朝のお姫様
ふと、お日様のような優しい香りがして、目が覚める。
寝起きの瞼を開くと、うっすらとした視界から両肘をベットの上に突いて、満面の笑顔と慈愛に満ちた瞳を俺に向けていた。
「おはようございます」
「……ん。おはよ」
優奈が甘く囁くような声で俺に目覚めの挨拶を送り、額にかかる髪を掻き分けて口付けを落とす。触れた柔らかな感触に、まだ意識がぼんやりとしながらも身体に確かな熱が生まれて、照れ隠しで俺は布団を頭まで覆った。
そんな分かりやすい反応をとった俺の行動を間近で見ていた優奈は揶揄うように、そして愛おしそうに見つめて、俺の顔が見えるくらいまで布団を捲ると小さな笑い声を上げて、
「いいですよ。まだ寝てても。その分良くんの寝顔を間近で見ることができますから。というか、まだ見足りないくらいです」
「見足りないって……いつからいたんだよ」
呆れたように、けれども嬉しさも交えたそんな声で問いかけると、優奈は僅かに顔を上げて、
「十五分くらい……ですかね」
「思ったよりずっと見てんじゃねぇか」
置き時計の針は六時二十五分を指している。
つまり少なくともその時間より早く優奈は俺の家で、こうして寝顔を眺めていたわけである。
だんだんと目が覚め始めた俺の目に映ったのは、一ヶ月ぶりに見たセーラスタイルの夏服姿。
清楚で爽やかな印象を与える純白のセーラー服と胸元を彩る桃色のリボンは、優奈の幼く可愛らしい造形美を最大限に引き立てていた。
「その様子だと、随分と早起きしたっぽいけど眠くないか?」
「昨日はぐっすり眠れたので眠くないですよ」
身支度から二人分の昼食の準備まで行なっている優奈は一体何時に起きたのだろうと、優奈の身体を気にかけた俺が声をかけると、その心配が吹き飛ぶくらいの笑顔が返ってくる。
それに……と呟いて立ち上がる優奈に小首を傾げていると、優奈は跨るような態勢をとる。
「良くんのためだからいつもより早起きできました。それと学校に行く前にその可愛い寝顔も、この目に焼き付けておこうと思いまして」
そう言った優奈は前屈みになる。
吸い寄せられそうになるくらいの綺麗な瞳で思わず見惚れてしまいそうになるのだが、ほんの少し視線を逸らせば前屈みになったことで制服で隠されていた優奈の胸元が僅かに顔を覗かせている。
俺の意識は強制的に覚醒へと叩き起こされて目を逸らすが耳が赤らんでいて、それに気がついた優奈は蠱惑的に微笑む。
「目は覚めました?」
「……」
優奈の問いかけに俺は沈黙を示して再び目を瞑る。今日は一段と性格が小悪魔寄りというか、明らかに俺が動揺しているのを楽しんでいるようにも見える。
「それとも……」
優奈は人差し指で俺の唇にそっと触れる。
「ここに口付けしないと良くんは目を覚まさないのでしょうか?」
「……ハァッ。参ったよ」
優奈の人差し指が離れると、俺は小さくため息を吐いて両手を上げて降参の姿勢を見せる。上げた両手をそのままベットに落として大の字のような体勢になりながら、俺は優奈に尋ねた。
「で、なんでこと(こんなこと?)したんだよ?」
「出来心です」
「じゃあしょうがないな」
優奈の屈託のない笑顔を向けられてそう言われれば追求する意思を奪いつい許してしまう。元々追求するつもりもないのだけど。
「まぁそれはそれとして……」
俺は上半身を起こすと優奈の後頭部にに手を回して、桜色に艶めく優奈の唇にほんの一瞬触れ合うだけの優しい口付けをする。
そっと離れると、優奈は頬を薔薇色に染め上げながら満足そうに微笑みを浮かべて、寝癖のついた髪を優しく撫で上げた。
「朝ごはんできていますよ」
「あぁ、ありがとう」
俺はベットから下半身を抜け出し自室を出て、良い香りが漂うリビングへと向かった。
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