だけが「え?なんのこと?」と首を傾げている。
優勝した団の団長と副団長を務めた男女は付き合うことができるという噂。
しかし俺たちは二位。優勝は逃したし、噂であるため優勝しても付き合えるという保証はない。
だが島田先輩はこの二年間、ずっと綾瀬先輩に想いを寄せ続けてきたのだ。むしろこれ以上の場はない。
やがて島田先輩は、意を結したように凛とした顔つきへと変わる。
「あ、綾瀬さん」
「ん?島田くんどうしたの?」
何も知らない綾瀬先輩は、無垢な笑顔を島田先輩に見せる。
俺たちはただその場を静かに見つめていた。
「えっと……一年生のとき……同じクラスになったときから綾瀬さんに一目惚れしました!好きです!付き合ってください!」
島田先輩は顔を赤くしながらも、二年間溜め込んでいた想いをぶつけた。直後、「キャー!!」という声が飛び交う。その様子は他の団の生徒、そして先生までもが注目して、彼らの視線は二人に注がれた。
綾瀬先輩は一瞬なんのことか理解できずにいたが、状況を理解すると見る見る顔が赤くなる。
「はい……わたしも島田くんのことが好きでした……こちらこそよろしくお願いします……」
先ほどより何倍もの黄色い声が学校中を包んだ。一年のときからそのことを知っていた三年生は「やっとかよ!」と言いながらテントを飛び出す。
「お、おい!お前ら……」
「想い伝えるの遅すぎんだよ!」
「見てたこっちが恥ずかしくなったわ!」
三年生は島田先輩を取り囲んだ直後、先輩の身体が宙を舞ったのだ。一回、二回、三回、それでも終わる気配はない。
対して綾瀬先輩は手で顔を覆っていて、日比野先輩を始めとした女子生徒たちに祝福されている。
「噂なんて関係なかったな」
真司がボソッと呟く。
「結果ももちろん大事なんだろうけど、その人の取り組む姿勢や気配り、そして振る舞い、そういう小さな積み重ねの先に結ばれる恋もあるってことだろうな」
「まぁ、この光景を見たらそう思うわな」
俺たちは未だに胴上げされている島田先輩を見る。
「全く、俺たちの団長はカッコいいよ」
☆ ★ ☆
「疲……れた」
優奈と一緒に下校して家へと帰宅しシャワーを浴びたあと、俺はソファーに倒れ込んだ。
その後、先輩たちは他の団の三年生や先生たちからも祝福を受けていた。その光景を遠目で見ていた二年生たちは、「来年は自分が……!」という闘志の炎を目に宿していた。
日比野先輩にも「今日はありがとうね」と優しく声をかけてもらった。まぁなんだかんだいって、楽しかった体育祭であった。
それにしても本当に疲れた。
腹は減っているが、それ以上に眠気が勝っている。もう寝ちゃおうと思っているとーー
インターホンが鳴り響く。
玄関へと向かうとそこには、
「今日は良くんの家でご飯を作ってあげようとおもいまして」
片手に袋を持った優奈が立っていたのだ。
「良くん。すごいお疲れなようでしたから、すぐ寝ちゃうと思ったんです」
毎度のこと、よく俺の心の中が読めるなと思う。
「手伝う」
「今日はわたしが当番ですから」
「いや、でも優奈だって疲れているだろうし」
種目数は多いとはいえお互いに焼けるような暑さの中、一日頑張ったのだ。
「わたしは大丈夫です。ほら。ソファーでゆっくりしていてください」
袋から可愛らしいエプロンを取り出すと、それを身につけて早速準備にかかる。ちなみに優奈は俺の家のキッチンの調理器具や調味料がどこにあるのかは把握済みである。一回見たら覚えたらしい。
「告白。上手くいって良かったですね」
「そうだな。島田先輩頑張ってたからな。報われて当然だろ」
トントンと野菜を刻む音が響く。
「それとリレー。お疲れ様でした」
「勝っただろう。ギリギリだったけど」
「それでも良かったです。良くんが勝ってくれて」
「これからも優奈の護衛役は俺だ。だから安心してくれればいい」
「はい。それと良くん……名前呼び……」
「気づいたらこう呼んでた。それとも嫌だったか?」
「嫌なんかじゃありません。嬉しいです」
「良かった」
先輩たちの恋の成就。俺たちのいつも通りの平和を手に入れて、暑くて熱かった体育祭は幕を閉じた。
☆ ★ ☆
余談だが体育祭が終わった翌日、真司は日比野先輩に告白したらしいが、彼氏がいたようで見事に粉砕したそうだ。




