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姫と眺める景色

色々あって今日はこの時間帯での投稿になります。

「はー。あったかー」


 午後三時。

 俺は深い息を漏らしてそう呟いた。


 ビーチボールで遊んで昼食を食べ終わると、また流れるプールを泳いだりウォータースライダーに乗ったりして屋外プールを満喫した。


 今いる場所は施設の室内にある温水プール。

 流れるプールと同等の水深の二十五メートルの競泳プールに、泳ぎ疲れたときにストレッチやマッサージを行えるバーディプール。ボコボコと音が鳴り気泡を排出しているジャグジープール。

 階段を登れば、天井がガラス張りになっていて景色を一望しながら入れる温泉もある。


 現在優奈とは別行動をとっていて、俺はジャグジープールで浸かっていて、肩や腰に気泡が当てられており程よい刺激が身体に与えられ「あー」と年寄りくさい声を上げた。


 優奈は階段を登った先にある眺めのよい景色を眺めることができる温泉にいた。人は俺たちを含めて二組の家族連れと友達と訪れている女性の姿しかいないので、午前中のようなことは起きないだろう。


 今日は楽しかったなぁと、両手両足を大きく伸ばす。優奈とこうしてプールに遊びに行けたことはいい思い出になった。


 だがそれだけに、正午前に優奈にちょっかいをかけてきた男たちとの一件は、楽しい空気をしらけさせるような出来事だった。


 優奈が普段出かけるときは、お揃いのシルバーリングと俺がプレゼントした指輪を身につけている。

 もちろんお洒落で付けてくれているのだが、それは同時に優奈には俺がいるという、ナンパ防止の役割も担ってくれていた。


 そのため、最近では一人街中を歩くことがあっても声をかけられることはなかったと優奈は言っていたが、大型プール施設のような肌を露出している場所は怪我をさせる可能性かあるので外さなくてはいけない。それに万が一錆びてしまったり紛失しては困ると、優奈も更衣室のロッカーに閉まっているそうだ。


 そうなってしまえば、また以前のように声をかけられることが増えてしまうのは当然のことだ。

 久しくあの光景を見ていなかっただけに、現場を目撃したときは、途端に頭と身体の熱があっという間に上昇してしまって、自分を落ち着かせるのに必死だった。


 なんとか追い払えたので良かったが、今でもあの二人組のニヤついた顔が脳裏を掠めて、俺は誰にも聞かれない程度の舌打ちを鳴らす。


 やはり優奈を一人で行かせてしまったのが原因だよなぁ。そういう可能性もあるからと一緒に行くべきだったよなぁ。などと脳内反省会を勝手に開きながら俺はジャグジープールから上がって、階段を登り優奈のいる温泉へと向かう。


 その温泉には優奈一人だけがいた。


「優奈」


 彼女の名前を呼ぶと、優奈は振り返って柔和に微笑んだ。

 俺も温泉の湯船に入って優奈の隣に移動する。


「隣、座ってもいい?」


「はい。いいですよ」


「それじゃあ失礼して」


 俺はゆっくりと腰を下ろして、肩までお湯に浸かった。ジャグジープールほどの水温でちょうど良い温かさが全身を包み込んでいた。


 長い間ここに浸かっていたのか、優奈の頬は若干紅色に赤らんでいる。お風呂上がりの優奈の姿は見たことはあるが、こうして身体の隅々を温水に浸からせてくつろいでいる優奈の姿を見るのは、これが初めてだった。


 それも相まって、熱っぽい吐息を漏らした優奈の姿がとても色っぽく刺激的に見えた。


「優奈。今日は楽しかった?」


「はい。とっても楽しかったです」


「そうか。なら良かった」


「流れるプールで泳いだり、一緒にウォータースライダーに乗ったり、造波プールで波を感じながら水を掛け合いっこしたり。最高の一日でした」


 優奈の曇りのない純粋な笑顔は、その言葉が嘘ではないことを物語っていて、改めて今日は来て良かったなと、安堵の息を吐いた。


「でも、一番は……今日こうして良くんと一緒に遊びに来られたことです」


 優奈は僅かにこちらに近づいて、


「だから……今日はありがとう。良くん」


 そう言って、さっき以上のお姫様の異名に相応しい蕩けながらも極上の笑みを俺に向けた。


「な、なんか改めて面と向かって、そんな笑顔でお礼なんか言われたら照れる」


 俺は慌ててそっぽを向いて優奈から視線を逸らした。


「なんで顔逸らしちゃうんですか。こっち見てくださいよ」


「絶対嫌だよ。変な顔なってるから」


「もー……えいっ」


 パシャリと優奈から温水がかけられる。

 顔を狙ってかけた優奈の温水は見事に直撃して、手で顔を拭うと慌てて優奈の方を向く。


「こっち。向いてくれましたね」


 優奈は水をかける手を止めた。


「守ってくれる良くんはもちろんカッコいいですけど、今みたいに照れてる良くんは凄い可愛いです」


 もう一度微笑みを浮かべると、優奈は視線を景色へと移す。それに釣られて俺も前を向いた。


 どこまでも続いている空には雲が何一つ見当たらない。ここから見える海や山の美しい景色を目に焼き付けるように見つめながら、俺たちはのんびりと浸かっていた。

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