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とある少女の相談

 二週間後――


「よーし。それじゃあ順番に乗り込んでいけー」

 

 修学旅行先の京都行きの新幹線が到着し、駅で待機していた俺たちは先生の一声で、新幹線へと乗り込んだ。


「よっしゃー。俺窓際の席確保ー」


「おいずるいぞ。じゃんけんだろじゃんけん」


「新幹線って車内販売ってあったっけ?お菓子持ってくるの忘れたんだよね」


「そういうこともあろうかとお菓子たくさん持ってきたよー。あとで食べよ」


 新幹線に乗り込んだクラスメイトが座席に腰を下ろすと、これまで閉じていた口を早速開いた。

 普通車は貸し切りになっているため他の乗客に迷惑をかけることもないので問題はないだろう。

 駅で二十分ほど待機させられていて、その分の鬱憤も溜まっていたに違いない。


 俺たちも座席に座りしばらくしたあと、京都へ向けて出発した。新幹線が動き出すと外の景色を眺めたり隣席の友達と今日の予定を確認しながら話したりと騒ぎ出した。


「みんなー。トランプ持ってきたからやろうぜ」


「いいね。ババ抜きでもやる?」


「さんせーい」


 斗真が鞄からトランプを取り出して慣れた手つきでシャッフルをすると、俺たち五人の手元に一枚ずつ配っていき、ババ抜きが始まった。ちなみにジョーカーは俺が持っている。


「初日は確か体験学習がメインだっけか」


「あぁ。近くのお寺で座禅とお経の書き写し体験してから宿泊先付近の京都市街を軽く見て回る感じだったかな」


「うへぇ。俺我慢できずに動いちゃいそう」


 確かにジッとしているのが苦手そうな真司にとっては精神統一って言葉とは縁遠いような気がする。

 苦虫を噛み潰したような表情の真司は俺のトランプを引くと「んげっ」と声を漏らすと同時に顔つきをさらに渋いものへと変えて、こちらをジトッとした目で見つめた。


「分かりやすいわ」


「座禅とか真司にとってうってつけなんじゃない?何が起きても乱さない精神を身につけるっていうね」


 ジョーカーを引いてしまった反応があまりにも分かりやすく、純也はクスッと小さく笑うと眉を顰める真司にそう言った。

 真司は鼻を鳴らして手にしているカードをシャッフルすると吐き捨てるように、

 

「座禅とかしなくたって何事にも動じない精神力なんてもう身に付けてるから。部活で鍛えられてっから」


「そうは言っても真司よ。相手チームにチアいたらめっちゃムキになるらしいやん。精神力身についてないやん」


「応援で行ったときは相手チームに女子いっぱいいてカッコつけようと大振りしまくってその試合四三振だったな」


 切れ味鋭いナイフのような言葉の雨が真司の心を遠慮なく切り裂いていく。最初は「ぐっ……」と唸りながらも強がっていた真司だったが、徐々に顔が下を向いていきやがて崩れ落ちそうなくらいに上半身が前に倒れて両膝に両手を置いた。


「あーあ。真司崩れ落ちちゃったじゃん。可哀想に」


 優しい声音で憐れんだ純也がよしよしと真司の頭を撫でた。真司は撫でられるがままで、特に反応を示すことはない。


「悪い。まさかこんなに効くとは思わなかった」


「てか普段ならめちゃくちゃ言い返してくるはずなのに、今日は何も言い返してこないな。おーい真司。言い過ぎてごめんな。なんか好きな食い物奢ってやるから機嫌直してくれ」


 斗真と秀隆も言い過ぎたことを認めて謝ると、むくりと顔を上げた真司はポツリと呟いた。


「なぁ。俺ってなんでモテないんだろうな」


「「えっ?」」


 俺たちは揃って目を丸くさせた。

 そしてお互い顔を見合わせたあと、もう一度真司を見る。


「ほら、自分で言うのもあれだけど顔はカッコいいと言わないまでも普通だろ。成績はここじゃあれだけど世間的だと秀才じゃん。でもってスポーツマンなわけ。なのになんでモテないんだろうな」


 斗真は指を折りながら自分なりの自己分析をしたあと、首を傾げる。


「いや、なんでと言われましても……」


「逆になんでなんだろうな?」


 見た感じ、斗真と秀隆の言ったことを気にしている様子ではない。だが今は変なことを言えないような状況だってことは俺を含めてみんな感じ取っている。だからみんな回答を濁して苦笑いを浮かべるしかなかった。


「あーあっ!俺もお前らみたいな可愛い彼女か幼馴染がいてくれればなぁ!今の人生の百倍楽しいんだろうなぁ!俺の目の前に清楚な黒髪ロング巨乳彼女降ってきてくれないかなぁ!」


「あ、真司ぶっ壊れた」


「ほら!ババ抜き再開すっぞ!良介!カード引かせろ!」


「あ、うっす」


 半ばやけくそで真司は俺のカードを引いて、トランプを再開した。


☆ ★ ☆


「――それじゃあ三十分の自由時間の後、ここに集合なー。あまり遠くいきすぎるなよー」


 駅に着いた俺たちは、三十分間の自由時間を貰った。各々近くにある売店に立ち寄ってどんなお土産があるのか見て回ったりコンビニで買い物をしようと生徒たちが散らばる。


「わり。トイレ行ってくるからちょっと待ってて」


 真司が腹をさすりながら小走りでトイレへと向かう。あの様子ならちょっとではなくだいぶ時間がかかると見える。


「俺もトイレ行こっと」


「俺も一応しておこっかな」


「念のため俺も。良介も行くか?」


「俺は新幹線で済ませたからいい。待ってるから行ってこい」


 真司に続いて斗真たちもトイレへと向かった。

 俺はひとまず近くにあるベンチに腰掛けようとしたときだった。

 

「あの、すみません……」


 声をかけてきたのは、青蘭高校の制服を着た女子生徒だった。腰ほどまでに伸ばした黒髪に大きな眼鏡が印象的だが、彼女とは面識がないため名前は分からない。

 だから彼女がなぜ俺に声をかけてきたのか分からなかった。


「あの、少し相談があるんですけど……」


「相談?」


「はい。白石くんのことで」


 彼女はそう言って、その内容を口に出した。

お読みいただきありがとうございます。

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