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五人での食事

「悪いね良介くん。わざわざ手伝ってもらって」


「そんなことありませんよ。むしろ今日は僕たちがお邪魔するわけですからこれぐらいは手伝わせてください」


 小さく微笑む圭吾さんに、俺は首を横に振る。

 俺たちの両手はエコバッグで塞がっていて、中には多くの食材が入っている。


 エントランスに入る直前、普段は駐車場に停まっていない一台の軽自動車が駐車されていた。

 いるのか、と俺は横目で確認して、オートロックのドアを通る。


 インターホンを鳴らしてしばらく待つと、優奈が出迎えてくれた。


「お帰りなさい。お父さん買い出しありがとう。良くんもお疲れさまです」


「うん。ただいま」


「おう」


 俺と圭吾さんは靴を並べてリビングへと向かうと、何やら楽しそうな声がキッチンから聞こえた。


「あっ。圭吾さんと良介くんおかえりなさい」


 俺たちの姿が見えた希美さんはいつもの穏やかな微笑を浮かべている。


「お久しぶりです。わざわざ今日はお招きしてもらってありがとうございます」


「いえいえ。希美と一度みんなで食事でもしようと話をしていましたから」


 低姿勢でお礼を口にする母さんに、圭吾さんは凛々しい笑みを浮かべて応じる。


 明日で圭吾さんと希美さんが帰ってしまうということで、今日は天野家の食事に俺と母さんも招待されることになった。俺は二度目なので雰囲気には慣れているが母さんは……


「エプロン姿の優奈ちゃんも可愛いわねー」


 エプロンを身につけた優奈の姿を見て、母さんが笑顔を見せる。ありがとうございます、と優奈は恥ずかしそうにはにかんで、その姿を見た母さんはさらに優奈のことを褒めまくる。


「そんなことを言って沙織さんもとても綺麗ですよ」


「やめてよー。もうそんなこと言われる年齢じゃないんだから。希美ちゃんだって優奈ちゃんと本当にそっくりって思っちゃうくらいに美人さんよ」


「ふふっ。まだまだ娘には負けていられないですから」


 どうやら杞憂だったようだ。むしろ予想以上に希美さんと仲良くなりすぎているまである。年明けに連絡先を交換してからは毎日のようにやり取りをしているらしく、希美さんは今日この日を楽しみにしていたらしい。


 息子の立場からしたら、優奈に会えたことが嬉しいのは大変分かるのだが帰省のときにも会えるだから今日くらいはその気持ちに蓋をして塞いでいてほしいと言うのが本音だ。


「ところで……夕飯の準備はほとんど済んでいるのかな?」


 両手を塞いでいたエコバッグを一旦床に置いて、腰に手を当てて少し伸ばすと圭吾さんが希美さんに尋ねた。


「はい。ちょうど終わったところですから、運ぶのを手伝ってください」


「うん。分かった」


 希美さんの言葉に頷いた圭吾さんはキッチンへと向かう。俺も今日の夕食のメインが気になって、後を追う。

 キッチンにあったのは大きなボールに入っている大量のご飯。僅かだがお酢の匂いが漂ってくる。

 それを筆頭に多くの皿が用意されていて、その上には拍子木切りに切られている野菜や卵焼き、サーモンやマグロのお刺身、他にも牛肉と玉ねぎのしぐれ煮や納豆など種類豊富な具材が用意されていて、すっげ……、と思わず声をこぼす。


「それにしても手巻き寿司なんて豪華よね」


「せっかくみんなで食べるもの。少しでも豪勢にしたいじゃない」


 パンッと手を叩いてそのまま両手を合わせながら、希美さんは笑顔で言った。


 メインの手巻き寿司の他にも、お味噌汁や俺と圭吾さんでスーパーで購入してきた様々なお惣菜。そしておそらく酒のつまみと思われるチーズやハラミなどなど。


 用意された食材を食卓へと運び、エコバッグからお惣菜を取り出して並べていく。

 圭吾さんは冷蔵庫を開けて何かを取り出そうと手を伸ばす。取り出したのはこのときのために冷蔵庫の奥でキンキンに冷やしていた缶ビールだった。それも複数本。


 圭吾さんは缶ビールを希美さんと母さんに一本ずつ手渡していく。


「確か今日は飲まれるとお聞きしたんですけど」


「はい。そのつもりですよ」


「えっ。酒飲んだら運転できないじゃん。どうするんだよ」


「決まってるじゃない。良介の家に泊まるのよ」


「聞いてねぇ……」


「今言ったじゃない」


 母さんはふふっと嬉しそうに笑って、缶を開ける。カシュッといい音を鳴らすと共に、自然発生した泡が蓋から漏れ出していた。母さんに続いて、二人も蓋を開けると、軽く持ち上げる。


 俺と優奈もお茶が入ったグラスを持ち上げて、


「それじゃあ……こうして皆さん揃って食事ができることを祝して、乾杯」


「「「「かんぱーいっ!!」」」」


 圭吾さんの落ち着いた声での音頭のあと、俺たちはこの集まりを楽しむかのような元気な声で続けて言って、最初の一口を口にした。

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