色恋
「マジ……っすか」
「はい。マジです……」
俺は呆気に取られて大きく目を開き、彼女――小林千春は、俺の驚きの声に小さく頷いて、 もう一度口にする。
「わたし……その、白石くんのことが少し気になっているというか……」
頬を染めて恥ずかしがりながら発する震え声は間違いなく本物。トドメに両手で頬を押さえるその姿はその確信を揺るぎのないものにさせた。
「マジか……」
それ以外の言葉が出てこないくらい戸惑っている自分がいた。でもそれと同時に良かったと思う自分もいた。
良かったな真司。お前のことを好きと言ってくれる女の子が一人いたぞ。
「詳しいことは分からないけど、真司と小林さんに何かしら接点があったのか?」
「それは――」
小林さんの口から接点が話し出されようとしていたとき、「お待たせー良介ー」と能天気な声が聞こえてそちらを向くと、真司を除いた三人がトイレから戻ってきたのだ。
「あれ?小林じゃん」
「久しぶり。大山くん」
意外そうに目を丸くしてそう言ったのは秀隆で、小林さんも微笑で応じた。一方で小林さんとは面識がない斗真と純也は小首を傾げた。
「二人って知り合い?」
「おぉ。一年のときのクラスメイト」
「なるほど。そういうことね」
確か一年の頃も真司と秀隆は同じクラスだった。つまり一年のときに接点はあったのだとすれば納得がいく。
「それで何話してたんだ?二人は多分面識なかっただろ」
面識のなかった俺に相談した理由は、最近真司と仲良くしているのが俺たちであることと、あの瞬間に俺が一人でいたことだろう。
四人が戻ってきた以上、小林さんが真司に対して色恋な想いを秘めているってことはあまり知られたくないはず。
とは言え嘘をつくのが苦手な俺がその場をやり過ごせるわけもない。俺は小林さんを見て瞳で訴えると、彼女も分かったかのように首を縦に振った。
「えっと、実は――」
小林さんはことの経緯と俺に告げたことと全く同じことを斗真たちに伝えた。
「「「……マジ?」」」
「はい。マジです」
全員、俺と同じ反応を示した。
そしてすかさずトイレの方を見て、真司が戻ってきていないことを確認する。
「秀隆よ。一年のとき同じクラスって言ってたけど、話す機会とか結構あったのか?」
「いや。多分目が合ったら挨拶くらいする程度……だった気がするんだが……」
顎に手を当てて思い出していた秀隆が、ちらりと小林さんに視線を送る。一緒にいるイメージが強い二人だが、ずっとというわけでもなく秀隆がいない間に話す機会があったのかもしれない。
「うん。だからあまり話す機会なくて、白石くんが普段どんな人なのか知らないからみんなから見た白石くんってどんな人なのかなって」
「馬鹿正直」
「いつもモテる方法ばっか考えてる」
「すぐ調子に乗っちゃうね」
一年弱の付き合いのある斗真、秀隆、純也が順番に真司をそう評した。聞いている俺からしても真司という人間を表すのにこれ以上ない言葉。まさに三種の神器だ。
「まぁでも……凄いいいやつなんだよな。憎めない何かがあるっていうか」
良くも悪くも真っ直ぐで素直。陽気で誰とでも打ち解け合える性格の持ち主で、人を惹きつけるような何かがある。
「おいこらずるいぞ良介。まるで俺らが真司のこと嫌いみたいになっちまうじゃねぇか」
「いや。そういう意味で言ったわけじゃないんだが。秀隆たちが言ったこともまぁ事実だしな」
抜け駆けしたことをよく思わなかった秀隆の曇りのある視線を当てられて、俺は肩を竦めながら苦笑いで応じた。
「てかさ、小林さんはいつ真司のこと好きになったの?」
「これまたズバッと聞いたな」
純也の直球的な質問に、斗真が鋭いツッコミを入れる。
だがこれはこの話を聞いていた全員がそれを思っただろう。小林さんは真司と話す機会がなくあまり知らないと言っていたので、一番に一目惚れの可能性が浮上してくるが、おそらくその線は誰もが除外していると思う。
「……これはちょうど一年くらいの前の話になるんだけど……」
そう言って、小林さんは語り始めた。
お読みいただきありがとうございます。
キリがいいと思ったので今話はここまでにしました。
次話はちょっとした過去編になります。
今後はメインである良介と優奈の話も書きつつも、他の登場人物の掘り下げも執筆していこうと思います。
なるべくダレないように頑張ります!
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