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お泊まり会

 日はとっくに沈み美しい夜空が広がっている。

 皆寝静まり始めた頃、とある豪邸の一部屋には明かりが灯されていて、その部屋からは愉快げな少女たちの声が聞こえていた。


 今日は東雲家で以前から予定していたお泊まり日。部屋には優奈、瀬尾さん、平野さん、東雲さんの四人が雑魚寝するように布団を広げて、話に盛り上がっていた。


 焚いているアロマの優しい香りが部屋を包んでいる。


「それにしても結月の家本当に大きいね。広すぎて迷子になっちゃうよ」


「そうでしょ。わたしも小さい頃はよく迷ったもの」


「それにこの部屋が空き部屋っていうのがねぇ……」


 部屋にしては広々としすぎて、優奈たち三人は逆に落ち着かない。装飾も主張しすぎない程度に部屋に彩りを添えている。


 この豪邸で働いている使用人たちもここに住み込みで働いている。彼らが働きやすいようにと東雲さんの父親が使用人の意見を取り入れながら、今の環境を作り上げたとか。


「でも結月さんのお部屋が一番凄かったですよね」


 優奈が圧倒されたように呟く。

 東雲家を案内してもらった際、三人は東雲さんの部屋に入った。


 キングサイズベッドは天蓋カーテン付き。友達が訪れたようの豪華で大きなテーブルと椅子。一人の少女が使うにしては大きすぎるクローゼット。   


 あまりにも現実離れした空間に優奈と瀬尾さんはしばらく言葉を失ってしまった。

 同じ部活に所属している平野さんは何度かお邪魔する機会があるらしいのだが、それでも迷子になってしまうほどの広さがこの豪邸にはあって、瀬尾さんと平野さんはうんうんと同意を示した。


 今日はみんなで一緒に寝ようということで、使用されていない部屋に布団をくっつけている。


「よし。それじゃあそろそろ始めようか」


「ん?何を?」


「決まってるじゃない。恋バナよ!こんな機会だからこそ話せることを話したいじゃない!」


 平野さんは意気揚々とした様子で目を輝かせる。


 こうして女子だけの恋バナが始まった。


☆ ★ ☆


 順番はじゃんけんの結果で平野さん、東雲さん、瀬尾さん、最後に優奈の順番となって、今は瀬尾さんが話している。


「――それでね。部活が終わって一緒に帰ってたときに斗真くんが家の前で告白してくれたんだ」


 始めは斗真に対して思うところや直してほしいところ。愚痴を漏らしていたのだが、幼稚園時代からの好きなところを口にしだしてから、瀬尾さんの口元は明らかに緩んでいて、今は中学時代の告白された頃のことを話している。


 初めて聞く馴れ初めに、三人は興味深そうに耳を傾けて話に集中する。


「なんて告白されたの?」


 両足をパタパタさせながら東雲さんはのんびりした口調で尋ねる。


「シンプルだよ。ずっと好きだったから付き合ってくれって」


「でもシンプルな告白が一番響きますよね」


「そうそう。心に染みるー」


「幼馴染カップルねー。わたしも近くに同い年の男の幼馴染がいてほしかったなー」


 瀬尾さんが話し終わってそれぞれが感想を口に出す。

 空気が少し落ち着いたところで三人の視線が今度は優奈に集中して、優奈は少し驚いたように身体をびくつかせた。


「次は天ちゃんの番だね」


「えっ……でもテスト勉強のときに結構話したと思うのですけど……」


「それはそうなんだけどー。ほら、付き合う前の馴れ初めとか夏休みのこととか。色んなところ遊びに行ったんでしょ」


「優奈ちゃん。みんなが楽しみにしているよ」


 三人から柔かな笑みを浮かべているが、それはどこか逃げることができない圧のようなものを感じて。


「え、えっと……じゃあ初めて話したときのことから……」


 やがて観念したのか、興味の目を向けた三人に優奈は話し始めた。


☆ ★ ☆


「――そんなことがあって」


「カッキー男前ー!」


「まさに王子様だね」


 優奈が話していたのはプールであった出来事のこと。

 男性二人組に絡ませていたところを良介が助けてくれたことを恥ずかしげながらもどこか嬉しさを滲ませた表情で話していた。


 三人は相槌を打ちながら話を聞いていて、時折り黄色い声をあげていた。


 優奈の隣に寝そべっていた瀬尾さんは淡い微笑みを浮かべていて、平野さんと東雲さんは首を傾げる。


「柿谷くんも天ちゃんと付き合うようになってがらりと変わったなって思って」


「そうなの?」


「だって柿谷くん。『俺の彼女に何してんだ』とかそんなこと言う人じゃなかったもん」


 良介との付き合いは優奈よりも長い瀬尾さんだ。小中時代のことは優奈よりも知っている。

 恋をしたり好きな人と一緒に過ごしていくうちに、人は変わっていくものなのだろう。

 

