姫の水着姿(本物)
二日後――
「んー。着いたー」
夏休みのレジャーの定番であるプール。
その施設がある建物に着いた俺たちだったが、目の前に佇む建物の大きさに度肝を抜かれていた。施設内からはとても楽しそうな悲鳴が聞こえてくる。
今も施設内に入場していく客も多くいるので、俺たちも中に入って受付を済ませていく。
「良くん。待ち合わせ場所は昨日話していたところで」
「ん。了解。それじゃあまた後でな」
優奈と別れた俺は、早速更衣室の中へと入っていき会いているロッカーにお金を入れて、水着へと着替え始める。
今日持ってきた水着は、斗真が似合うと言って選んでくれたボタニカル柄の水色の水着だ。最後の最後までどちらにするか悩んだのだが、プールに合った色にしようという結論にまで辿り着いて、この水着にしたのだ。
特に苦しかったり緩かったりもせず、動きやすい。この日のためにランニングや筋トレを頑張っていたおかげか、腹筋も程よい感じで縦線が入っている。とりあえずは人前に出ても恥ずかしくはない筋肉は付いているはずだ。
スマホと昼食や飲み物、遊具を買う程度のお金を完全防水のウエストポーチの中へとしまう。
このような施設内でも窃盗被害は後を絶たないと聞く。それを防ぐためにも自分が肌身離さず持っているようにしなければならない。
今身につけているウエストポーチは動きに問題を与えるというわけでもなく、機能性やデザインも気に入っている。
(それにしても……チャラいなー)
更衣室をぐるりと見渡して、俺は苦笑を浮かべずにはいられなかった。
もちろん全員がそうというわけではない。
この更衣室で着替えているほとんどは親子だったり友人同士と訪れているようなのだが、俺が思ったのはそのほとんどに該当しない男性たちのことである。
髪は派手に染めていて、耳にはピアスが開けられている。雰囲気だけで大学生ということが一目で分かった。何やら楽しげに話しているようだがこちらとしては迷惑極まりなく、近くで着替えていた人たちは彼らと関わらないように、通り過ぎて行く。
もしかすると優奈も着替えを終えて先に待っているかもしれないので、関わらないようにしようと決めて、俺もプールへと向かった。
待ち合わせ場所に設定した広場の時計台の元へと向かうが、優奈はまだ来ていなかった。
やはり準備に時間がかかっているのだろう。水着に着替えるのだって大変だろうし、紫外線予防のケアも行っている。男子更衣室もかなり混んでいたので、女子更衣室も同じかそれ以上と言ったところか。
優奈が来るまで軽くストレッチを行い時間を潰していた。
待ち合わせ場所に着いてから三分ほど経過した頃だった。
「ねぇあの子。めっちゃ可愛くない?」
「本当だ。誰と来てるのかな?やっぱり彼氏?」
「そうでしょ。だってあれだけ可愛いんだもん。絶対に男いるって」
途端に広場が騒がしくなる。
以前ならば、何事かと俺も視線を向けていたのだろうが、慣れた今となってはもはやそれが良い合図になっている。
「良くん。お待たせしました」
「おう。俺もさっき来たとこだから」
いつもより早い足取りで向かってきた優奈に、俺は淡く微笑む。
目の前に現れた優奈の水着姿に、俺は言葉を失ってしまう。
髪は動きやすいように高い位置でポニーテールに結んでいる。それによりいつも隠れている首筋が曝け出されていていて、色っぽさを感じた。
透き通るように美しく、汚れを知らない純白の肌は、レジャー施設の大型プールという賑やかな色が多いのも相まって、その白さが際立っている。その綺麗な肌を保たれているのも、日頃の努力があってこそだ。
日頃から抱きしめたりしているので分かってはいたのだが、こうして見ると改めて華奢な身体つきだと思う。腰回りはくびれていて無駄な肉は一切見当たらない。
胸元は水色の生地のビキニでしっかりと覆われていて、あしらわれているフリルが可愛らしい。実っている二つの果実は手のひらに収まる大きさで、正面から覗く谷間に思わず視線を向けそうになってしまう。
夏とはいえ、人の視線が集まりやすいプールだ。加えて露出をあまり好まない優奈なので、ワンピースを着てくるのだろうと勝手に思っていただけに、俺の中で色々と整理を行っていた。
水着の上からはパーカー型の長袖のラッシュガードを羽織っているので、今はそれほどまで露出はなかった。
