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自由時間②

 時は少し遡って十分前――


 俺たちはみたらし団子を口にしながら京都の街並みを見て回っていた。

 やはり京都は観光客が多く見受けられて、その中には同じ制服の生徒の姿もあった。


「このみたらし団子美味いな」


 少し大きめの団子はもちもちとした食感で食べ応えがあり、餡はとろとろで程よい塩味が効いている。俺は団子を一つ頬張ると、上唇に付いたみたらしを舐めた。


「それもそうだけどさ。この風景を見ながら食べるってのがポイント高いよな」


 隣で同じくみたらし団子を頬張っていた斗真が呟く。

 京都を穏やかに流れる川沿いと千鳥柄の提灯が夜の京都を照らし、幻想的な雰囲気を演出する。

 思わず魅了されるような景色も、美味しさを引き立てる一種の調味料だ。

 現に秀隆と純也は食よりも景色に心を奪われていて、スマホで何枚も写真を撮っていた。


「なぁなぁ。あっちで売ってるきな粉餅買いに行ってもいいか?」


 団子を食べ終えた真司が俺たちにそう尋ねた。

 手には食べ歩きで出たゴミを回収する袋を持っていて、その袋には既に多くの串や紙袋が詰め込まれている。


「相変わらずどんだけ食うんだよ」  


「真司の腹の中にはブラックホールでもあるんじゃないか。いいけど夕飯食えなくなっても知らないぞ」


「平気平気。行ってくる」


 俺は苦笑いで宿泊先の夕食のことを心配する声をかけるが、それを考慮してもまだ食べると言いたいのだろう。吸い込まれるように真司はあっという間にきな粉餅の売店に向かってしまった。


「良介。斗真」


 後ろからとんとんと肩を叩かれると、写真を収めていた秀隆と純也がすぐ近くまで来ていた。


「あっちあっち。見てみ」


 純也が指差す方向は先ほど真司が向かったきな粉餅の売店。そちらを見ると「あっ」と俺と斗真の口から思わず声が漏れた。

 偶然なのか、真司の後ろには小林さんが並んでいて、順番が来るまでの間二人は談笑を交わしていた。


「どうするよ。こんな偶然滅多にないぞ」


「ここは真司と小林さんの二人の時間にしてやるってのはどうだ?見たところ小林さん一人っぽいようだし」


「そうだよね。今後の予定とかも考えたら小林さんが真司と話せる機会ってのは今だけもしれないから」


 まさかこんなにも早く、しかも修学旅行のタイミングで来るとは思わなかった。だがこれは小林さんからすればこれ以上のシチュエーションはない。

 だとしたら俺たちがやるべきことは、真司を俺たちから遠ざけることだろう。


「真司も今スマホ持ってるよな」


「おう。さっき団子の写真撮ってたし」


「よっしゃ。ここは俺に任せろ。真司にメッセ送るわ」


 斗真がスマホを取り出して素早いフリック入力を行い、数秒ほどで真司に何かしらのメッセージを送ると、二人から距離をとってちょうどいい建物の影に身を潜めてそこから視線を送った。


 真司も斗真のメッセージをに気がついてスマホを確認すると、真司が吹き出した。

 小首を傾げる小林さんに真司がその内容を笑いながら伝えると、小林さんが少し驚いたような表情を見せた。


「斗真。真司になんて送ったんだ?」


「なんか二人楽しそうだし残りの自由時間は一緒に回れば?って送った」


 メッセージを受け取った真司は俺たちがいなくなっていることに気がついて、どこにいるのかきょろきょろと周りを見渡している。小林さんは小さく微笑んでいるが、その頬には先ほどまでなかった熱が浮かび上がっている。


 その後きな粉餅を購入した二人は少し立ち話を交わして、一緒に歩き始めた。


「よしよし。なんとか上手くいったな」


 その後ろ姿を見つめていた斗真がうんうんと首を縦に振って作戦の成功に喜びを噛み締める。


「真司は小林さんが自分に好意寄せてることに気がついてないのかな」


「あの様子なら気がついてないだろうな」


「真司はそういうの鈍いんだよ」


 真司の恋の経験上、追いかけることはあっても追いかけられることはなかったのだろう。


「仮に小林さんが告白したら真司はなんて答えるかな?」


「そこが読めないんだよな。真司って自分が好きになった相手には一直線だけど……」


「ねぇ」


「うおっ!」


 背後から突然声をかけられた斗真は大声を上げ後ろを振り返る。そこには覗き込むように遠くを眺めている俺たちを呆れたような目で見る瀬尾さんの姿があった。後ろには優奈と平野さんと東雲さんもいた。


「何してるの?そんなところでコソコソして」


「あー。実は――」


 斗真が瀬尾さんたちに事情を説明する。


「つまり白石くんと小林さんが一緒に行動できるようにさっきまでみんなが色々と動いてたってこと?」


「そそ。そういうこと。理解が早くて助かる」


「白石くんかー。運動できるし明るくて性格もいいからね」


「いいやつって認識の子は結構いると思うの」


「少しうるさいって思うこともあるけどね」


 少し厳しい声はあるが、それを差し引いても女子からの評価はそれほど悪いものでもない。

 小林さんが真司に好意を寄せるのも、最初はフィルターがかかっているのかと思ったのだが、こうして聞くとそういうわけでもないことが分かる。


「良くんたちはこのあとどうされるんですか?」


「んー。まぁこのままぶらつく感じかな。優奈たちは?」


「わたしたちは少し気になるお店があるのでそこに向かう予定ですね」


「そうそう。時間も限られてるから早く行かないと。それじゃあねー」


 軽い会話を交わしたあと、優奈たちは目的のお店へと向かってしまった。


「真司たちの件でそれなりに時間喰っちゃったし俺らも行こうぜ。今の景色見れるだけ見て回らないと」


 俺たちも再び夜の京都を楽しみながら見て回った。

「それで、あの後何かあったん?」


「何かって?」


「小林さんと二人で回っている最中に何かしらの動きはあったのかなと」


「いや。特に何も。一緒に見て回ってただけ」


「何か言われたりしてなかったの?」


「なに急に。怖いんだけど。てかあの時わけの分からないメッセ送ってきやがって」


「そんなのはいいからいいから。何か言いかけてたりとかなかったのか?」


「あー。そういや部屋戻る前に何か言いかけてたな」


「ん?言いかけてた?」


「おぉ。でもそろそろ飯の時間だったから先に戻ったけど」


「やっぱお前、残念すぎるやつだわ」


「は?どういう意味よそれ?」


「はーい。みんな。明日も朝早いから早く寝よーぜ。良介。電気消してー」


「はいはい。おやすみー」


「「「おやすみー」」」


「おいこら。誰か答えろ。どういう意味だって――」








お読みいただきありがとうございます。

二人の恋模様も今後書いていきます。


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