浴衣姿の親友
「ハロー。お二人さん」
それぞれ購入したりんご飴を優奈と一緒に味わっていると、背後から聞き慣れた爽やかな声が聞こえる。
一瞬立ち止まるが、止めた足を再度前に動かすと、その声の主は言葉に焦りと驚きを交えた声で、
「ちょいちょいちょい!気づいてんじゃん良介!」
今度はしっかり名前を呼ばれたので、もう一度立ち止まると今度は振り返って確認して一言。
「じゃあ名前を呼んでくれよ」
声の主は、端正な顔立ちで凛々しく整えられた髪はワックスでセットしていて清潔感を与えている。
隣には黒髪をショートカットにした丸顔の女の子。大きい瞳は愛嬌があって可愛らしい。
二人とも浴衣に身を包んでいる。
「久しぶり。二人とも」
「おう。マジで久しぶりだな。だから本当に忘れられたかと思って焦ったぜ」
約二週間ぶりに親友と顔を合わせて、話をしている一方で、
「その浴衣凄く似合ってるよ!」
「ありがとうございます。梨花さんも浴衣姿とても可愛いです」
「ふふっ。ありがと!優奈ちゃんもこのお祭りに来てたんだ!このお祭りは……初めてだよね?でもアパートからここまで結構距離が……」
「実は今、良くんのご実家に一週間ほどお邪魔してて」
「そうなの!?」
優奈と瀬尾さんも話に花を咲かせているようだ。
「浴衣を着た美人が二人。実に眼福。絶景ですなぁ」
「すみませーん。お巡りさんはいますかー」
花を愛でるような瞳を向ける言葉を漏らす親友に、俺はきょろきょろ周りを見渡すと、彼は慌てて止めに入る。
まぁ気持ちは分かるけどさ、と俺も優奈と瀬尾さんが楽しそうに話す姿を眺めて、薄く笑みを浮かべた。
そんな斗真の片手には景品で塞がっていて、このお祭りを楽しんでいるように見える。
「それにしても……焼けたなぁ」
「そうか?」
首から顔にかけて、斗真の肌は驚くくらいに黒く焼けている。単に俺が白すぎるだけかもしれないのだが、それだけ斗真が部活を頑張っている証だろう。
真司や秀隆も、斗真と同じぐらいに日焼けをしているに違いない。夏休み終盤にはみんなで会う約束をしているので楽しみだ。
その後も部活や課題、そして進路のことなど軽く立ち話を交わして、十分ほどが経過した。
「よし。それじゃあそろそろ行くわ」
「ん?帰るのか?」
「いや。梨花とゆっくり見て回ろうかなって」
「てっきり一緒に行動したいから声かけてきたのかと思ったぞ」
「たまにはな。梨花と二人でゆっくり花火を眺めるのもいいかなって。元々今日はそのつもりだったし」
そう言って、斗真は曇りのない爽やかな笑顔を見せた。焼けた肌にニッと見せる白い歯が眩しく映る。
それに、と斗真は笑みを浮かべたまま俺を見つめる。さっきまでのイケメンと呼ばれるに相応しい笑顔ではなく、俺を揶揄う無邪気な笑みだった。
「良介の方も雰囲気良さげだし邪魔するのも悪いかなって。せっかくの夏祭りなんだから、愛しの彼女と二人で回りたいってのが男の性だろ?」
「斗真の心遣いはありがたいんだがな。その顔はやめろ。なんか腹立つ」
「ハハハッ。それであれだろ?二人で花火を眺めながら『綺麗だね』とか言い合って、最後の花火が終わった後に見つめ合って距離がどんどん近づいていき最後は……ぴぎゃ!」
空笑いしながら楽しそうに言葉を並べる斗真の脇腹にチョップを入れると、裏声を発して刺された脇腹をさすりながら若干涙目でこちらを睨んでくる。
「随分とロマンチストだな」
「誰もが憧れるもんだろ。こういうのは。まぁいいや。この後もお互い夏祭り楽しもうぜ」
「おう」
斗真は瀬尾さんの元へと向かって、優奈とも軽く二言ほど言葉を交わすと軽い笑い声を上げて、二人は参道を歩いて、人混みに消えていった。
「何話してたんですか?」
「ん?あぁ……」
優奈に尋ねられたので答えようとすると、固まってしまい思わず視線を逸らした。
「……どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。そんなことより、俺たちももうちょい回ろうぜ」
不思議そうに首を傾げた優奈に、俺は短く答えて手を差し出す。優奈は頷くとその手を握りしめたので、俺たちも歩き出す。
まさか斗真と話していたせいで、優奈の唇がいつも以上に色っぽく官能的に見えてしまったとはいえず、しばらく優奈の顔は見れそうになくて鼓動が鳴り止むまで時間を要することになった。