それでも元より優奈が持っている可愛らしさと上品さはこの大型プールでも一人抜きん出ている。加えて無防備に曝け出されているうなじや、隠れていないスラリと伸びた綺麗な脚に、やはり周りからの視線は集まりざるを得なかった。
当の優奈はそんな視線を気にすることもなく、ただただ不安そうな目でこちらを見つめている。
「どう……ですか?似合ってますか?」
どうやら周りの視線よりも、俺の感想が聞きたいらしい。それも上目遣いで見てくるのだから尚更タチが悪い。
「い、言わなくても分かるだろ」
このまま直視をしていては意識が持たんと、俺は思わず目を逸らす。俺自身、優奈がここまで露出している姿を見たのは、今が初めてなのだ。
以前、斗真に「二人ってどこまで進んでんの?」と直球ど真ん中に投げ込まれたことがある。答えると「良介ってチキンだよな」と若干小馬鹿にしたように笑ってきたので、デコピンを喰らわせた。
俺としては、優奈と恋人として過ごせているだけで十分満足しているので、それ以上は求めていない。
もちろん興味はある。だが、優奈に拒絶されると考えるとどうしても踏み込めない。今はゆっくりとこの時間を楽しんでいたいのだ。
なので、目の前にいる水着姿の優奈を直視できないのは当然だと、身体に火照った感覚を感じながら、勝手に言い訳を並べていた。
「言ってくれないと……分からないです……」
「……似合ってる……」
「聞こえないです。わたしの目を見て言ってください」
聞こえてんじゃん。と文句を垂れるが、逸らしていた視線を優奈に向けると口元を手で覆って、
「めっちゃ似合ってる。もう思わずニヤけてしまいそうなほどに似合ってる」
照れを隠すように感想を口にすると、優奈は安堵したようにやっといつもの笑顔に変わる。その笑顔と水着姿のダブルパンチに俺はもうノックアウト寸前であった。
「この水着……良くんが喜んでくれると思って買ったんですよ。喜んで、くれていますか?」
少し前屈みになって優奈は俺の様子を覗き込む。そのせいで果実の谷間がより強調される。たまらず目を逸らすが、今の光景が俺の記憶に強く残ってしまったようだ。
「うん。めっちゃ喜んでる」
「もっと見てもいいんですよ?ううん。もっと見てほしい。良くんだけに」
「……そこまで言うんなら俺が満足するまで見させてもらうぞ。見過ぎとか言っても知らないからな」
「それで良くんの思い出に残るなら、いくらでも見ていいですよ」
蠱惑的に微笑む優奈がとてもズルくて、そして可愛いと強く思った。林檎みたいに顔を真っ赤にして、自分が言った恥ずかしい言葉に後悔している様子を見せるその姿も全部。
「貴重品とか持ってるだろ。貸して、ウエストポーチに入れるから」
「ありがとうございます」
優奈のスマホをしっかりとポーチに入れたことを確認して、優奈に向けて手を伸ばす。優奈もそれを離さないように握りしめる。
見下ろせば、やはり胸元に目がいってしまった。
「良くん。その……さっきから……わたしの胸元ばかり見てますよね……?」
「ば、バレてた?」
「女の子はそういう視線には結構敏感なんですよ」
「でもさ。見てもいいって言ってたじゃん」
「そ、そうですけど……それはわたしを見てほしいって意味で、胸元って意味じゃ……えっち。良くんのえっち」
「それは好きな女の子のそういう部分は……男は見ちゃうもんだろ……」
大きいのと小さいの、どちらが好きかと言われると、今の俺ならば即答で優奈のと答えられる自信まである。こんなことは絶対に誰にも言わないが。
「そんなえっちな良くんには罰を与えます」
「え、なにそれ。めっちゃ理不尽」
だがそれは、罰ゲームとは程遠いものだった。
優奈が俺の腕に抱きついてきて、身体を押し当ててくる。格好が水着のため、以前抱きつかれたよりも二つの柔らかな感触がより強く伝わった。
「これ……罰なのか?」
「何か不満でもありますか?」
「いやこれ罰じゃなくてさ……」
「嫌ならもっとひどーい罰にしますよ」
「いえ。とんでもございません。これでいいです。これがいいです」
罰どころか俺にとってはむしろご褒美なんだよなぁと、今度は胸元を視界に入れないようにして優奈の表情を窺うと、嬉しそうに歩いている顔が見ることができた。
お読みいただきありがとうございます。
明日は都合により投稿お休みにします。
すみません。