「いやはや、優奈ちゃんの彼氏くんはなんてできた人なのでしょう」


「はい。わたしには本当にできすぎた彼氏くんです」


「家だとこんなやりとりばっかしてそうだよね。毎日お互いに好きなところを言いあったりとか。好きって伝えたりとか。でもそれが一番長続きすると思うんだよね」


「いやいや。それはさすがにないと思うよ。付き合いたてはそうかもしれないけど今はそんなことあんまりしないし。ねぇ天ちゃん?」


 瀬尾さんが小さく笑いながら手を横に振って、優奈に視線を向ける。だが優奈は一切の反応を示さない。眠っているのか?と思ったが目はしっかり開いている。

 

 唇をキュッと結んで顔はどんどん下に向いていくが、赤く染まった頬や耳は隠しきれない。


「……天ちゃん?」


「……わたしは先に休みます。梨花さんたちは気にせず楽しんでください」


 そう言って優奈は毛布を頭まで被った。

 当然それが許されるわけもなく、優奈は毛布をあっという間に奪われる。


「これは詳しく話を聞く必要があると思うの」


「優奈ちゃん。夜はまだまだこれからだよ?」


「り、梨花さん……」


「……もうちょっとだけ頑張ろう。天ちゃん」


 優奈は救いを求めるような目を瀬尾さんに向けたが、その想いは届くことなく優奈はまた質問攻めに合う。


 明かりが灯る一部屋が眠りに就くのは、まだまだ先のようだ。


☆ ★ ☆


「ふぅ……んー……」


 俺は椅子にもたれかかって肩を回したあとに眉間を押さえる。時刻はもう一時を回っていて日付は変わっていた。


 今日……厳密に言えば昨日は優奈が東雲さんの家でお泊まり会に行っている。いつもは優奈が声をかけてくれるのだが、今日はその優奈がいないので案の定時間を気にすることなく身を入れすぎてしまった。


 俺はというと斗真たちと昼食を食べに行ったりバイトしたりと、普段と変わらない生活を送っていた。


 今日一日優奈にメッセージは送っていない。

 せっかく同級生とお泊まりをするのだから、俺からのメッセージの返信に時間を割いて欲しくない。きっと楽しい一日を過ごすことができたのだろう。


 携帯が震える。

 優奈からの着信でまだ起きていたのか、と俺はスマホを耳に当てる。


『もしもし』


『もしもし。夜遅くにごめんなさい。起こしてしまいましたか?』


『いや。もう少しで寝ようと思ってた。優奈たちはまだ起きてるのか?』


『いえ。皆さんはもう眠ってるのですけど、どうにも寝付けなくて』


 瀬尾さんたち三人が静かな寝息を立てている中、優奈は部屋を抜け出して誰もいない廊下を歩いていた。足元を照らす程度のささやかな灯りだけが点いている。


 俺はマグカップを手にしてベランダに出る。  

 外の空気は少し蒸し暑くて汗がじんわり滲み出てきそうだった。


「お泊まり会は楽しんだか?」


「はい。まぁ色々と大変な目にはあったんですけど……」


 苦笑する優奈の声に苦労したんだろうな、とはなんとなく察して、おつかれ、と声をかけた。 


「何を聞かれたんだ?」


「……本当に色々と。出会ったときの馴れ初めとか」


「あー。そりゃ大変だったな」


 優奈が苦笑した理由がよく分かって、俺は頭を掻きながらコーヒーを飲む。


「良くんも遅くまで勉強お疲れさまです」


「ん。ありがと」


「夜空、綺麗ですね」


「そうだな」


 優奈もその星を見ているのだろう。

 電話越しからどこか安心したような吐息が聞こえて、小さな欠伸が聞こえる。


 何か特別なことを話すわけでもなくただお互いの声を聞くだけ。だがその時間が一番幸せに思える。


「そろそろ寝ようか」


「はい。おやすみなさい。大好きです」


「おやすみ。俺も大好きだよ」


 最後にお互いの小さな笑い声が聞こえた。

 電話を切ったあと、俺はもう一度夜空を見上げてリビングに戻って就寝の準備を始めた。

わたしの勝手な事情なのですが、少し精神的な問題で筆が進まない状態になっていまして……


休み休みで書いているのですが自分が納得いくものが書くことができていないので、もしかしたら長期的に投稿を休むことになると思います。


ふとしたときに書けるようになって投稿してるかもしれないので、これからも見ていただけたら嬉しいです。


9月27日追記

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