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今後の予定

 夏休みが始まって最初の一週間が経過しようとしていて、七月ももうじき終わりを迎えようとしていた。


 夏休みを満喫しつつ課題や模試の勉強を行っていて、今のところはかなり満足のいく夏休みを送れている。


 現在、俺と優奈は今後の夏休みの予定を調整していた。俺は椅子に腰掛けてスマホのカレンダー帳に、優奈は隣に座っていて手持ちのメモ帳に予定を書き込んでいる。


「じゃあ優奈は今年のお盆も俺の実家で過ごすってことで。確か圭吾さんと希美さんは明後日に帰ってくるんだったよな」


「はい。今年はなんとか長期有給を取れたってお父さんから。なんでも休み分の仕事も昨日までに全部終わらせたらしいです」


「すげーな」


 圭吾さんと希美さんは八月の上旬から一週間ほど日本に戻ってくる予定。そしてお盆は去年と同じく優奈が実家で過ごすことが決定した。こっちも期間は同じくお盆を含めて一週間ほどと考えている。

 

「母さんにも伝えておくよ。言ったら絶対喜ぶから」


 母さんがその場でぴょんぴょん飛び跳ねてる姿が目に浮かんで、俺は口元に笑みをつくる。

 俺には及ばないが、母さんの優奈に対する大好き度も相当なものだ。


「お父さんもお母さんも良くんに会いたいって言っていましたよ。特にお父さんが」


「圭吾さんが?それはありがたいな」


 また仕事のことや優奈や希美さんには言えないことを吐き出したりするのだろう。それだけ俺のことを信頼してくれていることだと思っているし、圭吾さんと話していて俺も楽しい。特に仕事の話は、未知なことだらけでとても面白いのだ。


 それに時々、俺が母さんに言えない悩みを相談したときは親身になって話を聞いてくれてアドバイスもくれる。

 父親がいない俺にとって、圭吾さんがそんな存在に見えるときがある。


「お母さんもまたご馳走作るからぜひ来てくれって」


「希美さんの作る飯も美味いんだよな」


「あとお義母さまも誘ってみんなでどこかご飯にでも行こうって話にもなってるんですよ」


「どんどん予定が埋まっていくな」


 スマホのカレンダー表に次々と新たな予定が追加されていく。お盆を明けてからは斗真や平野さんたちとみんなでバーベキューすることも確定しているので、今年の夏休みは予定がぎっしりと詰め込まれている。


 俺は思わず小さく笑った。


「どうしたんですか?」


「いや。なんか人生が大きく変わったなって思っただけ」


 去年の今頃から変わっていただろうが、どこかへ遊びに行こうと誘うほどの友達はほとんどいなかった。優奈とも目に見える関係で言えばそこまで深い関係ではなかったし、色々と衝突もあった。そのおかげで去年の夏休みの半分以上は家で過ごすことになっていた。


 だが今は、このカレンダー表に埋め尽くされている一つ一つの予定が、今までの積み重ねがあったから生まれたものなのだと、そう強く実感している。


 優奈ともプールには行ったし、また夏祭りにだって行こうとも話している。これだけ充実した夏休みを過ごすことができるなんて、去年までならきっと想像もつかなかった。


 俺は手を伸ばして、優奈の手を包み込むように優しく触れる。お日様のように優しい温もりを感じる。

 この手にどれほどの勇気をもらってきただろうか。支えられただろうか。


「ほんっとうに、優奈に人生変えられちゃったよ。毎日が怖いくらいに楽しいよ」


「それはこっちのセリフですよ。良くんと接するようになって、恋人になって、どれだけ充実した日々を過ごせるようになったと思ってるんですか……」


 優奈は頭を肩に預けてくると、そして僅かに顔を上げてはこちらを見上げてくる。可愛い横顔だな、と声に出して頭を撫でるとくすぐったそうに目を細めていた。


「俺と一緒にいて楽しい?」


「楽しくない……なんて言うと思ってるのですか?」


「言わないだろうなぁ。こんなに俺にべったりなお姫様が」


「良くんがわたしをこうさせたんですからね。良くんから離れられなくなった責任……ちゃんととってくれます……よね?」


 俺を信頼するような瞳を浮かべるが、声音は少し不安そうだった。


「当たり前だろ。こんな可愛くて甘えん坊で俺のことを誰よりも理解してくれるお姫様を手放すと思ってんのか」


 優奈の華奢な身体を持ち上げて、俺の太ももに座らせて向かい合うような体勢をとる。澄んだクリーム色の瞳が目の前にあって、吸い込まれるように見つめてしまう。


「優奈。また俺のものだって印、付けていい?」


 以前付けた跡は時間経過と共に薄れていき、今は完全に散っていった。


「……洋服で隠れるところなら……」


 優奈は首元のトップスを僅かにずらすと、白い肌が顔を覗かせて俺に差し出す。俺は鎖骨あたり唇を数秒ほど当てると、「んっ……」と抑えた声が漏れる。リップ音を鳴らして離れると、以前ほどではないが少し充血した跡が残った。


 俺は優奈の目を見て微笑み頭を撫でてやると、優奈も口元を緩ませた。


「そういえば良くん。明日はオープンキャンパスなんですよね。準備はもう終えているのですか?」


「終わってるよ。だから夏休みの予定を立てて優奈との時間を楽しんでるんじゃないか」


「明日行く大学は午前の部……でしたよね」


「あぁ。でも少し遠いから朝は早く出るし帰りも遅くなるかな。ご飯も外で済ませる予定だから」


「寂しいです……」


「じゃあ寂しくならないように……」


 優奈の頬を軽く撫でてやって、俺は強く抱きしめた。優奈もこちらに応じて強く抱きしめ返してきて、頬を合わせるとまるで小動物ようにスリスリと擦り寄せてきた。


「ふふっ。りょーくん」


「どうした?」


「なんでもないです」


 俺を見つめて穏やかな表情を浮かべると、顔を胸元に埋めてきたので、俺も口元を緩めながらお姫様を思う存分に甘やかしてやった。

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