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惚気る親友

 台風の目は、白団は惜しくも二位だった。

 

「惜しかったなー」


 斗真は悔しそうにしながらも拍手を送る。

 最後は緑との一騎打ちだった。抜きつ抜かれつつのデットヒート。白団が棒を生徒の足元に通しているときに、ほんの少しだけロスタイムが生じしてしまい、その間に緑がゴールしてしまったという感じだ。


 それでも二位は立派であり、大健闘である。

 俺は手を鳴らして、労いの拍手を送った。


「あー!悔しい!次の種目では絶対一位取ってやる!」


 台風の目に出場していた秀隆がテントに戻って悔しさをあらわにした。


 二つの競技を終えた時点で、一位は緑、二位に白、三位赤、四位青という順位だ。

 競技が終わっていくごとに気温が上昇していく。それにつられるかのように、生徒たちの応援にも熱を帯びていた。


「次は障害物競走……梨花は……っと……お、いたいた」


 グラウンドには障害物競争に出場する生徒が入場しており、斗真は瀬尾さんの姿を探していた。斗真が彼女を見つけたと同時に、瀬尾さんも斗真の方を見て、にっこりと笑う。


「いつ見ても梨花は可愛いなぁ」


「おーし!みんな頑張れー!」


「絶対優勝するぞー!」


 惚気る斗真を見て、真司と秀隆は選手に声援を送る。俺はそれを見て苦笑する。

 そういえばと思い、天野さんの方にチラッと視線を送った。体育祭の彼女は瀬尾さんと一緒にいるが、瀬尾さんは今競技に出ている。


 天野さんは一人でジッと、障害物競走を見ていた。僅かだが汗が頬を伝い、それをタオルで拭う。その一つ一つの動作がとても美しく映る。


 天野さんは俺の視線に気がつくと、うっすらと微笑んだ。彼女の微笑む姿を目にした生徒たちは、「俺に微笑んだ?」などと、確認を取り合っている。俺も軽く目で合図を送ると、天野さんはまた視線をグラウンドに戻した。


「良介!次は梨花の番だぞ!応援しろ応援!行けー!梨花ー!頑張れー!」


 瀬尾さんの番になると、まるで娘の応援に来ている父のように斗真は大声で言う。それは瀬尾さんにも届いていたのか、顔が朱色に染まっており小さい身体をさらに小さくしていた。


「頑張れー瀬尾さーん」


 と、俺も瀬尾さんに声援を送った。


☆ ★ ☆


 障害物競走のあと、斗真は瀬尾さんにしこたま怒られていた。


「俺、何か悪いことした……?」


「そりゃあんな大声で言われたらな。恥ずかしさで死にたくなるだろ」


「そりゃ可愛い彼女が走ってんだから、彼氏として応援するのは当たり前のことなんだが」


「だとしてもあれは……ねぇ」


「ちょっと愛が強すぎるかなー」


 俺と真司と秀隆は、落ち込んだ様子で戻ってきた斗真にそう声をかける。


 瀬尾さんの方は、俯いて手で顔を覆っている。そこからでも分かるくらいに彼女の顔は真っ赤になっていた。

 それを近くの友達は慰めつつも、表情がニヤついている。これはしばらくネタにされるだろうな。


 競技は滞りなく進行していき、第四種目の玉入れに向かおうとしていた。天野さんは台風の目を終えて一息ついたあと、また入場門へと向かっていった。


 玉入れか。

 地味で目立たない競技に見えるが、籠は小さくまた上に向けて放るためコントロールするのが難しい。てっきり野球部の真司も玉入れに出るのかと思っていたのだが、出場はしていないそうだ。


 制限時間は二分間。

 違う団の団長がお邪魔棒で籠に入りそうな玉を塞いでいき、最終的に籠に一番玉が入っている方が勝ちである。


 慣れ始めた空砲の音と共に、生徒たちは一斉に玉を篭めがけて投げこんでいく。誰かが投げた玉が自分の額に当たったとしても、クッション性に優れており柔らかいため、怪我をする心配はない。


 なかなか入らずに、「も〜!」「ちゃんと入れなよ〜」と言いつつも、とても楽しそうに玉入れをやっていた。


 あっという間に時間制限の二分間が経過した。

 体育祭の係を担当している生徒は、籠を下ろしてアナウンスの声と共に、入っている玉を空中に投げていく。


「あー」と最初に落胆の声が上がったのは緑。続いて青。そして白と赤の二つだけとなった。双方共に、籠にはまだ玉は入っている。


「三十四、三十五……」


 三十五個目で、白団の籠の中身が空になった。

 喜びをあらわにする赤団に対して、白団の面々は肩を落とした。


「また二位かー」


「いや、でも総合一位の緑が今回四位だから順位変動あるかもだぞ」


 玉入れの点数を加算した総合点数が張り出される。


 一位白、二位緑、三位青、四位赤。


 落ち込んでいた生徒たちが一転、喜びを爆発させた。


「おーし!この勢いでこのまま優勝するぞー!次の競技は綱引きかー!気合い入れていくぞー!」


 団長が生徒たちをさらに鼓舞していく。

 次は綱引き。俺が出場する種目である。俺の他にも斗真、真司、秀隆も出場する。


 三人とも気合い十分であり、順位が一位になったことで他の生徒たちも気合いで満ちていた。この様子なら、手堅い順位は取れるだろうと思い入場門をくぐり抜ける。


 俺たちが最初に戦うのは青団だ。

 先にニ勝したほうの勝ちであり、三戦目に入る場合は団長がジャンケンで陣地を選び、行われる。勝った団同士で決勝を行い、負けた団は三位決定戦を戦うことになる。


 この綱引きはポイントが高いらしく、勝負決める競技の一つと言っていい。少なくとも二位以上は狙いたいところだろう。


 綱を握って、俺たちはスタートを待つ。


「よーい……」


 空砲の音と同時に、俺たちは綱を引き合った。








 結果は四位であった。

お読みいただきありがとうございます。

今日は10時にもう一話投稿する予定です。

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