着付け体験②
「偶然だな。優奈たちも今来たのか?」
偶然の出会したことに俺も少々驚いて軽く目を開きながら、優奈たちに問いかける。
「はい。本当にたった今。というかその格好は……」
「あぁこれ。ここの『扮装館』ってとこで着付け体験やっててこの衣装に着替えたんだよ」
俺は今、白袴に浅葱色のだんだら羽織というこの時代の隊服の衣装に着替えている。
この隊服については色々と諸説があるようだが、皆が最初に思い浮かべるこの時代の隊服といえばこれだろう。
頭には白い鉢巻を身につけ、腰にはレプリカの刀を差している。
「カッキーいいねー。サマになってるよー」
「本当のお侍さんみたいなの」
「天ちゃんは柿谷くんの格好どう思う?」
平野さんと東雲さんが格好を見た感想を口にする中、瀬尾さんが優奈に話を振って感想を求めた。
「カッコいいです。凄く似合ってます」
「ん。優奈にそう言ってもらえて嬉しいわ」
大きな瞳をスッと細めて柔らかく微笑んだ優奈に称賛の言葉を送られて、俺も口元を緩める。
やはり優奈に褒めてもらえるのが、何よりも嬉しく自信になる。
「おっかしいなー。わたしたちも同じ言葉を送ったはずなのになー」
「優奈ちゃんとわたしたちには絶対的な差があるから仕方ないの」
自分たちの言葉が届いていないことに、二人はわざとらしく眉間に皺を寄せて不満げな表情を浮かべた。
「柿谷くんが着替えたってことは、斗真くんたちも今『扮装館』の中に?」
「あぁ。だからもうそろそろ出てきてもいい頃合いだと思うんだけどな」
噂をすれば影が差す。
各々用意された衣装に着替えた斗真たちがその姿を見せた。
「おっ。梨花じゃん。この衣装どう思う?」
瀬尾さんがいることに気がつくと、目を見開いた反応を見せつつ、着替えた衣装についての感想を求めた。
黒で統一されている家紋入りの半着と袴に、腰には俺と同じく刀を差し込んでいる。
「うん。よく似合ってる」
「へへっ。やった」
贔屓目なしで褒めているであろう瀬尾さんの言葉に、斗真は瞳を輝かせて小さく笑った。
秀隆と純也は派手な袴に丁髷のかつらを被った殿様風の着付け。
真司は頭から足元まで全身黒い衣服を身に纏った黒装束。顔も口元は黒い布で覆われていて、目元しか見えない。頭に巻いてある頭巾の額の部分には『忍』と文字が大きく書かれていて、すぐに忍者だということが分かる。
「みんな似合ってんじゃん」
「なんかこう身が引き締まる感じがするよね」
「てか今のうちにこの格好で写真撮らね?」
邪魔にならないよう『扮装館』の隅によって、記念撮影する。そんな俺たちの姿を見ていた平野さんが、優奈たちにこう言った。
「ねっ。わたしたちも着付け体験しない?」
「わたしは賛成なの」
「そうだね、楽しそうだし。天ちゃんも一緒に着よ。柿谷くんも天ちゃんの着付け姿、気になるよね?」
「なんで俺に聞くんだよ……」
彼女たちも着付け体験に乗り気な様子を見せる中、瀬尾さんは優奈の着付け姿について本人よりも先に俺に話を振った。
「まぁそりゃ気になるだろ。多分……いや絶対似合うだろうし……」
「もう……ハードル上げないでくださいよ。でも良くんが見たいって言うなら……」
優奈なら何を着ても似合うことは俺が一番知っている。それをみんなの前でいうのは多少の照れくささもあったが、絶対的な確信を持っているのも事実。
持ち上げられる期待に、優奈は小さく言葉を吐いたが、満更でもない様子だった。
「決まりだね」
小さく笑う瀬尾さんの笑みは、どこかしたたかでしてやったりと感じるもの。
俺が見たいと言えば、優奈は絶対着るってことが分かって俺に聞いてきたのだ。全くいい性格している。
「それじゃあ早速入ろうよ」
「着付け楽しみなの」
「だねー」
平野さんがそう言い残すと、『扮装館』へと入っていく。最後尾にいた優奈が中へ入る直前に、俺の前で足を止めて、
「少しだけ待っていてくださいね」
「おう」
口元をへにゃりと緩めて笑みをこぼすと、瀬尾さんたちの後を追って『扮装館』へと姿を消した。
俺たちの着付けはそうかからなかったが、女性の着付けとなると身につけるものも多いと思うので、それなりに時間を要するだろう。
「それで俺らはどうするよ。とりあえず良介は確定で待機だろ。天野さんの着付け姿見ないとなんだし」
「もしあれなら、みんなはみんなで回ってきてもいいぞ。待ってて時間を潰すってのももったいないだろ」
俺は優奈の着付け姿を拝めるなら時間に関してはあまり気にしないが、俺の都合に合わせてみんなの時間を奪うのも忍びない。
それにこの施設内のどこかにいるのだから、何があっても連絡をすればすぐに会える。
「俺は梨花の着付け姿が見たいから良介と一緒に待つわ」
「みんなはどうするよ」
「あー。じゃあ回ろっかな」
「そうだね。俺も行きたいところもあるし」
「戻ってきたら天野さんたちによろしく言っといて」
「おぉ。待ち合わせ場所とかはまた連絡するわ。じゃあまた後でな」
一旦三人とはその場で別れ、彼らは一足先に施設内を回り始める。俺と斗真は『扮装館』で優奈たちの戻りを待った。
「思ったけど、いつもみんなと一緒にいたから良介とこうして時間潰すのって久々じゃね?」
「言われてみれば確かにそうかも」
高校生になってからは、優奈やみんなと過ごす時間が大半を占めていたが、中学までは家にいる時間を除いてはほとんど斗真や瀬尾さんと一緒にいた。そう考えると、改めて自分を取り巻く環境が変わったような気がする。
「進路のことだけどさ、良介は第一志望ほぼほぼ固まってんだよな。家からどんぐらい?」
「新幹線で大体一時間くらい。そういうのは受かってから考えるさ。そういう斗真こそ進路はどうなんだよ?」
「あー。実はまだ悩んでるっちゃ悩んでる。スポーツ推薦でサッカーの強豪校に行くか、一般入試で別の道に進むか」
問いかけに、斗真は苦笑いを浮かべて俯いた。
「大会で結果は出してんだろ」
「それなりには。でも理想と現実の線引きはしないといけない時期に差し掛かってるからな」
親友とか関係なしに、斗真の実力は全国でも十分通用するレベル。実際ありがたい声をもらっているというのも聞いた。だが通用するかどうかは別問題、だから斗真は悩んでいるのだ。
「好きなことで飯食ってける人なんて一握りだからな。なんかあったときのために道は多い方がいい。それにサッカー強くて勉強も大事にしてる大学もあるしな。次の大会の結果次第で考えをまとめようかなって思ってる」
「そっか。まぁ頑張れよ。二年生エース」
話に夢中になって時間がそれなりに経過していたのだろう。斗真と進路についての話をしていると、四人の影が見えた。
俺と斗真は、お互いの想い人のその姿に心を打たれた。
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