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体育祭開幕

 毎年雨に見舞われる体育祭であったが、今年の体育祭は雲一つない快晴の中で行われることになった。

 そうなのだがーー


「あっつ……」


 各団に設置されているテントの中で、俺はそう呟かずにはいられなかった。


「季節も季節だからな。ジメジメしてて気温以上に暑く感じんだよ」


そう言って斗真は、首にかけられているタオルで汗を拭う。晴れたは晴れたでいいものの、日差しが強いのだ。この時期は熱中症になる生徒も多いので、こまめな水分補給は必要不可欠である。


「良介。日焼け止めある?」


「ほい」


「あんがと」


 俺が渡した日焼け止めを、斗真は首筋や顔周り、手足に塗っていく。日焼けしてしまった夜、痛みに悶えながら風呂に入るのは嫌なので、この時期の外での行事の際は、つねに持ち歩いている。


 対して女子生徒たちは、各々日焼け止めを塗っており、天野さんや瀬尾さんも既に塗り終えている状態だった。

 いつも髪を下ろしている天野さんであるが、今日は髪の毛をゴムで纏めていた。


「俺は日焼け止めなんて塗らねぇけどな」


 後ろからそう声をかけてきたのは真司だ。隣には秀隆もいる。彼の顔や体操服に隠れていない腕の部分は、真っ黒に焼けており白い歯がより印象的に映る。秀隆はインドアスポーツであるため、そこまで日焼けはしていない。


「ザ・運動部って感じがするな」


「おう。今日は活躍しまくって女の子にモテまくるぜ」


「無理だろ。小学生じゃないんだから」


 意気込んでいる真司に、秀隆はツッコミを入れた。


「よーし!そろそろ入場行進だ!」


 そう言ってみんなに声をかけるのは、白団の団長だ。目が血走っていて少し怖い。俺たちは入場門に向かって歩いていく。


「そういや去年の白団は何位だったんだ?」


「二年連続最下位」


「逆にすげぇな」


 青蘭高校の体育祭は、所属している団に三年間固定される。

 あの団長は一年のときから最下位という苦汁を舐めているということであり、今年こそはという思いがあるのだろう。目がバキバキな理由が分かったような気がした。


 右から順番に、赤、白、青、緑と並んでいく。

 列に並ぼうとしていると、海老原がこちらを睨みつけている。赤団だったのか、海老原の頭には赤のはちまきが巻かれていた。


「良介。めっちゃライバル視されてんのな」


「ライバルを見るような目じゃないだろ。今にも俺を殺しそうな目だよ」


 俺は視線を外して前を向く。

 斗真もはちまきを縛り直して、「うしっ!」と気合の入った声を出す。


「選手入場。足踏み始め!」


 アナウンスの声と共に、俺たちは足踏みをして、グラウンドへと歩いていった。


☆ ★ ☆


 校長先生のありがたい話や団長の選手宣誓、ラジオ体操などを終えて、俺たちはテントへと戻る。


 「暑い……」とテントの中で休む生徒のほとんどがそう文句を垂れていた。

 風は無風で、ジリジリと太陽の光が皮膚に突き刺さる。この暑さで既にバテ始めている生徒もちらほら。


「良介は体調大丈夫なのか?」


「今のところはな。斗真は余裕そうで」


「この時期は大会も近いからな。この時期でもバンバン走り込んでるし。それにこんなところでバテてちゃ試合でも使ってもらえないだろ?」


「そういうところは抜け目ないんだな」


 そう言うと、「へへっ」と笑って見せる。

 グラウンドの方に目を向けると、最初の種目。短距離走が行われようとしていた。一走目を走る生徒たちが、クラウチングスタートの構えをとって、合図を待つ。


「よーい……」


 パンっ!

 空砲の音と同時に、生徒たちが走り出した。

 体育祭の幕開けであり、テントにいる生徒たちは同じ団の生徒を応援する。中には仲の良い違う団の子を応援する者もいるが、そこは本人たちの自由だと俺は思った。


 三年の応援団長らしき先輩が、必死に声を飛ばす。やはり三年生の気合の入り方は尋常ではない。自分も二年後、体育祭にあれだけの熱意を注げるのだろうか。


「お、次は真司の番か」


 斗真が遠目で見ながら言った。

 真司は大きく息を吸って吐き、走る体勢を取る。


 空砲が鳴り響いたと同時に、彼は地面を強く蹴った。スタートは少し出遅れたものの、真司は自慢の脚力で、序盤についた差をジリジリと詰めていく。


「行けー!真司ー!」


 斗真が大声を飛ばす。俺も固唾を呑んで見守った。ラスト十メートルのところで彼は一位だった生徒を追い抜き、先にゴールテープを通過した。


「はっや」


「最後の加速がすごかったな」


 一着でゴールした真司は何やらパフォーマンスをしており、その場を沸かせていた。


 短距離走が終わり、選手たちが戻ってくる。

 真司もテントに戻ってきて、椅子にどっかりと腰を下ろした。


「いやースタートミスったときはマジ焦った」


 口ではそう言いつつも、一着を取れたというのが相当嬉しかったようで彼は満面の笑みを浮かべていた。


「ホント。あそこからよく取り返したもんだぜ」


「お疲れ」


「おう。サンキュー」


 俺たちは労いの言葉をかけて、真司もそれに応じた。


「さてさて、次はーー」


「続いての競技は台風の目です。選手の皆さんは、入場してください」


 出場する生徒たちが、続々と入場門を抜けてグラウンドへと向かっていく。そこには天野さんの姿もあった。

 多くの生徒がいる中でも……いや、いるからこそ彼女の透明感のある肌がより一層際立っていた。


 四人一組で棒を持ち、手前のコーンから時計回り反時計回り、最後のコーンはもう一度時計回りしたあと、走ってきた道を戻り出場する生徒たちの足元を通して、頭の上をくぐらせて次の選手に棒を渡す。

 出場する生徒全員で戦わなければいけない種目だ。


 各団、第一走の選手が棒を手に持ち走る体勢を整える。


 空砲と共に、台風の目がスタートした。

お読みいただきありがとうございます。

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