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俺はストーカーじゃない

「やっぱりストーカーじゃないですか」


 俺の顔を見るや、天野さんがそう言い放った。


「たまたまだ。野菜を切らしてて今日必要だったら買いにきた。それだけ」


 それでも疑いの目を向けられ続けて、俺は肩をすくめること以外できなかった。


「いいや。それやるよ。これがいいんだろ」


「はい。そもそも私のほうが先にとったので」


「なんともまぁ可愛げのないことで」


「すみませんね」


 そう言って彼女は玉ねぎをカートの中に入れる。あれは艶があって身が引き締まっていたのだがな。仕方ない。他のやつを探すとするか。


 俺がうーんと唸りながら、玉ねぎを見つめていると、天野さんが口を開いた。


「柿谷くんも買い物されるんですか?」


「あぁ、言ってなかったな。俺も一人暮らしなんだよ。でも最近買い物に行ってなくてな。だから来たんだ。俺は断じてストーカーではないぞ」


 天野さんはしばらくの沈黙のち、


「分かりました。そこまで言うのなら信じます」


「えー。信用されてないのかよ」


 そう文句を垂れつつも俺は玉ねぎを選び、人参と白菜、そして日用品であるトイレットペーパーと歯磨き粉、シャンプーとリンスを購入した。


「……なんでついてきてんの?」


 そう、天野さんは俺の後ろをついてきているのだ。これではまるで彼女が俺をストーカーしている絵になってしまう。


 様子を見る限り、ある程度買い物は済ませているようだった。カゴの中身はあえて見ていない。怒られると思ったから。


「いえ、少し気になったもので。思いの外きちんとされているんだなと思いまして。少々驚いています」


「そりゃどーも」


 意外だと言いたげな天野さんに、軽い返事を返す。

 必要なものも買えたので、レジに並ぶ。天野さんも俺の後ろに並んだ。


「りょーくん!今日は彼女さんと買い物!?」


「違います」


 顔馴染みであるパートのおばちゃんのところに並んだのが間違いだった。確かに俺と天野さんは学校帰りであるため、制服でスーパーに訪れている。側から見たらそう見えるのだろうか。


「えー!りょーくんの彼女さんじゃないの!?」


「はいそうです。そんな関係ではないのでご心配なく」


 そう言うと、おばちゃんは面白くなーいと言いたげな表情を浮かべた。ごめんなさいね。ご期待に添えなくて。


 対する天野さんはというと、特に照れた様子を見せることもなく表情を変えることはなかった。


☆ ★ ☆


 互いの買い物を済ませて、エコバックを片手にスーパーを出た。


「ん」


「……?」


 左手を出す俺に、天野さんは可愛らしく首を傾げた。


「持つ」


「それほど重くないので大丈夫です」


「人のご厚意には甘えておいたほうがいいぞ」


 昨日彼女から言われた言葉をそのまま返す。

 

「でも、柿谷くんの方が明らかに重そうですよ」


「別に。これぐらいなら大丈夫。いいから早く貸せ。隣に立たれたくないんなら、少し離れて歩くから」


 天野さんはしばらく考えたあと、エコバックを俺に渡した。


「じゃあ……お願いします」


「おす」


 彼女からエコバックを受け取り、俺は歩き出した。天野さんも俺の隣を歩いていた。


「別に無理して隣を歩く必要はないんだぞ」


「持っていただいているんですから、離れて歩けなんて言えるわけないじゃないですか」


 それはつまり持っていなかったら離れて歩けってことなんですかねぇ。などと勝手に思いながら帰り道を歩く。


 隣を歩く彼女からフローラルの匂いが鼻をくすぐる。天野さんの方を見ると彼女は黙って歩いていた。髪の毛一本一本に艶があり、思わず見惚れてしまうほどだ。


 しばらくして、彼女が俺の視線に気がついたのかこちらを見る。


「どうしたんですか?」


「いや……なんでもない」


 髪がいい匂いしたから見てた。なんて言ったらそれこそ警察に通報されかねない。ここはなんとか上手く誤魔化すしかないだろう。


「そうですか……」


「それにしてもなんでスーパーに?昨日も行ってたんだろ?」


「買い忘れたものがあったんで、今日はそれを。そんなに重くはないでしょう」


 なるほどと、俺は納得する。

 

「柿谷さんはなんで一人暮らしを……?」


 今度は彼女の方から質問が飛んでくる。


「まぁ距離かな。実家からだと電車でも一時間はかかるし。あとは一人暮らしに憧れていたから。そんな大した理由じゃねぇよ」


「へぇ」


 天野さんが興味を持った様子だった。


「天野さんは……?なんで一人暮らしを?」


「今両親は海外を拠点に仕事をしてて。今のアパートも両親が契約してくれたんです」


「寂しくはないのか……?」


「寂しくはないですよ。生活のために働いてくれてるんですし、今どきスマホで連絡できますから」


 そう言いつつも。天野さんの表情は少し曇っているように見えた。高校ではいつも笑顔でみんなと接している彼女とは思えないような悲しげな表情だった。


「そうか……」


 などと会話をしているうちに、アパートへと辿り着いた。


「持ってくださってありがとうございます」


「いいよ。缶ココア奢ってもらったお礼だ」


「ふふ。そうですね」


 俺はエコバックを彼女に渡す。天野さんが見せた柔らかな笑みに見て、俺も軽く笑みを見せる。


「それじゃあな」


「はい。また明日」


 天野さんは自分の部屋がある一階の廊下を。

 俺は階段を登り、自身の部屋がある五階へと向かった。


 部屋に戻り身支度を整えると、早速夕食の準備に取り掛かる。

 鼻歌を歌いながら調理を進めていき、程なくして出来上がった。


「いただきます」


 そう言って、炊き立てのご飯と肉団子スープを食べる。うん。我ながら良い出来だ。

 あっという間に食べ終わり、胃も満たされた。

 しかし少し作り過ぎてしまった。

 仕方ない。明日の朝ごはんにでもするとするか。などと考えて、食器を洗っていた。

十数話分ストックあるのでしばらくは毎日二,三話投稿します。  

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― 新着の感想 ―
今さらだけど、住んでいる部屋の階数は逆のほうがよかった気がします。 女性は1階だと防犯的に問題があるのでは?
[良い点] すごく甘々でした [気になる点] 奢ってもらったのがココアじゃなくて缶コーヒーになっていたのですがまた立たれたくが立たれなくになっていました
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