お姫様は甘えたい
その後も着々と準備を進めていき、また全員で行っていたおかげか予定よりも早く終えることができて、油が引かれた鉄板には野菜や肉が所狭しに並べられている。
優しい風が肉のいい香りを運びそれが鼻の奥まで広がっていき食欲を掻き立てられる。特に斗真と真司は目をキッと鋭くさせ眼光を光らせていて、まるで飢えた獣のようだった。
紙皿と割り箸、お茶とジュースを注いだ紙コップを回して最後に俺がそれを手に取る。それを確認した斗真は俺たちに視線を回したあとに、紙コップを持った右手を軽く上げて、
「それじゃあ……乾杯っ!」
「「かんぱーいっ!!」」
斗真の声と共に俺たちはコップを交わすと鉄板に並ぶ焼き上がった食材たちに箸を伸ばした。
「やばぁい!ごれめっじゃうばぁい!(やばいっ!これめっちゃ美味い!」
「口の中のもの飲み込んでから話しなよ」
肉を口一杯に頬張って旨みを噛み締めている真司に純也は一言。
変なところに入ったのだろう、直後に真司が咳き込みそうになり慌ててジュースを飲み始めたので「ほら言わんこっちゃない」と笑った。
「でもそうなっちゃう気持ちも分からんでもないけどな」
「飯は美味いし天気も眺めもいいし、それにみんなで食べるからだろ」
「何カッコよく締めようとしてんだよ」
斗真も秀隆も満足げな様子で皿に盛り付けた料理に舌鼓を打つ。食欲旺盛な男子高校生にとっては、肉を好きなだけありつけることはこの上なく幸せな時間に違いない。
「んー!美味しいー!」
「ねー。いくらでも食べれちゃう」
俺たちと反対側で優奈たちもまた食事を楽しんでいた。俺たち男子が楽しいと思っているのは好きなものを食べられるだけではなく、目の前に広がる女子の園が広がっているからだろう。
「天ちゃん。このお肉凄く美味しいから食べてみて」
「これですか?いただきます」
瀬尾さんから差し出された一枚の肉を受け取った優奈はそれを小さな口で食べる。咀嚼して飲み込んだあと、優奈の表情が分かりやすく緩んだ。
「柔らかくて美味しいですね」
「でしょっ!」
各々とても楽しんでいるようなのでとても良かったのだが、みんなの(特に斗真と真司)の食べる速度が思いのほか早くて、鉄板に用意していた野菜と肉はあっという間にみんなの胃袋へと消えていく。
おかげで鉄板には食材がほとんど残っておらず、俺は追加の食材たちを準備してそれを鉄板で焼いていた。
あの輪の中に入ってみんなとの会話に花を咲かせるのももちろん楽しいが、少し離れたところからその姿を眺めるのも悪くない。そう思いながら、俺は準備を行っている。
他にも焼きそばの麺とタレもあるので、空いているスペースで焼きそばを作り始めた。
「良くん」
鉄板に向けていた視線を上げると優奈がいて、俺と目が合うと笑みをこぼしたので、俺も口元が緩んだ。
「どうした?追加の肉ならもうちょっとで焼けるから待っててくれ」
「そ、そんなつもりで来たのではないです……」
食い意地が張って俺の元に来たのかと思われたのが不服だったようで、顰めっ面を浮かべるとバカッ、と小さく呟いて拗ねるようにそっぽを向いた優奈に俺は「ごめんごめん」と謝った。
「良くんのお手伝いでもしようかと。良くんあまり食べれていないでしょう」
「それなりに食べてるよ」
斗真たちに比べるとあれだが、食べたいものはちゃんと食べることができているので満足している。
「あと……」
そう言った優奈は俺の肩に頭を預けてくる。触れた感触に俺は目を開きながら優奈に目を向けるとと、彼女は上目遣いでこちらを見上げていたので俺は唾を飲んだ。
「あの、みんないるんですよ」
「みんなお話に夢中になっていますし大丈夫ですよ。それに今は良くんに甘えたい気分なんです」
恋人関係はもはや周知のことなのだが、優奈がこんなにも甘えん坊ということまではまだ知らない。
「せめてお家でというのは……」
優奈のこんなところは俺以外の誰かには見せたくない。俺がそう提案を出すと、優奈は軽く背伸びをして耳元で囁く。
「そんなこと言って……良くんの心臓。凄くドキドキしてますよ」
「好きな子に囁かれたらこうなるだろ……」
囁かれた耳元が熱で染まっていくのを感じる。
優奈も頬を赤く染めながら、箸で肉を掴むと俺の口元まで運んだ。
「あー……んっ……」
口を開きパクリと肉を頬張った。
「どうですか?」
「……そりゃ美味いよ。肉だから。あと優奈が食べさせてくれたから」
ここまで弄られたのだから少しは反撃でもと言葉を繰り出す。優奈は赤らんだ頬をそのままに目を細めてはにかむようにして笑った。
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