何か裏がありそうな顔
文化祭二日目。
俺たち二年生にとっては二度目の文化祭となるわけだが、多くの外客が訪れるであろう今日この日は、自分たちの出し物をよく見せようと昨日よりも気合が入っているように見える。
それは俺のクラスも同様で、シフトに入っている生徒たちは既に着替えを済ませていて、楽しみにしながらもどこか緊張したような面持ちを覗かせていた。
女子生徒たちが最後の調整として身に纏っているメイド服が問題ないか友達同士で確認しあっている中、優奈は軽く屈んでいて瀬尾さんがカチューシャの位置を調整していた。
「うん。もう動いても大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
調整を終えた瀬尾さんの優しげな声が聞こえたあと、優奈はゆっくりと屈めていた腰を伸ばした。
クラシカルスタイルの黒を基調とした長袖スカート丈のエプロンドレスが優奈の小さな身体を覆っていて、上部にはフリルがあしらわれたカチューシャが飾られている。
瀬尾さんも膝上丈のメイド服姿で、既に準備万端の様子だ。
「二人ともマジで似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「褒めても何も出ないからね」
「心の底からの本音なんだけどなぁ」
「ふふっ。すごく嬉しい。ありがと」
二人を見た斗真が口元を緩めて感想を口にすると、優奈は軽く頭を下げて瀬尾さんは小さく微笑む。お世辞ではなく率直な感想であることを斗真が伝えると、浮かべていた小さな笑みが花開いて、屈託のない笑顔が瀬尾さんに咲いた。
文化祭の出し物でなければ本物のメイドさんではないかと錯覚してしまうほどに、本当によく似合っていた。
優奈と瀬尾さんは午前中の二時間。俺と斗真は昼間の二時間と、別々のシフトで組まれている。
同じシフトで働きたかった気持ちももちろんあるが、客として優奈の接待を受けるのも悪くないと思っている。もちろんそのときに、優奈の手が空いていればの話になるのだが。
さっき廊下からの外の景色を眺めたが、まだ始まっていないにも関わらず正門をくぐる外客の姿が見受けられる。今年も去年と同等かそれ以上に盛り上がるだろう。
時間になりアナウンスが学校中に響くと共に、生徒たちが揃って行動を開始する。他クラスの生徒や足を運んだ外客たちももうじき訪れるだろう。
「うしっ。時間になったし行くわ。俺たちが来たらそのときは対応よろしくね」
「二人とも。シフト頑張ってな」
「はい。頑張ります」
「ありがとう。待ってるね」
お邪魔虫になる前に俺と斗真は教室を出た。
今のところは、優奈と瀬尾さんが担当している時間帯に俺たちのクラスの出し物であるメイド喫茶に訪れる以外は予定が全く決まっていない。
特別どこか訪れたい場所もあるわけでもなく、適当にぶらついている感じだ。
「なぁ斗真よ。さっきから思ってたけどなんで俺を見てはニヤニヤしてんだよ」
「別にしてないよ」
「してるから言ってんだよ」
「元々こういう顔じゃなかったっけか?」
横目で俺に視線を向けるたびに斗真の唇の端がうっすらと上がっていて、いい加減気になった俺は眉を顰めて尋ねるが、斗真はあくまでしていないとのらりくらりと否定を貫く。
かれこれもう十年の付き合い。これだけ長い年月同じ空間で過ごしていると、嫌でも斗真が良からぬことを考えているのがなんとなく想像つく。そして良からぬことが俺の身に降りかかってきそうなことであることも。
今の斗真にどうせ聞いたって知らぬ存ぜぬで答えてくれることはまずあり得ないので、せめて面倒なことでないことを祈るばかりだ。
「まぁまぁ。そんなことよりとりあえず何か食わね?腹減ったし俺ら昼間からのシフトだから今のうちに食べておかないとだし」
「そんなことよりって……相変わらずいつでも腹空かせやがって」
「俺らしいだろ」
「あぁ。斗真らしい」
話を全く関係のない方に捻じ曲げる斗真に、顰めていた眉の間にさらに皺が寄る。
そんな俺の顔を見ながらもいつものお調子者の軽薄な笑みを崩すことない斗真に、俺は吐息をこぼすと同時に肩を落としながら、人混みを掻き分けるように廊下を歩いた。
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